先日、食事を共にした友人が、割り勘で会計を済ませたあと領収書を差し出してくれました。「経費の足し」にと、「自営業」であるわたしを気遣ってくれたわけです。
いうなれば半分は他人の領収書。この領収書、どうします?
他人の領収書をもらって経費にするのは「脱税」です
せっかくの友人の厚意でしたが、領収書の受け取りは辞退申し上げました。そのとき、友人がくちにしたのは「みんなやってることなのに」。「みんな」ねぇ・・・
今回は「領収書」について、その「みんながやっている」と言われていることについて考えてみます。
みんながやってる領収書入手法
「みんな」というのは、この場合、おおむね「自営業のひと」を指すのでしょう。個人事業主、会社経営者の「みんな」です。
「自営業のひと」が領収書を欲しがる理由はただひとつ。経費が増えて、税金が減るからです。自分の手元から出ていくお金が少なくなります。
「手元から出ていくお金が少なくなる」という点でいえば、経費の決済権を持つサラリーマンでも領収書を欲しがる人がいます。会社で精算してもらえば、その分お金がもらえますからね。
領収書は「税金を減らす」「精算金額を増やす」、さながら「打ち出の小づち」のようでもあります。もらった領収書が「打ち出の小づち」と化すのは次のケースです。
- 割り勘などで自分が支払った以上の金額(最大、参加者全員分)の領収書をもらう
- 他人がすべて支払った領収書をもらう
- 領収書を買う
1は今回の話のきっかけになったケースです。「わたしが会計をしてきましょう」と言って、参加者全員から徴収したお金を持ってレジへ。
精算後に、全員分の金額が記載された領収書は自分がもらう。さらには、徴収した現金ではなく、クレジットカードで支払いを済ませてそのポイントも懐へ・・・余談です、言い過ぎました。
2については、さらに2つにわかれます。ひとつは、 自分も関与したけど他人に支払ってもらった領収書。もうひとつは、自分はまったく関与していないけど他人が支払った領収書です。
前者は、一緒に行った食事ですっかり「ごちそう」になりつつ、さらに領収書をもらうケース。後者は、自分はまったく関与しない他人の買い物などの領収書をもらうケース。どちらも、「自分」のお金は1円も支払っていない点では同じです。
3については「闇」の世界のハナシですので、語りたくはありませんが方法のひとつとしてすこしだけ。「B勘屋」とか「かぶり屋」とか言われる方が、領収書を売っています。
有料で買ったとしても、その金額以上が記載された領収書であれば、効果としては「打ち出の小づち」と同じこと。というワケです。とてもコワい世界ですので、興味を持たずに「あなたの知らない世界」のままにしておきましょう。
以上、3つの領収書はいずれも、「自分が身銭を切った」以上の金額の領収書という点で共通です。
みんな知ってるハズの「やっちゃダメなワケ」
ここまでフツーに「みんながやってる」領収書入手法をご紹介してきましたが、残念なお知らせがあります。ご紹介した方法はすべて「やっちゃダメなヤツ」です。わたしが改めて言うまでもなく、知っていることとは思いますが。念のため、お伝えしました。
念のため、と言いながら追い打ちです。「やっちゃいけない」理由には2つあります。
- 客観的にダメ(法律に反する)
- 自分的にダメ(良心に反する)
「ハイハイ、わかりましたよ」という方はここでお引き取りいただいてもかまいません。ほんとうにわかっているのであれば。
でも、わかっている方が残って、わかっていない方がお引き取りになるのでしょう、きっと。そう言われて悔しさからでも残っていただけましたら幸いです。それでは、ひとつめの「客観的にダメ」についてからお話しします。
「客観的に」というのは、「法律に照らして」ということ。
わたしは税理士ですので、ここで「税法」を持ち出して説明します。税法なんて気乗りしないでしょうが、一瞬で終わらせますのでお付き合いください。
所得税法37条、「必要経費」について次のように定められています。
・・・計算上必要経費に算入すべき金額は、・・・収入金額を得るために直接要した費用の額・・・
(・・・は省略を表しています)
経費かどうかは「収入を得るために必要であるかどうかだ」と所得税法は言っています。法律は「客観性」を要求し、「あなたの主観」を排除します。
「他人の支払い」が、あなたの収入を得るために必要であったかどうか?難しいことはありません。常識で考えればすぐにカタがつきます。必要ありませんよね。だから他人の領収書を経費にすることを節税とは言いません。脱税と言います。
では、もうひとつ。「自分的に」というのは、良心や善悪の問題としてということ。
「また、税理士さんは固いんだからぁ」とか言われそうですが関係ありません。税理士だろうがなかろうが、やっているひとはやっていますし。アタマでは「ダメ」だと、みなさんわかっているでしょうから「あっさりめ」にしておきます。
ご紹介した領収書入手法は「ズル」です。もしもそういった「ズル」をするなら、それなりの覚悟をしてもらわなければいけません。言い方がキツイですか?でもダメです。
- そういう人は、某都知事の公私混同問題を笑ったり、もっともらしく非難してはいけません
- そういう人は、ただしい税金が給与天引きされているサラリーマンを前に「税金が高い」などと言わないでください
- そういう人は、家族の前で「オレは仕事をがんばっている」と胸を張らないでいただきたい
すみません、あっさりめに手加減はできませんでした。でもわたしに言われて「悔しい」と思われる方がいたら、考えるきっかけにしてほしいのです。
「みんながやっている」なんて言われるほど、「みんな」はやっていません。むしろ、割合からしたら「ごく少数派」です。それを「みんな」のせいにして、ズルはいけません。
こどものころ、ズルはしちゃだめだと、おとうさんやおかあさんから教わりましたよね。両親から教わった良心。・・・。
とにかく。良心に恥じるところはないか。やっぱりズルはよくありません。
事業で成長したいなら
もうひとつ、やっちゃいけない理由がありました。「事業のただしい状況」がわからなくなるから、ということです。
これは税理士的な視点でもありますが、本来の経費ではないものまで経費に混じれば、決算書の数字ははその分だけ歪みます。言うまでもなく、「必要以上」に利益が圧縮されていますから。歪みを積み重ねた分だけ、致命的なものになっていくはずです。
まさか、2重帳簿をつくってただしい利益を把握しているとか?やめてください、そんなムダなこと。
そもそも。思い出して下さい、事業をはじめようと決めたときのことを。事業で利益をあげて成長しようと考えていたはずです。
なぜあなたは、経費でもない領収書を使ってまで、その利益を下げようとするのでしょう。不当に利益を下げて成長するなんて。思い描いていた「成長」とはなんだったのでしょう?
まとめ
けっこう無礼な物言いもあり、失礼をいたしましたがご容赦ください。ダメなものはダメです。
やっていないひとからすると、「ズル」は腹が立つことでしょう。でも安心してください。天網恢恢疎にして漏らさず。
わたしは税理士としても、そういう場面を目にしてきました。だから、あなたが手を下すことも、苛立つこともありません。
ちなみに。友人との食事が「経費」になることは当然あり得ます。友人であり仕事のパートナーでもある、とかそんなときです。
そんなときの割り勘であれば、割り勘分はもちろん経費にいれましょう。お店で割り勘分の領収書を発行してもらってください。
もし、全額分の領収書しかもらえなかったという場合には、領収書に割り勘の旨を自分でメモ書きしてください。領収書自体、もらい忘れてしまったというのなら、自分で必要事項を紙に記載しましょう。日付、店名、金額、内容(○○氏と食事、など)を書いて、領収書の代わりを試みます。
そんな「紙の領収書代わり」ばかりではOUTでしょうが、「たまたま」であれば余地はあります。税務調査等で認められない可能性は覚悟しつつも、さいごの手段として考えてみてください。
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きょうの執筆後記
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昨日は、終日、所内で顧問先の決算作業。今月申告2件の決算はこれで終了です。
開業後、法人税申告ははじめてですが、電子申告が少々不安・・・
「ひとり」というのは自由な反面、こういうときに心細いものです。
でも、おかげでいろいろと自活力が身に付いていきます。