会社の財務について、「手元の預金は月商2か月分もあれば十分だ」というハナシを見聞きします。ところが、その考え方には問題があるので気をつけましょう、というお話です。
預金を持ちすぎる、というムダ
会社の財務について、「手元の預金は月商2か月分もあれば十分だ」というハナシを見聞きします。つまり、預金残高は「年間売上高÷12か月(平均月商)」の2倍もあれば資金繰りは回るはずだ、そんなハナシです。
言い換えると、月商の2か月分を超えるような預金は「ムダ」だということでもあります。この点、「最低でも月商の3か月分、できれば月商の6か月分の預金を目指しましょう」が持論です。
が、2か月分でムダだというのであれば、3か月分・6か月分など超ムダでしかないだろう。そうおもわれるかもしれません。ところが、「中小企業」の財務においてはムダとはいえません。
手元の預金は月商2か月分もあれば十分、との考え方には問題があるからです。その問題点とは…
- 問題1、順調が前提
- 問題2、大企業発想
- 問題3、外野は無責任
これらの問題について、このあと解説をしていきます。
手元の預金は月商2か月分もあれば十分、なのか?
問題1、順調が前提
手元の預金は月商2か月分もあれば十分だとはつまり、預金残高は「年間売上高÷12か月(平均月商)」の2倍もあれば資金繰りは回るはずだ、ということを前述しました。
たしかに、それだけの預金があれば資金繰りは回るでしょう。基本的には、毎月の収支について「売上入金 ≒ 仕入支払+経費支払+借入金返済」が成り立つからです。なので、月商2か月分ではなく「1か月分でも十分だ」というハナシもあります。
2か月分ではムダだというのです。が、それは「順調が前提」であることを忘れてはいけません。つまり、毎月きちんと「仕入支払+経費支払+借入金返済」に見合うだけの売上入金があることが前提です。
でも現実には、必ずしも順調が前提ではありません。むしろ、事業を続けていれば、何かしらのアクシデントやトラブルに見舞われるものといってよいでしょう。
その結果、売上入金が減少すれば、「売上入金 ≒ 仕入支払+経費支払+借入金返済」は成り立たず、手元の預金を食いつぶしていくことになります。このとき、預金残高が少ないほど、資金ショート(倒産)の可能性は高まります。
いっぱんに(傾向として)、中小企業は大企業ほど安定はしていないものです。同じようにアクシデントやトラブルに見舞われたとしても、大企業ほどの耐性はない中小企業が多いともいえます。
その理由はさまざまですが、とにもかくにも、中小企業は安定しない分、資金繰りに問題をきたす(売上入金 < 仕入支払+経費支払+借入金返済)可能性が高いことは、理解をしておいたほうがよいでしょう。
事業には良いときもあれば悪いときもある。順調なときばかりではない。そのときに備えるのであれば、「手元の預金は月商2か月もあれば十分」とはいえないはずです。
預金が月商の3か月分あれば、売上入金が途絶えたとしても3か月耐えることができます。預金が月商の6か月分あれば、売上入金が途絶えたとしても6か月耐えることができるのです。
問題2、大企業発想
さきほど、中小企業は大企業ほど安定はしていないものだといいました。その理由のひとつが、資金調達力の差です。中小企業は大企業ほどの資金調達力がありません。
大企業は、信用の高さゆえに、不特定多数の人たちからおカネを集めることが可能です。出資を求めて増資をすることもできれば、新株予約権付社債を発行するなどしておカネを集めることもできるでしょう。
いわゆるエクイティファイナンスに利があるのが、大企業の特徴であり、中小企業との差になります。つまるところ、大企業は「いつでもおカネを集めることができる」のです。
だとすれば、手元に預金を持ちすぎるのはもったいない。おカネを遊ばせておくのはもったいない、という発想になります。おカネが余っているのなら、事業に投資をするなり、運用するなりしたほうがいい。
そこから、「手元の預金は月商2か月分もあれば十分だ」とのアドバイスにつながることがあります。社長は、そのアドバイスを耳にしたときには気をつけましょう。
繰り返しになりますが、「いつでもおカネを集めることができる」のは大企業だからであって、中小企業はそうではありません。事実、増資をしたくとも、第三者(社長の親族以外)からおカネを集めるのは困難であり、社債を発行するのもカンタンではないのです。
手元の預金は月商2か月分もあれば十分だとのアドバイスは、いうなれば大企業発想であり、実際に大企業出身者のアドバイスであることも少なくありません(大企業出身者を非難する意図はなく、あくまで考え方の違いを示す意図です)。
いつでもおカネを集めることはできないのが中小企業であるならば、手元の預金はできるだけ増やしておくに限ります。増やすための方法として、銀行融資が有効です。それをふまえて、わたしは「借りられるときに借りられるだけ借りておきましょう」とおすすめをしています。
問題3、外野は無責任
いつも順調であることを前提にしないのであれば、「手元の預金は月商2か月もあれば十分」とはいえないはずだと前述しました。
とはいえ、それでも「順調な時期はある」ものだし、「アクシデントやトラブルが起きる確率は少ない」との考え方もあるでしょう。だから、手元の預金は月商2か月もあれば十分なのだと。
ですが、大事なことは「社長自身」がどう考えているか、どう感じているかでしょう。わたしが知る限り、おカネがない不安を嫌がる社長が多数派です(たまたま、わたしの周りにそういう社長が集まっていることも否定はしませんが)。
たとえ、いまは使いみちがないおカネではあっても、いざというときに備えておカネを持っておくほうが安心だ。それが、銀行から借りたおカネであり、利息を負担することになったとしても。そのように考える社長は、けして少なくありません。
だとすれば、そのような社長に向かって「手元の預金は月商2か月もあれば十分」とのアドバイスは無責任なものだといえます。「だから、外野は無責任だ」などといえば、その外野からは叱られるのかもしれません。
実際、責任感を持ってアドバイスをしてもいるのでしょう。ですが、いざというときにおカネが足りなくなったとき、外野が責任を取ってくれるわけではありません。責任を負うのはほかでもない社長なのです。そういう意味で、外野は無責任でしかいられません。
もちろんこれは、いざというときのために備えておカネを借りることについても同じです。つまり、おカネを借りた場合の責任(返済義務や連帯保証など)を負うのも社長であり、外野ではありません。
結局のところ、外野とは無責任なものであり、外野のアドバイスを「参考」にしながらも、さいごは社長自身が「決断」することの必要性については、くれぐれも忘れないようにしましょう。
まとめ
会社の財務について、「手元の預金は月商2か月分もあれば十分だ」というハナシを見聞きします。ところが、その考え方には問題があるので気をつけましょう、というお話をしました。
中小企業は、大企業と財務環境が異なりますし、社長が外野の意見を聞きすぎるのもよくありません。自社にとって、必要な預金がどれくらいなのか。あらためて考えてみましょう。
- 問題1、順調が前提
- 問題2、大企業発想
- 問題3、外野は無責任