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自己資本比率が高すぎると資金繰りは悪くなる

自己資本比率が高すぎると資金繰りは悪くなる

自己資本比率は高いほどよい、という考え方もありますが。実は、自己資本比率が高すぎると資金繰りは悪くなる。という話を、具体例をまじえながら確認していきましょう。

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いやいや、そんなバカな

会社の財務状態をはかる指標の1つに、自己資本比率があります。財務指標のなかでも、とりわけ有名なものであり、社長であれば必ずいちどは見聞きしたことがあるでしょう。

ちなみに、自己資本比率を算式であらわすと「自己資本(純資産)÷総資産(総資本)」です。

そんな自己資本比率の目安として、たとえば「30%以上で安全、50%以上で優良、70%以上で超優良」などといわれたりします。だとすれば、自己資本比率は高いほどよいのか?

必ずしもそうとはいえません。むしろ、自己資本比率が高すぎると資金繰りは悪くなるとさえいえます。「いやいや、そんなバカなことがあってたまるか」と、おもわれるかもしれません。

というわけで、自己資本比率が高すぎると資金繰りは悪くなる、その具体例を確認してみることにしましょう。

自己資本比率が高すぎると資金繰りは悪くなる具体例

例1・銀行借入しない

銀行借入をすると、自己資本比率は低くなります。借入によって総資産が増えることで、総資産に占める自己資本の割合が低下するからです。

たとえば、自己資本2,000万円、総資産1億円の会社があったとして(自己資本比率20%)。1,000万円の借入をするとどうなるか。自己資本2,000万円、総資産1億1,000万円ですから、自己資本比率は18.18%になります。

というように、自己資本比率は低下したわけですが、会社は手元資金1,000万円を増やすことができました。総資産1億円の会社にとっては、けして小さくはない「余裕」になるはずです。

逆に、借入をせずに、自己資金が1,000万円少なければ、その分だけ資金繰りは悪くなるし、いざというときに資金不足となる可能性が高まります。

自己資本比率の低下を嫌うあまり、必要な借入を避け、資金不足を起こして倒産しているようでは元も子もありません。自己資本比率ばかりではなく、資金繰りにも目を向けましょう。

例2・繰り上げ返済する

手元資金に余裕ができると、すぐに繰り上げ返済しようとする社長がいます。借入をすれば、自己資本比率が低下するのと反対に、返済をすれば、自己資本比率を高くすることができるからです。

では、繰り上げ返済することで、自己資本比率はどれくらい高くなるのか。前述した「例1」を逆に考えてみればわかるでしょう。

つまり、自己資本2,000万円、総資産1億1,000万円の会社が、1,000万円繰り上げ返済したらどうなるか。自己資本比率は18.18%から20%に上昇します。

これを見て、「1.82%も上がったじゃないか」という社長もいるかもしれませんが。それよりも、手元資金が1,000万円も減ったほうに目を向けたほうがよいでしょう。

繰り返しになりますが、総資産1億円の会社にとって、手元資金1,000万円があるか・ないかは、資金繰りの良し悪しに差を生じさせることになるはずだからです。

例3・売掛金や在庫を減らす

いっぱんに、「売掛金や在庫は減らしましょう」といったアドバイスがあります。売掛金も在庫も、おカネになるのを待っている状態であり、資金繰りを悪くする原因になるからです。

そこで、売掛金や在庫を減らすことで、資金繰りは良くなります。

たとえば、売掛金が500万円あるとして。そのうち300万円を回収できれば、手元資金は300万円増えますから、たしかに資金繰りが良くなることがわかるでしょう。

また、在庫(棚卸資産)が500万円あるとして。そのうち300万円を売却できれば、手元資金は300万円増えますから、やっぱり資金繰りが良くなることがわかるでしょう。

ところがもし、お客さま(売上先)に「早くおカネを払え」と無理強いするようなら、お客さまが離れていく可能性があります。結果、売上・利益が減って、資金繰りは悪くなってしまいます。

また、在庫を減らすことで、売り逃しが生じるかもしれません。品種を絞るようだと、「品揃えが悪くなった」と客離れが起きるかもしれません。やはり、売上・利益が減って、資金繰りは悪くなってしまいます。

したがって、売掛金や在庫は、必ずしも減らせばよいわけではありません。むしろ、増やしたほうがよいケースもあるのです。

例4・社長が増資する

増資、つまり、資本金を増やせば、自己資本の金額が増えるので、自己資本比率は高まります。そこで、社長が個人のおカネを出資して、増資をすればよいのでは?

たしかに、増資によって自己資本比率は高まります。ですが、いっぽうで、社長個人のおカネは減ってしまうのが問題です。会社のいざというときに、社長が工面できなくなってしまいます。

中小企業は、会社と社長が一心同体です。事実、「株主=社長」であり、会社がピンチのときには、社長が個人のおカネを会社に貸し付けることで、ピンチをしのぐのはよくあることです。

そういう意味では、社長個人のおカネが、会社の資金繰りを守る「さいごの砦」となります。

にもかかわらず、カンタンに増資をしてしまってよいのですか?自己資本比率が下がるとしても、銀行から借入することで、社長個人のおカネを温存したほうがよいのではないですか?という考え方も、覚えておくとよいでしょう。

それなら自己資本比率の目安とは

自己資本比率が高すぎると資金繰りは悪くなる具体例を、確認してきました。とはいえ、それならいったい自己資本比率をどう考えればよいのか?どれくらいを目安にすればよいのか?

ずばり、20%が1つの目安となります。つまり、自己資本比率が20%を超えていれば「まずまず」と考えてよい、ということです。

融資制度のなかには、自己資本比率20%以上を要件としているものがあるため、金融機関から見ても、自己資本比率20%以上は「合格ライン」になるものと考えられます。

いっぽうで、いくら自己資本比率が高くても(借入が少なくても)、手元資金が少ない会社を銀行は嫌うものです。資金ショートの可能性が高い、銀行はそのように見ています。

ただし、自己資本比率が低すぎるのも問題であり、その目安は10%です。実際、自己資本比率がひと桁台の会社は倒産が増える、というデータがあります。

銀行もそのようなデータを知っているので、自己資本比率が10%未満の会社には、融資を躊躇しがちになるものです。

以上をふまえて、自己資本比率は「20%を超えるくらい」を目安に考えるとよいでしょう。自己資本比率は高いに越したことはありませんが、資金繰りとの兼ね合いが重要です。

いくら自己資本比率が高くとも、資金繰りを悪くしているのでは本末転倒だといえます。

まとめ

自己資本比率は高いほどよい、という考え方もありますが。実は、自己資本比率が高すぎると資金繰りは悪くなる。という話を、具体例をまじえながら確認してきました。

自己資本比率が低すぎるのも問題ですが、高すぎれば資金繰りが悪くなることも理解して、ほどほどの自己資本比率を目指すようにしましょう。自己資本比率は高いほどよいわけではありません。

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