売掛金や在庫の金額を減らしましょう、というハナシがあります。まるで、売掛金や在庫が悪であるかのようですが、売掛金や在庫が多いのは必ずしも悪ではない。というお話をしていきます。
必ずしも悪とはいえない
会社の決算書について、「売掛金や在庫の金額を減らしましょう」とのハナシがあります。つまり、売掛金や在庫が多いのはよくない。いうなれば売掛金や在庫は悪だ、というハナシです。
たしかに、売掛金や在庫は「おカネが入金されるのを待っている状態」であり、資金繰りを悪くする要因であるのは間違いありません。また、同業他社の水準と比較したときに、自社の売掛金や在庫の金額が多ければ、銀行からは「架空資産」や「不良資産」を疑われることもあります。
とはいえ、売掛金や在庫が多いのは必ずしも悪とはいえない。というのが、このあとのお話です。その理由はどこにあるのか。また、銀行から疑われるのをどう説得すればよいのか。確認をしていきましょう。
まずは売掛金から
売掛金=売上の証
売掛金が増えると、入金待ちが多くなることから、資金繰りが悪くなります。いっぽうで、売掛金が多いということは、その分、売上が多いということでもあります。売掛金は売上の証なのです。
ゆえに、売掛金が増えているということは、売上もまた増えている(売掛金の回収条件に変化がなければ)ということであり、だとすれば、必ずしも悪ではないとわかるでしょう。
実際、売掛金が増えている(=売上が増えている)ことをアピール材料に、銀行から融資を引き出すのは財務のセオリーです。このときの資金使途(借りたおカネの使いみち)を、「増加運転資金」と呼びます。
では、もしも、売掛金は悪だから増えないようにと「回収条件」を変更するとしたらどうでしょう。わかりやすい例を挙げるなら、いままでは「末日締め・翌々月入金」だったところ、これからは「末日締め・翌月入金」に変更するような場合です。
すると、入金は1か月早くなりますから、会社の資金繰りはよくなります。ところが、その裏返しとして、お客さまは資金繰りが厳しくなることはわかるでしょう。
結果として、お客さまの購入金額が減ったり、お客さまによっては購入自体をやめてしまうことがあるかもしれません。そうして売上が減れば、利益も減るわけであり、自社の業績は悪化します。
当然、資金繰りも悪化するのですから、単純に売掛金を減らせばよいというのでもないわけです。
売掛金の銀行対応
売掛金を減らせばよいのでなければ、どうするか。売掛金が増えた分は、その分の資金調達でカバーします。具体的には銀行借入であり、増加運転資金の融資がセオリーであることは前述しました。
売掛金が増えようとも、その分の借入ができれば、資金繰りが悪化することはありません。ややもすると、借入が増えることを社長は嫌うかもしれませんが、その借入はないのといっしょであることは理解しておきましょう。
なぜなら、売掛金を回収したおカネで借入は返済できるからです。つまり、売掛金が回収不能になったりしない限りは、増加運転資金として借りたおカネが返済できないことはありません。
銀行も、そこは警戒をしています。売掛金が増えるのは売上増加でもあり、そこは好ましいことだけれど、本当に「おカネになる売掛金なんだろうか?」を、銀行は心配しているものです。
だから、決算書や試算表の売掛金のなかに、不良債権(回収できない売掛金)はないかを心配しています。もっといえば、架空債権(架空売上による売掛金)も疑っています。
それらの心配や疑いは、売掛金の額が大きくなるほど強まることから、社長は銀行を説得できるようにしましょう。具体的には、売掛金の明細とその動きを一覧にまとめて、銀行に提示することです。
売掛金の明細ごと(お客さまごと)に、売掛金の額が増減していれば、架空債権ではなないこと・不良資産でないことの証明になります。
続いて在庫をば
在庫=品揃え・短納期
在庫(棚卸資産)が増えると、やはり入金待ちが多くなることから、資金繰りが悪くなります。いっぽうで、在庫が多いということは、品揃えの良さや短納期に繋がり、自社の強みにもなるものです。
実際に、あえて在庫を増やして、品揃えの良さや短納期をウリにしている会社もあります。では、もしも、在庫は悪だから増えないようにと「在庫の削減」をはかるとしたらどうでしょう。
品揃えが悪くなったり、欠品が生じて納期が延びたりすれば、売り逃しや客離れが起きる可能性があります。そうして、売上が減れば、利益も減るわけであり、自社の業績は悪化します。
当然、資金繰りも悪化するのですから、単純に在庫を減らせばよいというのでもないわけです。なので、安易に在庫を減らすのではなく、ここでもまた、銀行借入で補うことを検討しましょう。
つまり、在庫が増えて資金繰りが悪くなる分は、銀行から借入すればよいということです。借入が増えるのを社長は嫌うかもしれませんが、やはり、その借入はないのといっしょであることを理解しておきましょう。
在庫が売れて現金化できれば、そのおカネで借入の返済はできるからです。
在庫の銀行対応
とはいえ、銀行は「在庫が本当に売れるのか?(現金化できるのか)」を心配しています。陳腐化や劣化による不良在庫もありえますし、最悪は架空在庫(粉飾決算)もありえます。
ゆえに、社長は在庫の増加についても、銀行を説得できなければいけません。説得ができないと、銀行借入をすることもできなくなってしまいます。では、どのように説得をするか?
準備するものとしては、前述した売掛金と同じです。在庫の明細とその動きを一覧にまとめます。在庫の明細ごと(商品ごと)に、在庫の額が増減していれば、架空在庫や不良在庫でないことを証明可能です。
また、在庫の場合には「現物・現場」を、銀行員に見せるのもよいでしょう。つまり、倉庫などを案内して、前述の一覧と照らしあわせながら、在庫が実在することを確認してもらう。ホコリをかぶっていて売れそうもない…といった商品がないことを確認してもらいます。
すると、一覧の信頼性も高まるので、銀行の心配や疑いを軽減することができます。
まとめ
売掛金や在庫の金額を減らしましょう、というハナシがあります。まるで、売掛金や在庫が悪であるかのようですが、売掛金や在庫が多いのは必ずしも悪ではない。というお話をしました。
売掛金や在庫を「減らしすぎる」ようなことがあれば、自社の稼ぐチカラを弱めてしまいかねません。売掛金や在庫の多い・少ないは、自社の強みを考慮して判断するようにしましょう。