従業員に支払う給与がUPしたり、従業員のための研修費がUPしたり。
そんなときに、税金を最大 20%OFFにする税額控除制度「所得拡大促進税制とは」についてお話をします。
「給与UP+研修費UP=税金が最大20%OFF」の所得拡大促進税制
税金の世界には「税額控除」という制度があります。文字どおり、税額を控除する。つまり、支払うべき税金が安くなる。
そんな税額控除制度のひとつに、「所得拡大促進税制」と呼ばれるものがあります。
なんとも大仰な名前が付されてはいますけれども。所得拡大促進税制とは? をカンタンに言うと次のとおりです ↓
従業員に支払う給与がUPした、加えて、従業員のための研修費がUPしたら
↓
税金(会社なら法人税、個人事業者なら所得税)を最大 20%OFFにできる
上記のとおり、「給与UP + 研修費UP」の会社・個人事業者は「税金が最大 20%OFF」と、たいへんオトクな税額控除が「所得拡大促進税制」です。
というわけで。「給与UP」「研修費UP」とは、具体的にどれくらいのUPを言うのか? など具体的なことをお話していきます。
ただし、とことん厳密にお話をしようとするとわかりづらくなってしまいますので。わかりやすさ重視で、制度の全体像をつかむことを目的にお話をしていきます。
だいじなことは、「こういう税額控除があるんだな」とアタマに入れておくこと。厳密で細かい部分は、顧問税理士に聞くなどすればよいのですから。
恐ろしいのは、税額控除があることを知らなかった・気づかなかった(顧問税理士も気づかなかった…)というパターンです。
本記事の内容は、青色申告をしている中小企業(資本金1億円以下の会社や個人事業者)に限定しています。
大企業も所得拡大促進税制は利用できますが、条件や税額控除の金額などが異なりますことを申し添えます。
「給与UP」「研修費UP」とはいかほどのUPか?
税額控除を受けるにあたり必要な「給与UP」と「研修費UP」は、具体的にどれくらいのUPを言うのか。についてお話をしていきます。
はじめにひとつ、重要なおことわりがありますので、必ずご確認をお願いいたします ↓
これ以降の内容は、平成30年4月1日以降に開始する事業年度(個人事業者は平成31年分以降)が対象になります。
それ以前の事業年度については、同様の税額控除はあるものの、条件や税額控除の金額などが異なりますため別途ご確認願います。
( ※ 事業年度とは、会社の場合には、決算日の翌日〜決算日までの通常1年間。個人事業者の場合には、1月1日から12月31日まで)
上記をご確認いただきましたところで、お話をはじめていきましょう。
「給与UP」のUPとは?
給与UPについてまとめると、次のとおりです ↓
次のいずれの条件も満たしていること
- 前事業年度の従業員への給与総額 < 当事業年度の従業員への給与総額
- 当事業年度の正社員への給与総額が、「前事業年度の正社員への給与総額 × 1.5% 」以上UP
上記に①②ついて、補足をします。
① 前事業年度の従業員への給与総額 < 当事業年度の従業員への給与総額
ここでのポイントは「従業員」への給与(給料・賞与)が対象であることです。役員報酬は除きますので注意しましょう。
したがって①は、従業員に支払った給与総額が、前事業年度1年間よりも当事業年度1年間のほうが増えているか? をあらわしています。
前事業年度よりも当事業年度のほうが増えていれば、①の条件はクリアです。
会社の場合には、決算日の翌日〜決算日までの通常1年間。個人事業者の場合には、1月1日から12月31日までを「事業年度」と呼びます。
② 当事業年度の正社員への給与総額が、「前事業年度の正社員への給与総額 × 1.5% 」以上UP
ここでのポイントは「正社員」というところ。①では「従業員」だったのに対し、②では「正社員」が対象になります。
つまり、①では「正社員+アルバイト・パートなど」、②では「正社員のみ」とイメージしましょう。
なお、①と同じく、役員については除きます。あくまで、従業員かつ正社員だけを考えます。
加えてもうひとつ。ここでの「給与総額」に含まれる正社員は、前事業年度のはじめから当事業年度のおわりまで給与があった正社員のみです。
言い換えると。正社員であっても、前事業年度から当事業年度のあいだに、途中で入退職などがあった正社員の給与は除く。ということになります。タイヘンにややこしいですね…
以上より②は、当事業年度1年間の正社員への給与総額が、「前事業年度の正社員への給与総額 × 1.5%」以上増えているか? をあらわしています。
前事業年度よりも当事業年度のほうが、1.5%以上増えていれば、②の条件はクリアです。
本文中ではわかりやすさ重視で「正社員」と表現したところは、厳密に言うと「雇用保険の一般被保険者」とされています。
つまり、給与から雇用保険を天引きされている従業員であり、週20時間以上働くアルバイト・パートなども厳密には含まれる。ということになります。念のため。
「研修費UP」のUPとは?
研修費UPについてまとめると、次のとおりです ↓
当事業年度の従業員への研修費総額が、「前事業年度の従業員への研修費総額 × 10% 」以上UP
ここでのポイントは、まず、「従業員」に対する研修費が対象であること。言い換えると、「役員」に対する研修費は除く、ということです。
そのうえで、当事業年度1年間の従業員への研修費総額が、「前事業年度の従業員への研修費総額 × 10%」以上増えているか?
前事業年度よりも当事業年度のほうが、10%以上増えていれば、上記の条件はクリアです。
では、ここで言う「研修費」とは具体的にどういうものなのか? たとえば、次のようなものが挙げられます↓
- 外部のセミナー、講習会などの参加費用(宿泊費・交通費除く)
- 外部講師への報酬・謝金・宿泊費・交通費
- 研修を行う際の貸会議室利用料 など
従業員が仕事をするにあたり必要な技術・知識の習得や向上のための上記のような費用が「研修費」ということになります。
- 研修で使用する自社所有の施設・設備の取得費、維持費、減価償却費
- 研修中の社員の人件費
- 研修に使う教科書・参考書などの教材購入費 など
「給与UP+研修費UP」でいくらの税額を控除できるのか?
ここまで、給与UPとはどういうことか? 研修費UPとはどういうことか? を見てきました。
これを受けて、給与UP・研修費UPの条件を満たした場合に控除できる税額についてまとめます。次のとおりです ↓
条件 | 控除できる税額 | 控除税額の上限 | |
パターン① | 「給与UP」クリア | 従業員への給与増加額 × 15% | 控除前の税額 × 20% |
パターン② | 「給与UP」クリア+「研修費UP」 ※ 給与UPは、別途「2.5%以上」の条件付き | 従業員への給与増加額 × 25% |
上記のパターン①②について、補足をします。
パターン①(給与UPのみ)
前述した「給与UP」「研修費UP」という2つの条件のうち、「給与UP」のみクリアしている場合です。
控除できる税額(上記表の右から2列め)
パターン①で、控除できる税額は「従業員への給与増加額 × 15%」になります。
「従業員への給与増加額」を算式で表すと、「当事業年度の従業員への給与総額 ー 前事業年度の従業員への給与総額」です。
ここでの注意点は、「従業員」というところ。役員は除き、アルバイト・パートなどは含みます。気をつけましょう。
つまり、正社員・アルバイト・パートなど従業員の給与総額について、「前事業年度よりも増加した金額の15%」を税額控除できる。ということです。
税額控除の上限(上記表の右端の列)
控除できる税額には、大きな注意点があります。それは、税額控除には上限があるということ。
その上限は、「税額控除する前の税額(会社であれば法人税・個人事業者であれば所得税)× 20%」になります。
本来納めるべきであった法人税や所得税の20%までしか控除できない、ということです。
ですから、前述した「控除できる税額」である「従業員への給与増加額 × 15%」がいくら大きくても。最大で「控除前の税額 × 20%」までしか控除できません。
とはいえ、本来納めるべき税金の20%もOFFなのですから大きな減税だと言えるでしょう。このようにして、国は「賃上げ」を促している・支援しているわけです。
パターン②(給与UP+研修費UP)
前述した「給与UP」「研修費UP」という2つの条件のうち、「給与UP」と「研修費UP」の両方をクリアしている場合です。
ここで大切なポイントがひとつ。パターン②における「給与UP」は、パターン①よりも少しだけ条件が厳しくなります。次のとおりです ↓
次のいずれの条件も満たしていること
- 前事業年度の従業員への給与総額 < 当事業年度の従業員への給与総額
- 当事業年度の正社員への給与総額が、「前事業年度の正社員への給与総額 × 2.5% 」以上UP
条件が厳しくなったのは「2.5%」のところです。パターン①の場合には「1.5%」でOKでした。
というわけで、条件が厳しくなった代わりに、控除できる税額がパターン①よりも大きくなります ↓
控除できる税額(上記表の右から2列め)
パターン②で、控除できる税額は「従業員への給与増加額 × 25%」になります。
パターン①に比べると、控除できる金額がさらに10%上乗せされる。ということです。
したがって、「給与UP(2.5%条件付き)」をクリアしているのであれば、忘れずに「研修費UP」のクリアも検討してみましょう。
ちなみに。給与UPにしても、研修費UPにしても、決算日を過ぎてからではどうしようもありません。
決算日を迎える前に給与や研修費の金額を確認し、計画的な条件クリアが可能かどうかを検討することが大切です。
あくまで「計画的」に。税額控除目的でやみくもに給与・研修費をUPするのでは本末転倒です。
税額控除の上限(上記表の右端の列)
パターン①と同じく、パターン②も税額控除に上限があります。
上限はパターン①と変わらず「控除前の税額 × 20%」です。
控除する税額には10%の上乗せがありましたが、上限金額には上乗せがない。という点に注意しましょう。
パターン②では、「研修費UP」の代わりの方法が用意されています。研修費UPは難しいなぁ、というときの次善策。
それは「中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受け、経営力向上を実行すること」です。耳慣れないヒトには「なんのこっちゃ」というものなのですが。
「経営力向上計画」は、研修費UPほどの手軽さはなく、準備に相応の時間と手間が必要になります。詳しくは税理士などにご相談を。
まとめ
「給与UP+研修費UP」で税金を20%OFFにする、所得拡大促進税制についてお話をしてきました。
ややこしい論点が山積みではありますが。「給与UP」や「研修費UP」したときに使える税額控除があったような…? という勘が働くようにはしておきましょう。
知っているかいないか、気づくか気づかないかで、税額がまったく変わってしまうところです。