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社長は自社の営業運転資本回転期間を観測せよ

社長は自社の営業運転資本回転期間を観測せよ

金融庁が、銀行に対して点検作業を急ぎで進めている…というハナシがあります。ゆえに、銀行の融資審査がより慎重になることを受けて、社長は営業運転資本回転期間を観測せよ、というお話です。

目次

営業運転資本回転期間とは?

きょうは2024年4月26日、ことしに入って、金融庁が銀行に対して「点検作業」を急ぎで進めている…というハナシがあります。平たくいえば、「ちゃんとした審査をしてるの?」という点検です。

その背景として、2023年には「世紀の大粉飾(約50の銀行に対して決算書を改ざん)」の末に倒産した会社があり、それを含めたコンプラ違反(粉飾、業法違反、資金使途不正、脱税など)による倒産件数が、初の年間300件超えとなったこともあります。

ゆえに、金融庁は銀行の融資審査に対して目を光らせている。その金融庁の監督下にある銀行は、融資審査を慎重に行わねばならない状況にあることは覚えておいたほうがよいでしょう。

では、融資審査を受ける会社の社長として、具体的に何に気をつければよいのか。いろいろあるわけですが、ここで1つ、財務指標として取り上げるのであれば「営業運転資本回転期間」です。

営業運転資本回転期間とは、算式であらわすと…

(売掛金・受取手形+棚卸資産ー買掛金・支払手形)÷(年間売上高÷12か月)

なんのこっちゃ?と、おもわれるかもしれませんが。まず、算式の前半(分子)は、いわゆる経常運転資金をあらわしています。

売掛金・受取手形、棚卸資産はいずれも、入金を待っている金額です。いっぽうで、買掛金・支払手形は、支払いを待ってもらっている金額です。この差額分のおカネを、会社が資金繰りを回すためには用意する必要があります。

これに対して、算式の分母は「平均月商」です。ひと月あたりの平均的な売上高をあらわしています。

よって、営業運転資本回転期間は、「経常運転資金が平均月商の何か月分あるの?」ということをあらわしているわけです。では、これが前述のハナシ(融資審査が慎重になっている)とどんな関係があるというのか…?

営業運転資本回転期間は長すぎないか?

まず、自社の営業運転資本回転期間を計算してみましょう。決算書や試算表から、計算に必要な数値を抜き出します。そのうえで、自社の営業運転資本回転期間は長すぎないかを確認です。

営業運転資本回転期間が長いということは、可能性として、売掛金のなかに不良債権や架空債権が混じっている、棚卸資産のなかに不良在庫や架空在庫が混じっている、買掛金に簿外負債があるかもしれないことをあらわしています。

だとすれば、粉飾決算の疑うのが銀行です。疑われれば、当然、融資が受けられなくなったり、受けにくくなることはあるわけで。ましてや、前述したとおり、銀行の融資審査は慎重に行わねばならない状況にあります。

だとすれば、以前よりもいっそう、営業運転資本回転期間のような指標には銀行の注目も集まるというものです。それをふまえて、社長は何を考えればよいのか?

まずは、営業運転資本回転期間の長さが「妥当」であるかです。ここでいう妥当とは、社長の「イメージどおり」なのか、ということです。おおむねイメージどおりの長さであればよいですが、「いやいや、そんなに長いのはおかしい…」というのであれば、検証が必要になります。

悪意の粉飾(架空債権、架空在庫)はないにしても、不良債権や不良在庫があるかもしれません。社長が、意外とそれらに気づいていないことはあるものです。具体的には、売掛金や棚卸資産の「内訳」を確認してみましょう。

回収できていない売掛金(不良債権)や、売れ残っている棚卸資産(不良在庫)があるかもしれない、ということです。また、買掛金の計上が不十分だと簿外負債となっているケースもあります。結果として、営業運転資本回転期間が長くなるので気をつけましょう。

では、営業運転資本回転期間が長すぎないかの基準はどこにあるのか?ひとつの目安として、「同業他社の平均」が挙げられます。銀行もまた、同業他社との比較によって異常値をあぶりだしているものです。

この点、経済産業省がWEBサイトで提供しているツール「ローカルベンチマーク」が役立ちます。ローカルベンチマーク(ロカベン)シートという名称のExcelファイルをダウンロードして(無料)、3期分の決算書情報と会社情報を入力すると、同業他社比較ができるスグレモノです↓

ローカルベンチマーク(ロカベン)シート

入力項目も多くはありませんので、10〜15分もあればじゅうぶんでしょう。これにより、自社の営業運転資本回転期間が、同業他社と比べて長いかどうかの察しがつきます。

そのうえで、「自社のほうがだいぶ長い」となれば、原因を分析したうえで、改善策もふまえて銀行に伝えることができると、粉飾の疑いを晴らすこともできるはずです。

なお、「自社のほうがだいぶ長い」ことの原因は、粉飾(不良債権、不良在庫、簿外負債)ばかりではありません。たとえば、「豊富な品ぞろえ、短納期」を強みにしている会社では、同業他社よりも在庫は増えます。であれば、そこを銀行にもアピールすることが大切です。

営業運転資本回転期間が長くなっていないか?

自社の営業運転資本回転期間を確認するにあたって、もうひとつの視点があります。営業運転資本回転期間が長くなっていないか、です。

つまり、自社の過去の営業運転資本回転期間と比べて、いまの営業運転資本回転期間が長くなっていないか。長くなっているのであれば、どこかに異常が生じている可能性があります。

そもそも、営業運転資本回転期間は基本的に変動しないものです。たとえば、売上が増えたとしても、それと連動して売掛金や棚卸資産、買掛金も増えるものであり、結果として営業運転資本回転期間は変動しないことになります。売上が減った場合も同じです。

では、どういったときに、営業運転資本回転期間に変動が生じるのか?

たとえば、売掛金の回収ができなくなったり(不良債権)、棚卸資産が売れ残ったりしたときです(不良在庫)。売掛金や棚卸資産が増えるので、営業運転資本回転期間が長くなります。また、うっかり買掛金を計上し忘れたようなときにも(簿外負債)、営業運転資本回転期間は長くなります。

それら(不良債権、不良在庫、簿外負債)は、銀行からすれば「粉飾」です。ゆえに、原因分析をして、改善策を検討・実施する必要があります。

銀行もまた、過去からの推移で数字を見ているものです。よって、過去といまとで比較をしたときに「異常」が見て取れるようなら、粉飾を疑いもします。社長が気づかぬうちに、銀行から疑われていたなどということがないように、社長自身も過去からの推移を確認しておきましょう。

なお、営業運転資本回転期間が長くなっている原因も、粉飾(不良債権、不良在庫、簿外負債)ばかりではありません。会社が意図して、戦略的に、売掛金の回収サイトを延ばしたり、棚卸資産を増やすこともあるからです。

ただし、銀行が決算書だけを見ているのでは、粉飾との見分けがつきません。よって、社長は銀行に対して、意図や戦略を伝えることが重要になります。

まとめ

金融庁が、銀行に対して点検作業を急ぎで進めている…というハナシがあります。ゆえに、銀行の融資審査がより慎重になることを受けて、社長は営業運転資本回転期間を観測せよ、というお話をしました。

まずは、営業運転資本回転期間の意味を理解し、そのうえで、自社の営業運転資本回転期間を確認し、他社との比較・前期以前との比較をしてみましょう。異常が認められれば、改善に努める、あるいは銀行に対する説明が大切です。

社長は自社の営業運転資本回転期間を観測せよ

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