銀行に決算書すべてを渡すな!という謎アドバイス

銀行に決算書すべてを渡すな!という謎アドバイス

銀行に決算書すべてを渡すな、というアドバイスがあります。そのほうが、銀行交渉するうえで、自社が優位になるからです。って、それは本当なのかどうなのか?についてお話をしていきます。

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ちまたには、謎アドバイスがある。

会社の銀行融資・銀行対応について。ちまたには、「決算書すべてを銀行に渡すな」というアドバイスがあると聞きます。

会社は、毎年決算がおわると、取引銀行から「決算書(のコピー)をください」といわれるわけですが、そのときに決算書すべてを渡さないほうがいい、ということです。

ちなみに、ここでいう「決算書」とは、いわゆる「決算書一式」のことであり、貸借対照表や損益計算書のほか、税務署に提出した法人税申告書や、勘定科目内訳明細書、法人事業概況説明書などが含まれます。

この点、前述した「決算書すべてを銀行に渡すな」のアドバイスによれば、銀行には「貸借対照表と損益計算書だけを渡せばいい」ということになるようです。はたして、それでよいのか?

結論、銀行には決算書すべてを渡すのがおすすめです。ではなぜ、「すべてを渡すな」などという謎アドバイスが存在するのか。そのあたり、このあとくわしくお話をしていきます。

銀行に対しては、協力が大前提

そもそもなぜ、「決算書すべてを銀行に渡すな」といわれるのか。端的にいえば、「銀行に情報を渡しすぎると、銀行交渉において自社が不利になるから」というのが理由です。

たとえば、勘定科目内訳明細書のうち、「借入金」の明細書には、銀行ごとの借入金残高や金利などの情報が記載されます。このうち、金利などは「仕入値」のようなものであり、それがあきらかになれば、各銀行から足元を見られかねない…

というのは、もっともらしいハナシではありますが。もともと、銀行に対しては協力が大前提です。いいかえると、情報開示が大前提です。銀行とは、はじめからそういう約束になっています。

そんな約束したっけか?と、おもわれるかもしれませんが。融資を受けることになったときには、各銀行と「銀行取引約定書」を締結しているはずです。そこにはおおむね、次のようなことが書かれています↓

  • 甲(会社)は、貸借対照表、損益計算書等の甲の財産、経営、業況等を示す書類を、定期的に乙(銀行)に提出するものとします。
  • 甲(会社)の財産、経営、業況等について乙(銀行)からの請求があったときは、甲(会社)は、遅滞なく報告し、また調査に必要な便益を提供するものとします。

そのうえで、これらの約束に違反したときには、「期限の利益を喪失する(貸したおカネはすぐに返してもらうことができる)」とも、書かれているはずです。

だとすれば、銀行は「決算書すべて見せて」といえるのであり、会社としてはいわれたら従わざるをえない状況でもあります。

法人税申告書や勘定科目内訳明細書、法人事業概況説明書などは、銀行が見たい情報ですから、それらを渡さずにいれば、「見せてほしい」といわれるものでしょう。

そのときに、「イヤだ」というのであれば、上記の約束を破る「覚悟」が必要です。

不審におもわれる分だけ不利益

銀行取引約定書があるとはいえ、それでもなお、「決算書すべてを銀行に渡さない」という選択は可能です。銀行も、それだけを理由に「期限の利益の喪失」を主張するのも現実的ではありません。

とはいえ、融資の可否を決めるのは銀行です。なので、銀行は「決算書すべてを見せてくれないなら貸さない」という選択をすることができます。疑わしきは罰せよ、です。

本来、決算書一式について、銀行に見られて困るようなことはありません。それを見せられないというのであれば、なにか「やましいことがあるのでは?」と、銀行が考えるのは当然でしょう。

たとえば、売掛金のなかに不良債権や架空債権が混じっているのかもしれない。だから、勘定科目内訳明細書を見せたくないのではないか。などといった、想像をするのが銀行です。

ゆえに、決算書すべてを渡さなければ、不審におもわれる分だけ、融資は受けにくくなります。

でも、銀行に見せたら、自社にとって不利になることだってあるだろう。と、おもわれるかもしれません。借入金利を知られたら、高い金利にあわせられてしまうじゃないか、とか。

たしかに、そういうこともあるでしょう。ただそれでも、事業の成長にとりくみ、業績改善につとめているのであれば、必要以上に金利が上がることはありませんし、各銀行の金利をオープンにしたうえで、金利交渉をするのが筋だというのが私見です。

自社の借入金利を銀行に知られると、不利益になると考えるのであれば、その前提(業績が悪い、改善にとりくんでいないなど)に問題があるといってよいでしょう。

繰り返しになりますが、本来、決算書一式について、銀行に見られて困るようなことはありません。見られて困るのであれば、その原因を解消することが大切です。

情報が多いほど柔軟な対応を期待できる

銀行に対しては、提供する情報が多いほど、柔軟な対応を期待できます。たとえば、決算書一式に含まれる法人事業概況説明書には、月ごとの売上高が掲載されています。

そこから、銀行が「季節変動」を読み取ることができれば、季節変動による運転資金の変動を加味した融資を提案してもらうこともできるでしょう。

逆に、情報がなく、銀行が季節変動を読み取ることができないと、決算書や試算表などの「一時点」のみから見た運転資金しか考えることはできません。

会社としては、売上が多い時期には、より多くの運転資金を必要としますが、銀行が売上が少ない時期の決算書や試算表しか見ていなければ、少ない運転資金しか融資を受けられない…ということです。

また、勘定科目内訳明細書には、売上先や仕入先の名称が記載されます。そこから、自社の商品力や営業力・技術力の評価につながり、よりよい条件での融資を引き出せることはあるものです。

さらには、銀行がビジネスモデルを理解して、売上先や仕入先の紹介といったビジネスマッチングを支援してくれる例もあります。

ところが、勘定科目内訳明細書を渡すのを拒んでいれば、そのような機会を逃してしまうかもしれません。会社にとっては、そのほうが不利益というものです。

銀行に対しては、提供する情報が多いほど、柔軟な対応を期待できるものと考えておきましょう。それが、銀行に決算書すべてを渡す動機にもなるはずです。

まとめ

銀行に決算書すべてを渡すな、というアドバイスがあります。そのほうが、銀行交渉するうえで、自社が優位になるからです。って、それは本当なのかどうなのか?についてお話をしました。

結論、銀行には決算書すべてを渡すのがおすすめです。その理由を、押さえておきましょう。決算書はすべてを銀行に渡すことで、むしろ、融資は受けやすくなるものです。

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