中小企業の決算書はイイ加減があたりまえ。それが、銀行員の見方です。そのうえで、会社はどうしたらよいのかについて、考えてみます。
そこがスタートなんだ
最近、ある銀行員の方が、こんなことを言っていました↓
「中小企業の決算書はイイ加減があたりまえ」
ここでいう「イイ加減」とは、悪い意味でのテキトーということであり、決算書がその会社の実態を正しく反映しているとはいえない、といった意味で使われています。
これはけして、悪意のある見方ではなく、銀行員の立場(慎重に融資先を見極める)からすれば当然であり、これまでにも似たようなハナシは、別の銀行員の方からもうかがってきました。
実際のところ、中小企業の決算書(とくに小企業の決算書)は、大企業のように監査法人や公認会計士による厳しいチェックはありませんし、不特定多数の株主から情報開示を求められてもいません。
中小企業だって税理士がチェックしているじゃないか、とおもわれるかもですが。チェックの「質」が違います。優劣の違いではなく、目的の違いではありますが、結果で見れば、大企業が受けるチェックの厳しさは、中小企業の比ではありません。
それに、中小企業の多くは「社長=株主」です。誤解を恐れずにいえば、社長のやりたい放題にできてしまう環境にあります。だとしたら、大企業のように株主の目を気にする必要もなく、経理処理だってユルくなっちゃんじゃないの?まぁ、実際にユルいところもあるでしょう。
そういった「現実」を、銀行員は数多く見聞きしているからこそ、冒頭の発言にもなるわけです。再掲します↓
「中小企業の決算書はイイ加減があたりまえ」
したがってまずは、自社の決算書が、銀行から「イイ加減」だと見られていることを受け入れる必要があります。事実はどうあれ、少なくとも銀行員のアタマには、そういった見方がある。そこがスタートです。
イイ加減でいいわけがない
いやいや、いったい何のスタートなのか?というハナシです。銀行員は、自社の決算書がイイ加減だとおもっている。まぁ、たしかにイイ加減かもしれんね。で、おわってはいけないということです。
また、銀行員がそう見ちゃってるんだからしかたなくね?と、開き直っておしまいにもできません。では、どうするか?イイ加減ではない決算書づくりに努めることです。
ひとことでいえば、「企業会計のルールに沿った経理処理」をしましょう、ということになります。企業会計と対になるものが、税務会計です。
多くの中小企業は、企業会計ではなく、税務会計のルールに沿った経理処理に偏っています。結果として、税務署に対しては問題がないけれど、銀行(などの利害関係者)に対する情報開示としては、問題があるよね…というケースが少なくありません。
ちなみに、企業会計とは「正しい財務情報を提供する」のが目的であり、税務会計とは「正しい税金計算をする」のが目的だという違いがあります。
このうち、経理処理が税務会計に偏ると、税金計算は合っているけれど、自社の実態を正しくあらわしている決算書とはいえないよね…というケースも生じうるのです。
具体例については、当ブログの他記事にゆずるとして。ここでお伝えしたいのは、中小企業の決算書は、作成に税理士が関与していることもあり、税務会計に偏る傾向があるということ。結果として、銀行にとって必要な「正しい財務情報」が提供できていない可能性がある、とうことです。
だったら、ちゃんと「正しい財務情報」を提供できるようになりましょう。イイ加減な決算書の中小企業が多数派であるのなら、あえて少数派となることで良い目立ちかたもできるはずです。
実際に、企業会計に依った決算書づくりをしていると、銀行から一目置かれることがあります。銀行からの信頼が高まり、融資をはじめとした支援が受けやすくなるのです。
金利が上昇傾向にあり、融資審査が厳しくなるこれからにあっては、よりいっそう、決算書の信頼性は重要になるものとも考えます。
というわけで、決算書がイイ加減なのはあたりまえだ、などと割り切らないようにしましょう。
それでも次善策は必要だ
イイ加減な決算書ではなく、企業会計に依る、きちんとした決算書をつくりましょう、といいました。が、それでも銀行員が持つ「先入観」まで、きれいさっぱりなくせるものでもありません。
たとえ、自社ががんばって、企業会計のルールに沿った決算書づくりに努めても、銀行員は「やっぱり、この会社の決算書もあやしいのでは…?」と疑問を持つことはありうるハナシでしょう。
では、そのうえで銀行員が何を見ているのか、といえば。決算書以外の要素です。これを「定性情報」と呼んだりします。
決算書など、数字ではかれる・はかりやすい情報は「定量情報」と呼ばれ、その対になるのが定性情報です。では、定性情報とは具体的にどのようなものなのか?
いろいろありますが、たとえば、会社の経営理念や経営戦略、事業内容、社長の性格・能力、ネット情報などが挙げられます。
これらは、決算書などの「数字」に影響を与える要素であり、決算書がイイ加減なのだとしたら、その元ともいえる「定性情報」を評価しよう、という考え方(定性評価)が銀行員にはあります。
つまり、決算書で定量評価もするのだけれど、決算書だけでは頼りないので、定性評価もふまえて、全体を評価しようということです。だとすれば、会社は定性評価への対応も重要だとわかるでしょう。
信頼できる決算書をつくる努力をするのが最善策とすれば、加えて次善策として、定性評価に必要な情報提供にも努力する。なぜなら、銀行には中小企業の決算書を疑う先入観があるからです。だから、次善策も必要だと考えます。
というわけで、さきほど挙げたような定性情報については、会社のほうで主体的にとりまとめて、銀行に対して積極的に提供・説明するのがおすすめです。
経営理念や経営戦略、事業内容であれば、経営計画書というカタチで文書にまとめるのがよいでしょう。計画書を通じて、社長の性格・能力も伝わるはずです。
ネット情報については、自社WEBサイトの内容や、顧客のクチコミ、メディアの掲載実績などをとりまとめておくと、銀行員としても助かると聞きます。銀行員も忙しいからですね。
定性情報を準備するのには、時間と手間がかかります。ですが、それは銀行のためだけではありません。自社を客観的に見る機会にもなるため、社長のため・会社のためにもなるものです。ぜひ、取り組んでいきましょう。
まとめ
中小企業の決算書はイイ加減があたりまえ。それが、銀行員の見方です。そのうえで、会社はどうしたらよいのかについて、考えてみました。
まずは、イイ加減ではない決算書づくりに努めること。それでも、イイ加減だと先入観を持たれることはあるので、次善策として「定性評価」への対応にも努めることをおすすめします。