2024年3月15日から、信用保証協会の保証付き融資として「プロパー融資借換特別保証制度」がスタートしています。とんでもない制度であり、そのメリットとデメリットをまとめてみました。
とんでもないものができたのだが
2024年3月15日から、信用保証協会の保証付き融資について新制度の受付が開始されています。その名も「プロパー融資借換特別保証制度」です。
わたしの印象としては、「とんでもないものができたなぁ」という印象であり、本制度を利用するか否かにかかわらず、その制度の内容や意義は理解しておくのがよいでしょう。
なぜなら、いま現在の融資の傾向や、今後の銀行融資の流れを示す制度だといえるからです。では、「プロパー融資借換特別保証制度」とはどのような制度なのか?端的にいうと…
『プロパー融資を保証付き融資で借り換えできます。しかも、経営者保証を外せます。』
と、これだけ聞くと「使わない手はない」くらいにおもえるかもしれませんが。メリットとデメリットとをあわせ持つ制度になりますので、そのあたりをまとめてみることにします。
プロパー融資借換特別保証のメリット
まずは、「プロパー融資借換特別保証制度」のメリットから確認していきます。
プロパー融資を保証付き融資で借り換えできる
そもそも、民間銀行からの融資には、信用保証協会の保証付き融資とプロパー融資とがあります。
このうち保証付き融資とは、信用保証協会の保証が付いた融資であり、会社が返済できなくなった場合には信用保証協会が肩代わりをするため、銀行にとってはリスクが小さな融資です。
いっぽうのプロパー融資は、信用保証協会の保証がない融資であり、会社が返済できなくなった場合には、すべての損失を銀行が負うことになるため、銀行にとってはリスクが大きな融資です。
そこで、「自行のプロパー融資を保証付き融資で借り換えよう(リスクが小さくなる!)」という考え方があるわけですが、保証付き融資において禁止事項とされています。まぁ、当然でしょう。
銀行が負うべきリスクを信用保証協会になすりつけるのであれば、それは「どこか違う」というハナシですから。とはいえ、現実にはその「なすりつけ」がゼロではありません。
保証付き融資を借りる時期と、プロパー融資を返済する時期をズラすことで「結果的」に、プロパー融資を保証付き融資で借り換えるようなことは起きています。意図的であれ、非意図的であれ。
何にせよ、本来の禁止事項がありながらも、本制度であれば「正々堂々と借り換えができるようになった」というのは、メリットの1つではあるでしょう。
経営者保証を解除できる
経営者保証とは、会社が融資を受けるにあたって、社長個人が連帯保証人になることです。もともと、中小企業は「会社と社長が一心同体(経営者=株主)」なのだから、経営者保証があろうがなかろうがそれほど変わらん、との考えもあるでしょう。
ただそれでも、社長に万が一があった場合、連帯保証は相続人(社長の家族)に引き継がれることを考えれば、経営者保証はあるよりないほうがいい、ということで間違いありません。
ところが、中小企業は大企業ほどには社会的信用もないことから、「経営者保証あり」があたりまえが銀行融資における慣習でした。
最近では、金融庁の後押しもあり、経営者保証の解除が急速に進んでいるとはいえ、すべての会社が経営者保証を解除できるものでもありません。銀行にとって「リスクが大きい会社」であれば、引き続き経営者保証をとるのはあたりまえだ、ということです。
それでも、本制度を利用することで経営者保証を解除できるのだとしたら…やはり、それもまたメリットの1つだといえるでしょう。
プロパー融資借換特別保証のデメリット
続いて、「プロパー融資借換特別保証制度」のデメリットを確認していきます。
会社が満たすべき要件がある
プロパー融資借換特別保証は、プロパー融資を保証付き融資で借り換えることができる。しかも、経営者保証を解除できる(プロパー融資で経営者保証がありだったとしても)」といいました。
とはいえ、制度を利用するための要件があります。会社が満たすべき要件はこちらです↓
- 資産超過であること
- EBITDA有利子負債倍率が15倍以内であること
- 法人・個人の分離がなされていること
- 返済緩和している借入金がないこと
ひとことでいうと、「状態が悪すぎる会社はダメよ」ということになります。上記の要件を満たすのであれば、悪すぎるということはないので制度の利用を認めましょう。と、そういうことです。
資産超過とは「資産>負債」であり、言い換えると「債務超過(資産<負債)」ではないことをあらわします。債務超過は、もともと銀行融資が受けにくくなるほどに悪い状態です。
EBITDA有利子負債倍率とは「(借入金-現預金)÷(営業利益+減価償却費)」であり、自社の利益に対して負債が多すぎないかを検証する指標です。15倍を超えると、やっぱり融資そのものが受けにくくなります。
法人・個人の分離がなされているとは、会社のおカネと社長のおカネがごっちゃになっていないか。社長が会社を私物化していないか?ということです。このあたりについてくわしくは、「経営者保証に関するガイドライン」が参考になります。
返済緩和している借入金がないとは、リスケをしていないということになります。
3つめと4つめの要件はよいにしても、1つめと2つめは、現状の決算書では厳しいという会社もあることでしょう。そういう意味では、それなりに高いハードルだといえます。
ゆえに、手放しでカンタンに利用できる制度でもないということです。
銀行が満たすべき要件もある
本制度について見ていくと、会社だけではなく、銀行にも満たすべき要件があることに気づきます。具体的には次のとおりです↓
申込金融機関は、本制度による保証付融資の実行と原則同時に次の(1)、(2)のいずれかを満たす必要があります。
(1)経営者保証を不要とし、かつ、保全のないプロパー融資を実行すること
(2)経営者保証を提供している既往のプロパー融資(本制度による返済部分を除く)の全部又は一部について経営者保証を解除し、かつ、解除したプロパー融資については保全がないこと
上記のとおり、「銀行もプロパー融資の経営者保証を外して、銀行もまたリスクを負いなさいよ」ということになっています。「まぁ、そりゃそうだ」といったところでしょう。
本制度を「きっかけ」に、銀行自身が経営者保証を外していく流れをつくろうというのが制度趣旨なのでしょうから。
経営者保証を外すというのは、銀行にとってはリスクを高める行為です。それでも経営者保証を外すかどうかは銀行しだいであり、会社にはどうしようもないことだとすれば、これもまたハードルになりえます。
そもそも保証料を払ってまでやることか
繰り返しになりますが、プロパー融資借換特別保証制度とは、プロパー融資を保証付き融資で借り換えて、経営者保証を外すことができる制度です。
とはいえ、いましがたデメリットを2つ挙げたとおり、会社にも銀行にも要件が課されています。それらを見ておもうのは「これって、ふつうにプロパー融資の経営者保証を外せばよくない?」ということでしょう。
もしも、本制度がたいした要件もなく利用できるのであれば(理屈としてありえませんが)、一考に値するといえます。ところが、それなりの要件が付いているうえに、制度を利用するには、利息のほかに保証料も支払わなければいけません。
そもそも、本制度で課されている要件(とくに会社側の要件)をクリアしているのであれば、会社は銀行に対して「プロパー融資の経営者保証を外してほしい」と交渉をすることができる状況です。
だとすれば、わざわざ保証付き融資で借り換えるまでもなく、その交渉をすればよいだけなのではないか…という考え方もあるでしょう。
それでも本制度を利用するのだとすれば、本制度をきっかけに、銀行のプロパー融資についても経営者保証を解除することに加えて、保証付き融資とプロパー融資をあわせて「借入総額」を増やしたい、というケースに限られるものと考えます。
まとめ
2024年3月15日から、信用保証協会の保証付き融資として「プロパー融資借換特別保証制度」がスタートしています。とんでもない制度であり、そのメリットとデメリットをまとめてみました。
私見では、「利用する必要はない」という制度ですが、いま現在の融資の傾向や、今後の銀行融資の流れを示す制度として、その存在や内容について理解をしておくのがよいでしょう。