金融庁が融資審査の緩みを検証する、とのニュースがあります。すると、粉飾に対する銀行の目は厳しくなるでしょう。だとすれば、粉飾をしていない会社も注意が必要ですよ、というお話です。
金融庁は警戒を強めている
いわゆる「コンプラ違反」で倒産する企業が増加していることから、金融庁が融資審査の緩みがないか立入検査を含めて検証する、とのニュースがあります(2024年2月27日付・日本経済新聞)。
コンプラ違反にもいろいろありますが、今回は粉飾決算について。昨年(2023年)には、約50もの銀行をそれぞれ異なる決算書で欺いていた…という世紀の大粉飾(の末に倒産)もありました。
金融庁が警戒を強めるのも、むべなるかなです。
この点、「ウチの会社は粉飾決算などしていないし、関係ない」と考える社長は気をつけましょう。粉飾かどうかを疑うのは、社長ではなく銀行です。社長がどう考えていようと、銀行が疑うときは疑います。
疑われたらどうなるか?いうまでもなく、融資が受けにくくなるでしょう。いやいや、それは困るというのであれば、銀行から疑われているかどうかを見極める目を持つことです。
でも、どのようにして見極めればよいのか。役立つ指標としてまず、「営業運転資本回転期間」を取り上げてみます。
営業運転資本回転期間で見極める
営業運転資本回転期間とは、あまり聞き慣れない指標かもしれませんが。経済産業省が提供している経営診断ツール「ローカルベンチマーク」で採用されている指標の1つです。
営業運転資本回転期間を、算式であらわすと…
営業運転資本回転期間 ={(売掛金+受取手形)+棚卸資産ー(買掛金+支払手形)} ÷(売上高 ÷ 12)
このうち「(売掛金+受取手形)+棚卸資産ー(買掛金+支払手形)」は、経常運転資金などとも呼ばれるものであり、会社が事業を続けている限り必要になるおカネです。
いっぽうで、「売上高 ÷ 12」は平均月商(1月あたりの平均的な売上高)をあらわします。よって、営業運転資本回転期間は、経常運転資金が平均月商の何か月分あるかの指標です。
以上をふまえて、自社の営業運転資本回転期間が、同業他社の営業運転資本回転期間と比べて大きいかどうかを確認してみましょう。あまりに大きい場合には、銀行が粉飾を疑う可能性が高まるからです。
ではなぜ、営業運転資本回転期間が大きくなると粉飾が疑われるのか?それは、「売掛金・受取手形」と「棚卸資産」の水増しが、粉飾決算の王道だからです。ゆえに、粉飾をする会社の営業運転資本回転期間はおのずと大きな値となります。
では、自社の営業運転資本回転期間が、粉飾などしていないのに大きい場合はどうするか。社長のほうから銀行に対して、きちんと説明をすることです。つまり、「経常運転資金(売掛金・受取手形や棚卸資産)が大きい理由」について、伝えることが大切になります。
たとえば売掛金については、「決算直前にまとまった売上があったから」とか、「決算日が休日だったので入金が翌日にズレ込んだから」とか。
また、棚卸資産については、「豊富な品ぞろえが自社の強みだから」とか、「同業他社よりも短納期を売りにするため、在庫を多めにしているから」とか。
このあたりが銀行に伝わらないと、粉飾を疑われて、融資が受けにくくなる可能性が高まります。
ちなみに、自社の営業運転資本回転期間が同業他社よりも大きいかどうかは、ローカルベンチマークを利用することで判定可能です。ローカルベンチマークは、Excelファイルをダウンロードしてすぐに使えるものなので(無料)、ぜひ利用してみましょう。
経常収支比率・経常損益比率でも見極める
銀行から疑われているかどうかを見極めるための指標は、ほかにもあります。それが、経常収支比率と経常損益比率です。これまた、あまり聞き慣れない指標かもしれません。まずは、経常収支比率の算式から…
経常収支比率 = 経常収入 ÷ 経常支出
では、経常収入と経常支出とは…
- 経常収入 = 売上高-売掛金・受取手形増加額+営業外収益
- 経常支出 = 売上原価+販売管理費+棚卸資産増加額ー買掛金・支払手形増加額ー減価償却費ー引当金繰入額+営業外費用
なかなかに込み入った算式であり、なんのこっちゃ?ということかもしれませんが。端的にいえば、経常収入とは「自社の事業で増えるおカネの額」であり、経常支出とは「自社の事業で減るおカネの額」をあらわしています。
だとすれば、経常収支比率とは「増えるおカネ」と「減るおカネ」のバランスであり、100%以上が望ましいことだとわかるでしょう。逆に、100%未満であれば、「経常収入<経常支出」の状態であり、事業を続けるほど、おカネが減っていくことになってしまうからです。
では、いっぽうで経常損益比率とは?算式であらわすと…
経常損益比率 = 経常収益 ÷ 経常費用
では、経常収益と経常費用とは…
- 経常収益 = 売上高+営業外収益
- 経常費用 = 売上原価+販売管理費+営業外費用ー減価償却費ー引当金繰入額
ここで、経常損益比率と、前述した経常収支比率の算式とを見比べてみましょう。具体的には、経常収入と経常収益とを見比べる、経常支出と経常費用とを見比べる、といった具合です。
すると、両者の違いは「売掛金・受取手形増加額」と「棚卸資産増加額」、「買掛金・支払手形増加額」との違いだとわかります。勘のよい社長であれば、ここでピーンと来るでしょう。
売掛金・受取手形や棚卸資産、買掛金・支払手形とは、経常運転資金を構成する要素でした。つまり、経常収支比率と経常損益比率との違いは、経常運転資金の増減を考慮するかどうかの違いなのです。
経常収支比率では経常運転資金の増減を考慮し、経常損益比率では考慮しない。そのうえで、自社の数字をあてはめて計算した経常収支比率と、経常損益比率との数値をどう見るか?
両者の数値に差が大きいほど粉飾の可能性が高い、というのが銀行の見方です。具体的には、「10%以上の差」が目安になります。
ただし、1つの決算期だけであれば「そういうこともあるだろう」との見方もあり、2期連続や3期連続で10%以上の差があるようだと、粉飾の可能性を強く疑われるものです。長い目で見れば、経常収支比率と経常損益比率とは、ほぼほぼ一致するはずなのにね、という見方でもあります。
ゆえに、社長はじぶんでも、経常収支比率と経常損益比率との差を計算してみて、差が大きく、その状態が続くようなら、経常運転資金の増減理由について、銀行に説明するようにしましょう。
まとめ
金融庁が融資審査の緩みを検証する、とのニュースがあります。すると、粉飾に対する銀行の目は厳しくなるため、粉飾をしていない会社であっても無関心ではいられません。
そこで、銀行から疑われているかどうかを見極める目を持ちましょう。具体的には、営業運転資本回転期間や経常収支比率・経常損益比率を理解することです。
結果、疑われていそうであれば、社長のほうから銀行に対して状況の説明をすることが大切になります。