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借入金が月商の6倍を超えていると危ないのか?

借入金が月商の6倍を超えていると危ないのか?

ちまたには、借入金が月商(年間売上高÷12)の6倍を超えていると危険だ、という目安がありますが。実際にはそうとも言い切れない、むしろ、その考え方のほうが危険だというお話をします。

目次

借入金月商倍率だけを見るほうが危険

会社の決算書について、「借入金が多すぎるのは危ない」というハナシがあります。いわゆる過剰債務であり、だとすれば倒産の兆候ともいえる。みたいなハナシです。

この点、借入金の多少をはかる指標として「借入金月商倍率」があります。算式であらわすと次のとおりです↓

借入金月商倍率 =「借入金 ÷(年間売上高 ÷ 12)」

このとおり、借入金が平均月商(年間売上高 ÷ 12)の何か月分あるのかをあらわしています。そのうえで、借入金月商倍率が「3倍以内であれば安全、6倍を超えるようなら危険」というのが、一般的な目安です。

たしかに、6倍といえば「借入金が年間売上高の半分もある」のですから、危険におもえます。事実、借入金月商倍率を目安に、過剰債務の心配をされる社長もいます。

結論、借入金月商倍率が6倍を超えているからといって、必ずしも過剰債務とはいえず、必ずしも危ないわけではありません。借入金月商倍率は見るべき指標のひとつではあるものの、それだけをもって、借入金の多少をはかるものではない、ということです。

むしろ、借入金月商倍率だけを見るという、その見方のほうが危険だともいえます。では、借入金月商倍率のほかに何を見ればよいのか?

預金と経常運転資金を引いてみる

借入金がいくらあるかは、決算書や試算表の「借入金」を見ればわかります。では仮に、借入金の額が1億円、年間売上高も1億円の会社があったとしてみましょう。

借入金月商倍率でいえば12か月です。これはもう、メチャメチャにヤバいんじゃないの?と、おもわれるかもしれませんが、預金も1億円あったらどうでしょう。

預金=借入金であり、預金でいつでも借入金を完済できるのですから、借入金は無いのといっしょです。だとすれば、全然ヤバくはないんじゃね?と考えることもできるはずです。

いやいや、そんな会社あります?ともおもわれるかもしれませんが。この手の「バランス」の会社を、わたしは実際に目にしています。「預金 ≒ 借入金 ≒ 年間売上高」の会社は、実際に存在するのです。

これは、借入金月商倍率が6倍を超えてもなお、銀行からの借入は可能だということでもあります。

なので、「預金 ≒ 借入金 ≒ 年間売上高」ほどまでに預金はないにしても、「預金は借入金から差し引いてみる」という考え方はもっておくようにしましょう。でないと、本当は過剰債務ではないのに、借入金が多いだけをもって過剰債務との誤解をしてしまいます。

さらに、借入金から差し引いてみるものとして「経常運転資金」が挙げられます。経常運転資金とは「売掛金+棚卸資産−買掛金」で計算される金額です。決算書や試算表を見ながら、計算してみましょう。

たとえば、借入金が5,000万円、経常運転資金が2,000万円であれば、「5,000万円−2,000万円=3,000万円」が、実質的な借入金だという見方になります。

なぜ、そんな見方ができるのか?まずは、経常運転資金のうち売掛金と棚卸資産に注目してみましょう。これらはどちらも、近いうちに現金化される金額です。売掛金は売上代金の未回収額であり、棚卸資産は未販売の在庫をあらわしています。

というわけで、近いうちに現金化されるのであれば、現金といっしょ。だとすれば、さきほど、借入金から預金を差し引いたのと同じです。経常運転資金分の借入金は無いものとして、借入金から差し引いて考えることになります。

なお、経常運転資金の算式で買掛金をマイナスしているのは、買掛金が売掛金とは逆のものだからです。仕入代金の支払いを待ってもらっている金額なので、売掛金と相殺をするという考え方になります。

以上をふまえて、借入金については、預金と経常運転資金を差し引くという見方を覚えておきましょう。これを知らずに、借入金だけを見ていると、過剰債務を見誤ります。

インタレスト・カバレッジ・レシオも見てみよう

過剰債務の見極め方として、もうひとつ。インタレスト・カバレッジ・レシオについても、押さえておきましょう。といわれても、インタレスト・カバレッジ・レシオって何!?と、驚いてしまうかもしれません。たしかに、大仰な名称です。

インタレスト・カバレッジ・レシオとは、算式であらわすと「営業利益 ÷ 支払利息」になります。つまり、営業利益は支払利息の何倍あるのですか?という指標です。

結論、2倍以上が安全の目安であり、1倍未満は危険だと見られます。1倍未満ということは、営業利益(売上高−売上原価−販売管理費)では、支払利息をまかなえない…ということです。結果として、経常利益(営業利益−支払利息)は赤字になります。

だとすれば、自社の稼ぐチカラ(営業利益)に対して、支払利息が多すぎる。支払利息が多すぎるのは、借入金が多すぎるからだ。これこそまさに、過剰債務だ!となるわけです。

逆に、インタレスト・カバレッジ・レシオがじゅうぶん(2倍以上)なのであれば、借入金が多いことのみをもって過剰債務とはいえない、という見方もできるでしょう。

過剰債務というと、貸借対照表(借入金の残高)ばかりを見ているケースが少なくありませんが、あわせて損益計算書(営業利益と支払利息)も見ることが大切です。

なお、インタレスト・カバレッジ・レシオが1倍未満だからといって、すぐに「借入金が多すぎる!」と考えるのも尚早だといえます。借入金が多い(支払利息が多い)のではなく、稼ぐチカラが弱すぎるかもしれないからです。

売上総利益率(売上総利益÷売上高)や営業利益率(営業利益÷売上高)の推移にも目を向けて、それぞれの利益率を高めるにはどうしたらよいかも、考えるようにしましょう。黙っていると、物価高騰や人件費高騰の影響を受けて、利益率は下がり続けてしまう時代です。

この点、いわゆるゾンビ企業の定義として、「インタレスト・カバレッジ・レシオが1未満の状態が3年以上続く」というものがあります。ゾンビ企業とは、借入金が多い会社をいうのではなく、稼ぐチカラがない会社であることを理解しておきましょう。

まとめ

ちまたには、借入金が月商(年間売上高÷12)の6倍を超えていると危険だ、という目安がありますが。実際にはそうとも言い切れない、むしろ、その考え方のほうが危険だというお話をしました。

借入金の多少、つまり、過剰債務かどうかを考えるのであれば、預金や経常運転資金、インタレスト・カバレッジ・レシオなどにも目を向けてみるようにしましょう。

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