銀行員なんだから見ればわかる、というハナシがあります。銀行員なんだから決算書は読めるだろう。だったら、とやかく説明する必要はないだろう、みたいな。でも、それは違います、というお話をします。
銀行員だけは「全員デキる人」なんてことは
銀行融資を受けている会社であれば、社長は銀行員を話をする機会が少なくないでしょう。その銀行員について、こんなハナシがあります。それは…
「銀行員なんだから、見ればわかる」
どういうことかというと、たとえば、銀行員なんだから決算書は読めるだろうとか、銀行員なんだから簿記(仕訳)がわかるだろうとか、銀行員なんだから法人税申告書もわかるだろうとか。
だとすれば、決算書なり申告書なりを銀行員が見ればわかるし、こちらが説明などせずともわかりますよね。といったハナシです。結論、それは違います。
ハッキリいうなら、「銀行員なんだから見ればわかる」というのはウソです。もちろん、見ればわかる銀行員もいます。でも、見ればわかる銀行員ばかりではない、ということです。
まぁ、あたりまえですよね。どんな業界でも、どんな会社でも、デキる人とデキない人とが存在します。なのに、銀行員だけは「全員デキる人」なんてことはないわけです。
それでも、デキる銀行員はいるし、見ればわかる銀行員もいる。だったら、デキない銀行員にだけ、気をつけて話をすればよいかというと、それがそうでもありません。
というのが、今回のお話のキモです。つまり、銀行員が見ればわかるのだとしても、大事なことはこちらから伝えていきましょう。そういうことになります。でも、なぜわざわざ…?
このあと、お話をしていきます。
見ればわかるとしても伝える理由
心象の問題として
たとえば、今期は社長の役員報酬を下げた場合、それは決算書にあらわれます。だとすれば、銀行員は決算書を見れば、役員報酬を下げたことはわかるわけです。見ればわかる。
デキる銀行員であれば、決算書の全体をつかんで、業績が悪化しているようなら「社長が責任をとって、じぶんの役員報酬を下げたのだろう」と想像することでしょう。
その想像が、事実だとして。じゃあ、こちらからは銀行員に何も伝えなくてよいかといえば、そんなことはありません。「じぶんが責任をとって、役員報酬を下げました」と伝えたほうがいい。
なぜなら、社長のクチから伝えることで、銀行員の心象をよくする効果があるからです。
役員報酬を下げたことは、決算書を見ればわかるし、社長が責任をとったことも想像がつく。それでも、実際に「じぶんが責任をとって」という言葉を、社長のクチから聞くか聞かないかでは、心象に差がつくものです。
もちろん、心象だけで融資が受けやすくなったりはしませんが、銀行員も人間ですから、心象がまったく影響しないということもありません。心象は、よいに越したことはないのです。
したがって、たとえ見ればわかるのだとしても、銀行員の心象を考えて、あえて伝えるということも検討するようにしましょう。
銀行員がラクできる
銀行員は、融資先の資金繰りを気にしています。いうまでもなく、資金繰りの良し悪しが、貸したおカネの返済可否に影響するからです。なので、銀行員は、融資先の資金繰りを把握しようとします。
そのための道具が、資金繰り表です。銀行員は、融資先の決算書や試算表を見ながら、あるいは、社長や経理担当者へのヒアリングなどから、資金繰り表を作成することもできます。
これも、ある意味、見ればわかるというケースの1つです。
だったら、会社がわざわざ、資金繰り表をつくって銀行に渡さなくてもよいのでは?という考えもあるでしょう。ですが、それでも会社が資金繰り表をつくって、銀行員に渡す意味はあります。
それは、銀行員がラクできることです。銀行員も忙しいので、じぶんで資金繰り表をつくれるのだとしても、メンドーであるし、会社がつくってくれるほうがいいに決まっています。
だとすれば、資金繰り表をつくってくれる会社と、つくってくれない会社、銀行員がどちらを好むかはわかるでしょう。どちらを優先的に、対応してくれそうかの想像もつくでしょう。
事実、「資料や情報をできるだけそろえてくれる会社から、融資を検討する」というハナシを、銀行員の方からは聞いてもいます。
資金繰り表は一例であり、ほかにも銀行員がラクできるよう、あえて文書にして渡すことも検討してみましょう。
誤解もありうるから
売上が下がった場合、決算書を見ればわかります。だったら、わざわざそれを銀行員に伝えなくてもいいか、といえば。やはり、そうでもありません。銀行員による誤解もあるからです。
たしかに、売上が下がったことは、決算書でわかります。でも、売上が下がった「理由」はどうでしょうか。銀行員は「売上不振」が原因だと推測しているかもですが、実際にはそうではないこともあるはずです。
なかには、戦略的な売上減少というケースもあります。利益率を引き上げるために、あえて売上減少を容認したとか。たとえば、値上げをすれば、一定の客離れが起きることがあります。
結果として、売上が減少する。でも、いっぽうで利益率は上がっている。場合によっては、売上が減っても、利益は増えているということもあるでしょう。
これを、銀行員に「売上不振」と誤解されるのではたまりません。それこそ、銀行員なのだから決算書を見ればわかるだろうということですが、銀行員もデキる人ばかりでないことは前述しました。
ですから、誤解されているかもしれないことを想定して、大事なことほど、あえて伝えるようにしましょう。
毎年決算がおわると、決算書のコピーを銀行員に渡すだけで、ロクロク説明もしない。という会社は、少なくないようです。が、誤解される可能性が高まるので注意が必要です。
まとめ
銀行員なんだから見ればわかる、というハナシがあります。銀行員なんだから決算書は読めるだろう。だったら、とやかく説明する必要はないだろう、みたいな。でも、それは違います、というお話をしました。
相手がデキる銀行員であり、見ればわかるのだとしても、伝えるべきは伝えるようにしましょう。その理由は、本記事でお伝えをしたとおりです。