従業員による不正? いやいや、ウチに限ってそんなことはない。
なんて考えてはいませんか。疑いたくない思い・信じる気持ちはわかりますが、無防備や無関心の先に、不正な経理や横領は起きるもの。対策は必要です。
というわけで。従業員による不正な経理・横領を防ぐための3つの対策についてお話します。
従業員による不正な経理・横領を防ぐための3つの対策
事業がある程度の規模になると、経営者は、経理やおカネに関することを従業員に任せるようになるものです。
経理担当者を配置する、経理部をつくって経理部長を配置する、などなど。
ここで注意が必要なことのひとつとして、任せた人たちによる「不正な経理・横領を防ぐ」ことが挙げられます。
おいおい、ウチの社員を疑えってことかい? と思われるかもしれませんが。そうです、疑ってください。
基本的に、経営者とは情に厚く、他人を信じることに長けています。けれども、それはそれ、これはこれ。信じつつも、疑いましょう。
ヒトには悪意のほかに出来心というものがあり、「ついついやってしまいました」などという話があとを絶たないのです。
不正や横領に対する会社の備えが、過度に無防備・無関心であるあまり。従業員の出来心を誘発してしまうことはあるもので。
そうなると、やってしまった本人の金銭的・社会的ダメージはもちろんのこと。会社や経営者もまた、金銭的・精神的なダメージを被ります。これは不幸です。
たいせつな従業員が不幸になることを防ぐために、会社や経営者自身を守るために。従業員の不正や横領はあえて疑いましょう。防ぎましょう。
そのための対策は、大きくわけて次の3つです ↓
- 日常に「承認」を取り入れる
- 定期的に「検査」を取り入れる
- 計画的に「予実」を取り入れる
それでは、それぞれを詳しく見ていきましょう。
《対策1》日常に「承認」を取り入れる
従業員による不正な経理・横領に対する対策、ひとつめのポイントは「承認」です。
経理を一任、から生まれるリスク
事業・会社の規模が大きくなってくると、経営者が経理の実務(帳簿づけなど)に直接関わることは難しくなるでしょう。
結果、従業員に任せていくことになります。これはこれで仕方のないことですし、経営者が経営という仕事に集中するために必要なことでもあります。
ところが、経費の計上や現金の取り扱いなどを、経理部長や経理担当者などに「一任する」ことにはリスクがあります。
それは、すべてを任せた分だけ権限が集中し、不正や横領をしやすくしてしまう。というリスクです。
パフォーマンスでけん制する
ここで対策として取り入れるべきは、経営者による「承認」の機会を設けることです。経費の計上や現金の取り扱いに関して、経営者が承認する場をつくります。たとえば、
- 経費精算書や出金伝票を、社長が確認し承認印を押す
- 毎朝、実際の現金残高と、現金出納帳(会計帳簿)の残高とを、社長が確認し承認印を押す などなど
経費を計上するための「経費精算書」「出金伝票」などは、経理担当者や経理部長が作成・確認をしているはずのもの。経営者までもが確認し、承認印を押すなんて時間のムダ。という見方もあります。
それでも経営者が関わる理由は、不正・横領への「けん制」にほかなりません。極端なハナシ、ここで言う「社長の承認印」はめくら判でも、その効力を発揮します。
要は、「社長も見ているんだぞ」というパフォーマンスでもあり。これにより、経理担当者や経理部長に緊張を促す効果があるはずです。
もちろん、しっかり確認し承認するのがベストですが、社長だって忙しい。だから、承認印を押す、という行為で代替するわけです。ただし、「ただのパフォーマンスだ」と悟られぬよう気を付けて。
また、従業員による個人的な経費の漬け込み(プライベートの支払を会社の経費として処理すること)のほかに、現金の抜き取り・持ち出しという不正も少なくありません。
この点についても、実際の現金残高と現金出納帳に対する社長の確認・承認印という対策は有効でしょう。
なお、「毎日」という頻度で確認・承認するかどうかは程度問題です。1ヶ月にいっぺんだとしてもやらないよりは良いですし、1週間にいっぺんのほうがもっと効果があるかもしれない。
では、毎日のほうがよいか? ということは各自・各社の検討事項です。コスト対効果も含めて考えましょう。
さらに、社長以外の承認者を設けることで代替する方法もあるでしょう。たとえば、他の役員などに確認・承認してもらう。これでも、経理担当者や経理部長へのけん制にはなります。
いっぽうで、代替させた役員に対しては、やっぱりどこかで社長からのけん制が必要になることは覚えておかなければいけません。
《対策2》定期的に「検査」を取り入れる
従業員による不正な経理・横領に対する対策、ふたつめのポイントは「検査」です。
しくみがない、から生まれるリスク
経理や現金の取り扱いについて、ルールがない、ルールがあってもノーチェックということだと。それが、従業員の不正・横領を許すきっかけになりえます。
不正・横領だけでなく、誤り・ミスを見逃してしまうということもあるでしょう。
各々が自分の好き勝手にやりやすいようにやっていたのでは、どこをどうチェックすればいいかもわからない・・・
これらは、経理や現金の取り扱いについて体系化できていない、しくみが無いことに対するリスクです。
内部監査によるチェック
対策として取り入れるべきは、まず、経理や現金の取り扱いに関してルール化すること。フローチャートやマニュアル、規程などにより、誰の目にも見えるカタチにすることです。
マニュアルづくりだなんてタイヘンだ、と思うかもしれませんが。はじめは、経理担当者や経理部長が「いまやっていること」を書き出してもらうだけです。すべてはそこからはじまります。
これを、経営者もいっしょになって眺めることで、「どうしてこんなことやってくれちゃってるの?ちょっと余計だよね?」とか、「どうしてこんなにテキトーなの?もっと厳しくやってよね」とか。
経営者と経理業務関係者とが侃々諤々(かんかんがくがく)やりあうことで、現状が精査されます。その結果を、さいごに文書化することでマニュアルや規程は無理なく自然にできるもの。
ゼロから作ろうとするから難しくなるのです。加えて、理想論ばかりのおかしくなモノになってしまうのです。
というわけで文書ができたなら。あとはその通りに運用すること。運用されているかをチェックすることです。たとえば半期に1回、1年に1回など、時期と頻度を決めてチェックをします。
具体的なチェックのしかたは、
- 経理書類のうち、いくつかをサンプリング。マニュアル・ルール通りに記載・運用されているかを確認する
- 確認は、書類作成者など直接の関与者とは別な者が行う
- 運用誤り・未実施などが確認された場合には、是正し、必要に応じて改善策を講じる。あるいは、マニュアル・ルールを見直す
これら一連の流れを、「内部監査」あるいは「内部統制」などと呼びます。
とくに事業・会社の規模が大きくなってきたときには、ルール化・しくみ化は重要な課題となります。とはいえ、過度に厳密化・緻密化しない程度に、バランスよく実現をはかることがポイントです。
《対策3》計画的に「予実」を取り入れる
従業員による不正な経理・横領に対する対策、3つめのポイントは「予実」です。「予定」と「実績」という意味の予実。
比べるものがない、から生まれるリスク
もしも、従業員による個人的な経費の漬け込みが行われていると。その漬け込みが「地味にコツコツ」となされるケースにおいて、《対策1》《対策2》では見つけにくいことがあります。
そのまま決算書が出来上がってしまった場合。決算書だけを眺めていても、その不正・横領をあぶりだすことは難しくなります。
たとえば、消耗品費が年間で300万円であることが決算書でわかったとしても。「だからなに?」ということで終わってしまう。
ところが、消耗品費は年間で240万円くらいが正常であったはず、という目安があればどうでしょう。差額の60万円についてが、不正・横領発覚のきっかけになりえます。
「消耗品費は年間240万円」という比較対象を持つことで、決算書を素通りさせてしまうリスクを回避することができます。
あるべき姿、あるべき数字を計画する
ここで講じるべき対策は、経費について「計画(予定)値」を持つことです。
さきほどまでの消耗品費の例で続けると。消耗品費は年間で240万円、月間20万円を計画値とする。といった、計画を立てることです。
ここで言う「月間20万円」は、当然、会社にとって必要な消耗品費であり。従業員の不正による経費の漬け込み分を含みません。
計画段階から、社長が関り、月間20万円の根拠をしっかりと握っておけば。この計画値の金額が歯止めとなり、従業員は経費の漬け込みがしづらい環境となります。
同様に、その他の経費についても、各経費の項目(勘定科目)ごとに、計画値を作成していきます。これにより出来上がるのが、「数値計画」とか「予算書」と呼ばれるもの。
あとは、この計画(予定)値に対して、実績の数字を対比していきます。年に1回だけではなく、できれば毎月、月次決算のタイミングで対比をするのがよいでしょう。
実績が計画(予定)値を上回る経費項目があれば、その内容・理由を確認する。これを「予実(よじつ)」管理と呼びます。
この「予実」の慣習もまた、従業員にとってはけん制として機能するはずです。
まとめ
従業員による不正な経理・横領を防ぐための3つの対策についてお話をしてきました。
- 日常に「承認」を取り入れる
- 定期的に「検査」を取り入れる
- 計画的に「予実」を取り入れる
経営者が、経理担当者や経理部長に、経理を「任せる」こと自体には問題がありません。問題があるとすれば、それは「放任」です。
一任をしたつもりが、信頼をしたつもりが。結果的に、放任になってしまうことがあります。
そんなことにならぬよう、任せた者の責任として。任せつつも疑う、任せつつも対策を打つことをおすすめします。
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きょうの執筆後記
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