銀行が利益を好むのはわかるけど、具体的にどれくらいの利益を好むのか。銀行が考える「充分な利益」の基準についてお話をしてみます。社長が基準を知れば、銀行交渉にも強くなるはずです。
基準がわかれば話がしやすくなる
社長であれば、銀行が「利益」を好むのはご存知のことでしょう。ではなぜ、銀行が利益を好むのか?それは、「利益=返済原資」と見ているからです。ゆえに、利益は多ければ多いほどいい。
とはいえ、社長にしてみれば「利益を出すのもタイヘン」なのであり、そうカンタンに利益を増やせるのであれば苦労はしていない、というハナシでしょう。
それならば、「自社は充分な利益が出ています」とアピールできるだけの利益とは、具体的にどれくらいをいうのか?その基準がわかれば、銀行とも話がしやすくなるはずです。また、その基準が、社長にとって目指すべき目標にもなります。
というわけで、銀行が考える「充分な利益」の基準について、このあと確認をしていきましょう。
銀行が考える「充分な利益」の基準
はじめに、結論から。銀行が考える「充分な利益」の基準を、算式であらわすと次のとおりです↓
なんのこっちゃ。と、おもわれるかもしれませんが。話をわかりやすくするために、借入金残高 4,000万円、税引後利益 500万円、あとの要素はゼロだと仮定します。すると…
上記の左辺「借入金残高 ÷ 税引後利益」とは、「いまの利益水準(税引後利益)だと、いまの借入金(残高)を何年で返済できそうか」をあらわしているとわかるでしょう。
そのうえで、10年未満で返済できるのが望ましい、ということになります。この点、「4,000万円 ÷ 500万円 =8年」ですから、10年未満をクリアしている。充分な利益だといえます。
ちなみに、「10年未満」というのは、すべての金融機関において「おおむね共通する基準」です。しいていえば、「8年未満」におさまればベストだといえます。より返済力が高いことをあらわしているからです。
では、はじめに提示した算式に戻りましょう。こちらです↓
借入金残高から「経常運転資金」をマイナスしているのは、経常運転資金分の借入は返済に利益を要しないからです。
そもそも、経常運転資金とは「売掛金・受取手形+棚卸資産ー買掛金・支払手形」で計算される金額であり、会社が事業を続けている限り、立て替えが必要になるおカネをいいます。
それを自己資金(利益の積み上げ)で用意するのもタイヘンなので、銀行借入でまかなうのは財務のセオリーです。ポイントは、経常運転資金に「売掛金・受取手形+棚卸資産」が含まれること。
それらは、いずれ「現金化」される資産です。であれば、銀行はいずれ現金化されたおカネを回収すればよいことになります。つまり、利益がなくても返済してもらえるわけです。
ということから、経常運転資金の額を借入金残高からマイナスしています。また、預金(いま現在の預金残高)があれば、その分の借入は返済できることから、やはり利益は必要ありません。よって、借入金残高から預金の額をマイナスしています。
では、税引後利益に減価償却費をプラスしているのはなぜなのか。減価償却費は支出をともなわない費用だからです。言い換えると、減価償却費の対象となった資産を購入したときに、支出はおわっています。
ゆえに、減価償却費もまた返済原資として、税引後利益に減価償却費を足し戻しているわけです。
充分な利益をアピールする
銀行が考える「充分な利益」の基準がわかったところで、自社の数字を前述の算式にあてはめて計算してみましょう。そのうえで、10年(あるいは8年)をクリアしているのであれば、会社のほうから銀行にアピールをすることです。
ここでいうアピールとは、「融資条件の交渉」と言い換えることができます。
たとえば、経営者保証の解除について。最近では、経営者保証なしの融資も増えてきましたが、それでも、すべての会社が経営者保証をなしにできるわけではありません。
銀行にとっては、経営者保証なしの融資はリスクが大きなものであり、必要以上に及び腰の銀行もあります。そんなときには、「充分な利益」のアピールが役立つことを覚えておきましょう。
つまり、「充分な利益が出ているのに、なぜ経営者保証が必要なのか?」と、銀行に交渉できるようになることが大切です。前述の基準がわかっていれば、それができるようになります。
銀行には、経営者保証についての「説明義務」があることから、経営者保証をとるのであれば、その理由を説明できなければいけません。充分な利益が出ているとなれば、銀行は説明がつかず、経営者保証をなしにせざるをえない…
現状、経営者保証を解除したければ、会社のほうから交渉をすることが「必要」なケースが少なくありません。繰り返しになりますが、銀行にとっては経営者保証の解除は望ましいことではなく、できれば経営者保証をとって融資をしたいからです。
だから、放っておけば経営者保証は解除できない。解除するためには、説得材料として「充分な利益」をアピールできるようになることが重要だ。社長は、そこを理解しておきましょう。
経営者保証の解除だけではなく、金利の引き下げ、プロパー融資の交渉などにも、「充分な利益」をアピールすることは有効です。ただただ「金利を下げて」や「プロパー融資をして」といってもうまくはいきませんが、根拠(充分な利益)があれば、銀行もムゲにはできなくなります。
あとどれくらい借りられそうか
さて、「充分な利益」の基準を再掲します↓
この算式をもとに変形するとこうなります↓
これが何をあらわしているのかといえば、「あとどれくらい借りられそうか」です。社長であれば、それは「気になること」のひとつでしょう。
ですが、それがわからず、銀行に向かって「あとどくらい借りられますか?」と聞いてしまう。これは悪手だといえます。なぜなら、銀行は「必要なおカネを貸す」のであって、「貸せるだけ貸す」のではなからです。
ゆえに、社長が「あとどれくらい借りられますか?」などといえば、銀行からは「この社長、なにもわかっていないんだな」とあきれられてしまうことになりかねません。
だから、そうはならないように、充分な利益の基準を理解すること。ひいては、あとどれくらい借りられそうかの基準(算式)も理解をしておくことが大切です。
そして、もういちど、あとどれくらい借りられそうかの算式を眺めてみましょう↓
このうち、「税引後利益」が大きければ大きいほど、あとどれくらい借りられそうかの金額も大きくなることがわかります。利益を増やせば、借りられる金額も増えるのです。
もうすこしいえば、増えた税引後利益の10倍、借りられる金額も増えるということになります。逆に、税引後利益が減ればその10倍、借りられる金額も減るというのがポイントです。
目先の納税を嫌い、利益を減らして税金を減らそうとする社長がいます。すると、銀行から借りれる金額がどれほど減ってしまうのか…利益を減らすのであれば、この算式で計算をしてからにしましょう。
まとめ
銀行が利益を好むのはわかるけど、具体的にどれくらいの利益を好むのか。銀行が考える「充分な利益」の基準についてお話ししました。社長が基準を知れば、銀行交渉にも強くなるはずです。