たとえば、銀行からの借入金が1億円あったとします。1億円の借金というと、とても大きな金額であり、過剰債務におもえるかもしれません。でも、その見方は間違っている、というお話です。
1億円の借金はとても大きい
会社の銀行借入について。ときおり、ニュースなどでは「過剰債務」という言葉が使われます。ここでいう債務とは、おもに銀行からの借入金であり、それが多すぎるということです。
たしかに、銀行からの借入金が多くてタイヘンだ…といった声を見聞きもします。が、実のところ、銀行借入金の総額には意味がありません。言い換えると、銀行借入金の総額だけを見ていても、社長は正しい現状把握ができないということです。
たとえば、銀行からの借入金が1億円あったとします。1億円の借金というと、とても大きな金額であり、それこそ過剰債務におもえるかもしれません。でも、そうではないかもしれない。
その理由を、このあとお話ししていきます。
銀行借入金の総額には意味がない、といえる理由
預金があれば
冒頭、1億円の銀行借入金の話をしました。では、預金も1億円あったらどうでしょう。まったくもって過剰債務ではありませんよね?だって、いつでも完済できてしまう状態だからです。
ちなみに、1億円を銀行から借入した瞬間には、まさに1億円の預金もある状態ですから、どれだけの額を借入しようと、借入した時点での過剰債務はありえません。
過剰債務というのは、「借入金>預金」の状態であり、借入をしたあとに借入した預金を何らかの理由によって(たとえば赤字の補てん)、大きく目減りさせてしまった状態だといえます。
いっぽうで、「借入金=預金」あるいは「借入金<預金」であれば、過剰債務とはいえません。預金がありさえすれば、借入金が多いことだけをもって慌てずともよい、ということです。
なお、借入が多すぎないかをはかる指標として「債務償還年数」があります。算式でいうと、次のとおりです↓
債務償還年数=借入金残高÷(税引後利益+減価償却費)
このうち「税引後利益+減価償却費」は、年間の返済財源であり、これで借入金残高を割ることによって、どれくらいの年数で完済できそうかがわかります。
銀行の見方としては、「10年未満が望ましい」です。逆に、10年を超えるようだと「貸しすぎ(もう貸せない)」と考えます。とはいえ、預金があれば、その分の借入金はないのといっしょです。
よって、債務償還年数を厳密に考えるのであればこうなります↓
債務償還年数=(借入金残高ー預金残高)÷(税引後利益+減価償却費)
これであれば、預金があるほど債務償還年数は短くなり、借入金は預金といっしょに見るべきものだとわかります。
債務超過か否か
過剰債務と似た言葉に「債務超過」があります。過剰債務を気にするよりもまず、債務超過かどうかを気にしたほうがよいでしょう。過剰債務の基準は不明瞭ですが、債務超過は明瞭です。
ずばり、「資産<負債」の状態が債務超過となります。貸借対照表を見て、資産の総額と負債の総額とを比べてみれば一目瞭然です。すぐに確認をしてみましょう。
そのうえで、債務超過とは。資産より負債が大きいのですから、危険な状態だとわかります。資産をすべて現金化しても、負債を完済できないということです。
銀行は「貸しすぎ」と判断をするため、債務超過になると極端に融資が受けにくくなることを覚えておきましょう。では、なぜ債務超過になるのか?銀行借入金が増えるから?
違います。銀行借入金(負債)が増えても、同額の預金(資産)が増えることは前述したとおりです。銀行借入金が増えても債務超過にはなりません。債務超過の要因は別にあります。
それは、「赤字(税引後利益がマイナス)」です。赤字が積み重なると、貸借対照表の利益剰余金はマイナスとなり、やがてそのマイナスは資本金をも上回ります。そうして、純資産がマイナスになると債務超過です。
「純資産=資産ー負債」という関係にあるため、「資産<負債」とは「純資産がマイナス」であることはわかるでしょう。よって、赤字をいかになくすかが、債務超過を避けるカギです。
なお、赤字が積み重なると、その補てんのために預金が使われることになります。すると「預金<銀行借入金(借りた瞬間は、預金=銀行借入金)」となるため、結果として「資産<負債」となるわけです。
銀行借入金が多いことと、債務超過とは別モノです。あわせて確認をするようにしましょう。
内訳が重要だ
銀行借入金を見るときには、もうひとつ。内訳の確認も重要です。つまり、その銀行借入金は、どのような借入金なのか?このとき、「どのような」の区分にはいろいろあります。
まずは、どの銀行からいくらずつ借りているのか。そのうえで、どのような条件で借りているのか、ということになります。条件は、いろいろあるはずです。
返済期間、金利、担保・保証の有無など。とくに確認をしておきたいのが、「信用保証協会の保証付き融資」か「プロパー融資」かです。この確認ができていない社長が少なくありません。
すると、結果的に、融資条件が悪くなってしまいます。
そもそも、保証付き融資とは、信用保証協会の保証が付いた融資であり、制度上の限度額がある点で注意が必要です。無担保なら8,000万円が制度上の上限ではあるものの、会社の規模や状況などによっては、それ以下となります。
いずれにせよ、限りがあるのが保証付き融資です。保証付き融資は、銀行にとってはリスクが小さい融資であるため(会社が返済できなければ、信用保証協会が銀行に返済してくれる)、貸しやすい融資だといえます。
だとすれば、いざというとき(業績悪化時など)のために、余裕を残しておきたいのが保証付き融資です。よって、いまどれだけの保証付き融資を借りているかを把握しておく必要があります。
また、保証付き融資を「材料」にして、プロパー融資を引き出すことも大切です。保証付き融資で銀行がリスクを減らせた分、プロパー融資で少しはリスクを取ってもらうように交渉します。
プロパー融資(信用保証協会の保証がない融資)には、保証付き融資のような限度額はありません。よって、プロパー融資をどれだけ引き出せるかで、会社の資金繰りは大きく変わるのです。
まとめ
たとえば、銀行からの借入金が1億円あったとします。1億円の借金というと、とても大きな金額であり、過剰債務におもえるかもしれません。でも、その見方は間違っている、というお話をしました。
銀行借入金を見るのであれば、ほかにもいっしょに見るべきものがあります。本記事で挙げた項目についても、いっしょに見ることができるように覚えておきましょう。それができれば、社長はより正しい現状把握ができるようになるはずです。