在庫が多い会社ほど、毎月の棚卸をしましょう。なぜなら、銀行融資におけるメリットがあるからです。では、そのメリットとはなんなのかについて、お話をしていきます。
なにもしないよりはだいぶマシ
在庫が多い会社ほど、おすすめをしたいのが「毎月の棚卸」です。といわれても、それがタイヘンなんだ…と、おもわれるかもしれません。
たしかに、タイヘンでしょうが、その手間や労力に見合うメリットもあります。それが、銀行融資におけるメリットです。つまり、毎月棚卸をすることで、銀行融資によい影響があります。
ちなみに、どうしても「実地棚卸(実際に数える)」のがタイヘンだ、ムリだというのであれば、標準的な原価率をもとに理論上の在庫を計算する方法であっても、なにもしないよりはだいぶマシです。
それはそれとして、銀行融資における毎月棚卸をするメリットとは?おもなところでは次のとおりです↓
- 粉飾決算の疑いを軽減できる
- 運転資金の融資が受けやすくなる
- プロパー融資が受けやすくなる
このあと、順番に解説をしていきます。
銀行融資における毎月棚卸をするメリット
粉飾決算の疑いを軽減できる
架空在庫を計上する、というのは粉飾決算の王道テクニックです。もちろん、銀行もそれを知っているため、在庫が多い会社ほど粉飾決算を疑います。
この粉飾決算を、広く捉えれば、故意であるかどうかは関係ありません。たとえば、実際の在庫は100万円なのに、帳簿(試算表)の在庫は300万円になっている。つまり、毎月棚卸をしていないがために、前回棚卸をしたときの金額(300万円)が残ってしまっているとか。
実際(100万円)と帳簿(300万円)が異なるという意味では、やはり粉飾決算です。
また、毎月棚卸をすべきなのにしていないような会社は、そもそもがずさんな経理処理であることも少なくないため、決算で帳尻を合わせようと粉飾決算に走るケースもめずらしくありません。
決算間際になって、「うわっ、赤字になりそうだ!このままじゃ融資が受けられなくなる。そうだ、粉飾しよう」みたいな。銀行は、そういう例をいくつも見ているので、だから、毎月棚卸をしていない会社を警戒するし、粉飾決算を疑うのです。
当然、疑われるのは会社にとって、よいことではありません。端的にいえば、融資が受けにくくなります。そうはならないように、毎月棚卸をしましょうという話です。
なお、年に1回の決算のときだけ棚卸をしていれば、月次決算と本決算とで利益が乖離しやすくなります。このとき、月次決算では赤字、本決算では一転黒字となれば、粉飾決算(利益の水増し)が疑われることは、これまでのお話のとおりです。
逆に、月次決算では黒字、本決算では赤字となれば、銀行からは「なんてずさんな経理の会社なんだ。これでは、社長が正しい経営判断もできないだろう」と、管理意識・管理能力を疑われることになります。
運転資金の融資が受けやすくなる
ここでいう運転資金とは、経常運転資金をさします。経常運転資金とは「売掛金+棚卸資産ー買掛金」で計算される金額であり、会社が事業を続けている限り、立て替える必要がある金額です。
ゆえに、会社は経常運転資金分の融資を受けるのが、財務のセオリーとなります。銀行も、経常運転資金分の融資には、基本、ポジティブです。なぜなら、返済の裏付けがあるから。
その裏付けの1つが、在庫です。さきほど、経常運転資金とは「売掛金+棚卸資産ー買掛金」だといいました、だとすれば、棚卸資産(在庫)を現金化(売却)すれば、銀行が貸したおカネを回収しそびれることはありません。
だから銀行は、経常運転資金分の融資は安全性が高いものとして、基本、ポジティブにいられるわけです。が、その在庫の金額が「不正確」なものであったとしたらどうでしょう。
実際には100万円なのに、帳簿は300万円とか。このとき、帳簿を見て経常運転資金の計算をすると、経常運転資金の額は実際よりも大きくなってしまいます。では、その実際よりも大きな経常運転資金を信じて、銀行が融資をしてしまったら…?
実際には300万円も在庫はないのですから、場合によっては、銀行が回収しそびれることもあるわけです。そんなことにならないよう、銀行は、融資先の在庫に目を光らせています。
にもかかわらず、「毎月棚卸はしてません」という会社があったらどうでしょう。実際の在庫の額がわからない以上、正しい経常運転資金の額もわからない。だったら融資もできないぞ、と銀行が考えてもおかしくはありません。
まったく融資が受けられないことはないにしても、じゅうぶんな額の融資を受けられない、ということはありえます。やはり、毎月の棚卸で、実際の在庫を帳簿(試算表)に反映させることが大切です。
プロパー融資が受けやすくなる
いましがた、経常運転資金分の融資の話をしました。毎月棚卸をしていない会社は、運転資金の融資が受けにくくなる。それでも受けられたとして、じゅうぶんな額の融資を受けられないのとは別に、もう1つ問題があります。
それは、プロパー融資も受けにくいことです。そもそも、民間銀行の融資には、信用保証協会の保証付き融資とプロパー融資とがあります。
このうち、保証付き融資は、会社が返済できなくなったときには、信用保証協会が肩代わりして返済をするため、銀行にとってはリスクが小さな融資です。いっぽう、プロパー融資には信用保証協会の肩代わりはなく、会社が返済できなくなれば、銀行が100%損をこうむることになります。
そのうえで、経常運転資金分の融資をどう考えるか。毎月棚卸をしていないような会社であれば、融資をするとしても保証付き融資だけ、というのが銀行の考え方になるでしょう。
いうまでもなく、毎月棚卸をしていないような会社は、銀行にとってリスクが大きいからです。そのリスクは、保証付き融資にすることで避けようとします。
その保証付き融資は、会社にとってはデメリットです。保証付き融資には、制度上の限度額があります。借りやすい融資であるがゆえに、本当はいざというときのために温存しておきたい。それを、いま使わなければいけないのはデメリットだといえます。
また、保証付き融資の場合、会社は、利息のほかに保証料も支払わなければなりません。そう考えると、経常運転資金の融資は、プロパー融資で受けたいものです。
それができるようになるためには、毎月棚卸をすることで、実際の在庫をきちんと帳簿(試算表)に反映させることが、大前提だといってよいでしょう。
まとめ
在庫が多い会社ほど、毎月の棚卸をしましょう。なぜなら、銀行融資におけるメリットがあるからです。では、そのメリットとはなんなのかについて、お話をしました。
毎月の棚卸はタイヘンかもしれませんが、実地棚卸はムリでも、標準的な原価率をもとに理論上の在庫を計算する方法などによって、少しでも実態に近づける努力をしましょう。その努力に見合うメリットはえられるはずです。
- 粉飾決算の疑いを軽減できる
- 運転資金の融資が受けやすくなる
- プロパー融資が受けやすくなる