無借金で会社がつぶれる分には、ゼロから再スタートが切れる。これは、借金経営に対する反論です。が、そもそも会社がつぶれるのは本望なのか。その反論には、勘違いがあるかもしれません。
思わぬ後悔をすることになるかもしれない
借りれるときに借りれるだけ借りておきましょう、という話をよくしています。ここでいう借りるとは、会社の資金繰りにおける銀行融資の話であり、いうなれば借金経営の推奨です。
この点、次のような反論をいただくことがあります。それは、「無借金で会社がつぶれる分には、ゼロから再スタートが切れる」というものです。
言い換えると、「借金があって会社がつぶれると、マイナスからのスタートになってしまう」ということであり、だったら借金経営などやめたほうがよいし、無借金経営のほうがいいはずだ。
と、まぁ、そんな反論です。なるほどたしかに、もっともらしいハナシでしょう。もちろん、その考えを否定するつもりはありませんし、借金経営は強要するものでもありません。
ですが、「無借金で会社がつぶれるのは本望か」については、いちど問い直すのがよいでしょう。なぜなら、あとあとになって、思わぬ後悔をすることになるかもしれないからです。
つぶれる前提がおかしい
さきほど取り上げた、借金経営に対する反論を再掲します。それは、「無借金で会社がつぶれる分には、ゼロから再スタートが切れる」という反論でした。
これを聞いたわたしは、とても疑問におもいます。「つぶれることが前提でいいの?」という疑問です。つまり、無借金であろうとなかろうと、借金があろうとなかろうと、そもそもつぶれないほうがよくないですか?と、おもうのですがいかがでしょうか。
どんな社長も、事業をはじめるときにはつぶれることを前提にはしないはずです。事業の継続を前提に、つぶれないようにするためにはどうするかを考えるはずです。
だとすれば、「無借金で会社がつぶれる分には、ゼロから再スタートが切れる」との反論には、どこかおかしなものがあります。繰り返しですが、そもそも会社がつぶれないほうがいいし、つぶれなければ再スタートの必要もないからです。
にもかかわらず、そのようなおかしな前提を持ち出してしまうのはなぜなのか?借金に対する誤解が理由だろう、というのが、わたしの考えです。
借金だけが増えるという勘違い
借金に対する誤解、といいました。大きく分けると2つあります。1つめは、借金だけが増えるという勘違いであり、2つめは、借金しなくても大丈夫という勘違いです。
まずは、1つめの借金だけが増えるという勘違いから。ここでいう借金とは、銀行借入のことです。では、銀行借入をすると、借金だけが増えるのか?それはイヤですよね。でも、違います。
借金が増えるのと同時に、同額のおカネも増えるからです。1億円の銀行借入をすれば、同時に1億円のおカネが増えます。そのおカネを使わずに置いておけば、いつでも完済できる状態です。
冒頭、「借金があって会社がつぶれると、マイナスからのスタートになってしまう」との反論を取り上げましたが、これもまたおかしな理屈であることがわかるでしょう。
借金しても会社はつぶれません。繰り返しですが、1億円の銀行借入をすれば、同時に1億円のおカネが増えるからです。ではなぜ、会社がつぶれるのか?別に原因があるからです。
たとえば、業績が悪化したとか。すると赤字になって、おカネは増えるよりも減るようになります。そして、おカネが底をつくとつぶれることになるわけです。
このとき、借金があったのだとすれば、借金をしていた分だけ、つぶれるまでの時間を延ばすことが「できた」と考えるべきでしょう。借金(銀行借入)していなければ、もっと早くつぶれていたはずだ、ということです。つぶれたことと借金とは無関係だ、ともいえます。
なので、「借金があって会社がつぶれる」というのもまたおかしなハナシです。借金で会社がつぶれることはなく、これは、借金だけが増えるという勘違いにもとづいています。
借金しなくても大丈夫という勘違い
借金に対する誤解の2つめが、借金しなくても大丈夫という勘違いです。事業は山あり谷あり、社歴の長い会社の社長ほど、そのようにおっしゃいます。
では、谷で必要になるものは?おカネです。売上が激減してしまった、大きな損失が生じてしまった、そんなときにも耐えるために必要なのはおカネしかありません。
たとえ1円でもおカネが足りなくなれば、会社はつぶれます。最近のことでいえば、新型コロナが多くの会社に、大きなダメージを与えました。「想定外の谷」といってよいでしょう。
やはり、事業は山あり谷ありなのです。結果として、これまで銀行借入をしたことがない会社も、コロナ禍では借入をすることになったのです。
だとすれば、「いまは大丈夫だから、これからも大丈夫。いまは借入の必要がないから、これからも必要ない」という考えは勘違いであることがわかります。
前述もしたとおり、会社はつぶれるのが前提はありませんから、つぶれないためにどうするかを考えなければいけません。つぶれないための方法の1つが、「借りれるときに借りれるだけ借りておく」です。
新型コロナのときのように、国の後押しによって迅速に借入ができるときばかりではありません。自社単独の事情で谷を迎えることもあります。そのとき、銀行が貸してくれるかといえば困難です。
いうまでもなく、銀行はリスクを嫌います。すでにピンチの会社に、好んで融資をするほど銀行はお人好しではありませんし、そもそもビジネスですから、ビジネスライクが当然なのです。
借りたいときほど借りれない。だから、借りれるときに借りれるだけ借りておく、という考え方も忘れないようにしましょう。
無借金で会社がつぶれるのは本望か
というわけで、借金に対する誤解として、2つの勘違いを説明しました。借金だけが増えるという勘違いと、借金しなくても大丈夫という勘違いです。
それでも、「無借金で会社がつぶれる分には、ゼロから再スタートが切れる」と反論できるのかどうか。
そもそも会社がつぶれないほうがいいし、つぶれなければ再スタートの必要もありません。ならば、会社をつぶさないためにどうしたらよいか。借金(銀行借入)を毛嫌いせずに、借金を活かすことも考えてみましょう。
資金繰りに窮した社長が、「あのとき、もっと借りておけばよかった」と後悔する姿を、わたしは実際にも目にしたことがあります。