社長にとって、財務改善は大事な仕事の1つです。とはいえ、財務改善とはどのように進めればよいのか。財務改善の優先順位について、決算書のどこをどう見るかをお話ししていきます。
経理と財務の違いとは
経理と財務、という言葉があります。このうち、経理は「過去」のおカネを扱う手段であり、財務は「未来」のおカネを扱う手段です。
だとすれば、決算書をつくることは経理の延長であって、財務ではありません。いっぽうで、決算書の内容をもっと良くしようと考えるのであれば、それは財務だといえます。
もちろん、決算書をもっと良くするのは重要なことであり、それを「財務改善」と呼ぶのであれば、社長はいったい、どのように財務改善を進めればよいのか?
決算書を見れば、たくさんの勘定科目が並んでいるし、どこを優先的に改善していけばよいのかわからない。決算書のどこをどう見ればいいのかもわからない…
との悩みは、ときおり見聞きするところです。というわけで、このあと、財務改善の優先順位についてお話をしていきます。具体的には、次のとおりです↓
- 預金を増やす
- 利益を増やす
- 借入を増やす
- 自己資本を増やす
- 事業に投資する
それでは、順番に確認をしていきましょう。
財務改善の優先順位
1.預金を増やす
財務改善をはじめるうえで、まず確認すべきは「預金残高」です。決算書であれば、勘定科目「預金」の金額を確認してみましょう。目安としては、「平均月商(年間売上高÷12か月)の2か月分以上あるか」どうかです。そこが、最低ラインになります。
最低ラインをクリアしていれば、次に目指すのは「平均月商の3か月分」です。そのうえで、最終的には「平均月商の6か月」を目指します。
おカネ(預金)が尽きたときが会社のおしまいなのですから、「平均月商の2か月分」の預金は確保しておきたいところです。加えて、平均月商3〜6ヶ月分の預金があると、事業の維持・成長がよりスムーズになるでしょう。
この点、社長が預金をあまり見ていないことは、意外とあるものです。つまり、預金残高に対する目標がない。あるべき預金残高の目安を持てていない。結果、預金が過少になっている会社は少なくありません。
2.利益を増やす
では、預金残高を増やすにはどうしたらよいのか?真っ先に思い浮かべるのは、利益を増やすことでしょう。ところが、実際には利益を減らそうとする社長がいるのが現実です。
なぜなら、利益を増やすと税金が増えるから。すると、税金を減らすために利益を減らそうとする社長もいるわけです。節税も否定はしませんが、まずは前述した「預金を増やす」ことをかんがえましょう。節税するらならそのあとです。
なので、いまの預金残高が、平均月商の6か月分を超えているかどうか。超えていないのであれば、節税をするよりも、出せる利益はおしまず出して、税金を納めることをおすすめします。
いやいや、そんなもったいない…と、おもわれるかもしれませんが。実は、節税をするほうがもったいないことも理解しておきましょう。たとえば、税率30%で100万円の利益だとすれば、税金を納めたあと、手元に残るおカネは70万円です(利益100万円−税金30万円)。
ここで、税金30万円を嫌って、経費を100万円増やしたらどうでしょう。利益はゼロなので、税金はゼロになりますが、手元に残るおカネもゼロになってしまいます。これでは、預金も増えません。
3.借入を増やす
財務改善の優先順位は、まず預金だといいました。その預金を増やすには、利益を増やすことだともいいました。とはいえ、利益だけで預金を増やすにも限界があります。
平均月商の3か月分、6か月分の預金を貯めようとおもうとなおさらです。ではどうするか?
借入を増やすことを考えましょう。銀行から借入をすることで、預金残高を増やすのです。というと、「借金をするのはイヤ、借金が増えるのはイヤ」という社長がいます。
気持ちはわかりますが、財務は感情ではなく、勘定で考えましょう。借入をしたからといって、借金だけが増えるわけではありません。借金の額と同額の預金が増えるのですから、その借金はないのといっしょです。
利息がもったいないとおもわれるかもしれませんが。わずかな利息を惜しむあまり、手元の預金が過少となり、社長が資金繰りに奔走しているようでは、余計に高くつきます(社長の報酬を時間給に換算したら…)。
また、借入は信用の証でもあるのです。1億円の借入がある会社は、1億円の借入ができるほどの信用がある会社だということでもあります。だとすれば、その信用を商売に活かすこともできるはずです。借入を「単なる借金」とは考えないようにしましょう。
なお、銀行から借入をするためには、利益が必要です。銀行には「利益=返済力」という見方があります。ゆえに、財務改善の優先順位としては、「利益を増やす」ことが先になるのです。
4.自己資本を増やす
自己資本とは、決算書(貸借対照表)でいうと「純資産」にあたります。もう少し具体的にいうと、「資本金+利益剰余金」です。自己資本とは、誰にも返す必要のないおカネをあらわすものであり、自己資本は多いほうがよいとの見方があります。
指標としては、自己資本比率(自己資本÷総資本)が有名です。自己資本比率を高めましょう!というハナシは、聞いたことがあるでしょう。ですが、前述したように「借入を増やす」と、自己資本比率が下がってしまいます。
これを嫌って、借入を避ける社長はいるものです(繰り上げ返済をしたがるとか)。が、優先順位を考えましょう。まずは、借入を増やすほうが先です。預金を増やすために、借入を増やしましょう。自己資本を増やすのであれば、そのあとです。
この順序が逆になると、預金が過少になります。自己資本比率が高くても、資金繰りが厳しいのでは、なんのための財務改善かわかりません。
もちろん、自己資本比率が低すぎるのも問題ですが。10%を切らないようにすること、できれば20%くらいは確保できるとよいでしょう。そのうえで、じゅうぶんな預金を持てるようになったら、最終的には30%超えを狙います。
もっとも、前述した「利益を増やす」という改善に取り組む限り、利益剰余金が増えますから、おのずと自己資本比率は高まるものです。
5.事業に投資する
ここまで、4つの財務改善についてお話をしました。結果、預金も増やした、利益も増やした、借入も増やした、自己資本も増やした。では、どうするか?
ここからは、「より積極的」に事業に投資をしていきましょう。将来の利益を増やすための、設備投資や、人材育成、商品開発などに関する投資を増やしていく、ということです。
4つの財務改善をおえたあとであれば、手元には潤沢な預金もあるはずですから、積極的な投資もしやすくなります。逆に、手元におカネがなく、事業に投資ができなくなると、いまはよくても将来はジリ貧となるのが問題です。
目安としては、平均月商3〜6か月分の預金残高を維持しながら、事業に投資をしていく(おカネを使っていく)ことになります。ポイントは「預金残高を維持」です。
そのためには、やはり借入を活用することになります。そのうえで、平均月商の6か月分の預金残高を超えて、預金が増えていく(=利益が増えている)というのであれば、そのときは預金残高を維持しながら借入を減らしていくのがよいでしょう。
くれぐれも、借入を減らすのが早すぎることがないように。優先順位の間違いに、注意が必要です。
まとめ
社長にとって、財務改善は大事な仕事の1つです。とはいえ、財務改善とはどのように進めればよいのか。悩まれるようであれば今回のお話を参考に、財務改善の優先順位について、決算書のどこをどう見るかを押さえておきましょう。
- 預金を増やす
- 利益を増やす
- 借入を増やす
- 自己資本を増やす
- 事業に投資する