税金を考えるだけじゃダメ!『税引前利益』の3つの視点

税金を考えるだけじゃダメ!「税引前利益」の3つの視点

できれば税金は納めたくないから、税引前利益は小さくしたい。というのは視点のひとつに過ぎません。

税引前利益にはぜんぶで3つの視点がある、というお話です。

目次

税引前利益を小さくしたい、と言う社長

会社が毎年つくる「決算書」。そこに掲載されるたくさんの数字のなかでも、社長(会社)にとってとりわけ関心が高いのが「税引前利益」ではないでしょうか。

ここで言う「税引前利益」とは。決算書のうち「損益計算書」の末尾よりもちょっと上にある「税引前当期純利益」のこと。文字どおり、税金を引く前の利益です。

ではなぜ、税引前利益が社長の関心を引くのか? それは、税引前利益の大小によって税金の額が決まるからです。税引前利益が大きければ税金も大きく、税引前利益が小さければ税金も小さくなる。

できれば税金は納めたくない… のは、多くの社長の願いでもあります。だったら、できるだけ税引前利益を小さくして税金も小さくしよう!これはこれでひとつの考え方であり、ひとつの視点です。

ところが。

税引前利益には、ほかにもだいじな視点があります。わかっているようで意外とわかっていない。盲点とも言える視点がある。税金のことばかりを考えているのでは見逃してしまう視点があります。

そんな税引前利益について、ぜんぶで3つの視点を確認しておくことにしましょう ↓

税引前利益の3つの視点
  1. 税金(対税務署)の視点
  2. 融資(対銀行)の視点
  3. 経営・財務(会社自身)の視点

それでは、このあと順番に見ていきます。

 

税引前利益の3つの視点

《視点1》税金(対税務署)の視点

冒頭、税引前利益の大小によって税金の金額が決まる、という話をしました。これを算式であらわすと、「税金 = 税引前利益 × 税率」になります。

ゆえに、税引前利益が大きければ税金も大きく、税引前利益が小さければ税金も小さくなる。

できれば税金は納めたくない… と考えるのであれば、できるだけ税引前利益を小さくしよう! これは、税引前利益を「税金」の視点から見た考え方です。「対税務署」的な視点だ、とも言えます。

では、税引前利益を小さくするためにどうするか? 経費を増やす、というのがその答えです。経費を増やせば利益は減りますから、結果として税金が減ります。

たとえば、税引前利益 100の会社があるとして。税率が 30%だとすると税金は 30です(100 × 30%)。そこで、「税金 30は高い! 経費を 50増やして税金を減らそう」と、社長が考えた場合はどうでしょう?

税金は 15にまで減ります((100 − 50)× 30%)。かくして社長の思惑どおり、税金を減らすことができました。

このようなことから、決して少なくない会社(とくに中小零細企業)が、税引前利益を減らして税金を減らそうとしています。言い換えると、税金の大小を決めるものとして税引前利益を見ています。

これは税引前利益に対する1つの視点ではありますが、それだけではない。あと2つ、だいじな視点がありますよ。というのが、ここからのお話です。

【参考】大企業は税金を減らそうとしないのか?

本文中で、とくに中小零細企業が税金を減らそうとする、と言いました。では、大企業は税金を減らそうとしないのか?

税引前利益を減らして税金を減らそうとすることはありません。なぜなら、多くの株主からは利益を求められているからです。利益をあげられなければ株主は離れてしまうので、利益は減らすのではなく増やそうと考えます。

この点。中小零細企業は「社長=株主」であることが多く、利益を減らしたからといって株主からとがめられることはありません。

《視点2》融資(対銀行)の視点

会社が税金の額を計算・申告するにあたっては、税務署に決算書を提出しなければいけません。税金計算のもとになる「材料」として必要だからです。

その決算書は、税務署のほかにも提出しなければならないところがあります。銀行です。

会社が銀行から融資を受けている・受けようとする場合には、決算書の提示を求められます。銀行が融資の可否を判断する「材料」として必要だからです。

では、銀行は決算書のどこを見ているのか?

いろいろとポイントはありますが、大きなポイントとして「利益」が挙げられます。銀行は、「利益が貸したおカネの返済原資になる」と考えているためです。

よって、税引前利益が大きい会社ほど融資は受けやすく、税引前利益が小さい会社ほど融資が受けにくくなります。

であるならば。《視点1》を重視するあまり、税引前利益を減らしすぎてしまうと「融資が受けにくくなる・受けられなくなる」という影響があるわけです。

どのくらいの影響かと言うと。仮に税引前利益を 100万円減らした場合(税率は 30%として)、おおよそ 700万円ほど資金調達力が下がります。詳しくはこちらの記事をどうぞ ↓

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つまり、税引前利益を減らさなければ 700万円借りられたかもしれないのに、税引前利益を減らすとその 700万円は借りられない可能性が高まる、ということです。

ちなみに、税引前利益 100万円を減らしたことにより減る税金は 30万円(100 × 30%)。30万円の税金を減らすことはできましたが、のちの 700万円の融資を失うことになります。

会社の規模にもよりますが、多くの中小零細企業にとって 700万円という金額は決して小さくないでしょう。そう考えると、税引前利益を融資の視点で見る、対銀行視点で見ることも欠かせません。

いまは融資を受けていなくとも、いずれ融資を受ける可能性もあります。融資金額の大小を決めるものとして、税引前利益を見る視点も持っておきましょう。

《視点3》経営・財務(会社自身)の視点

会社を持続・成長させるために、会社を強くしたいと考えるとき。必要になるのが、「利益の蓄積」です。毎年の決算で利益をあげることによって、その利益が蓄積されていきます。

蓄積の結果が、決算書のうち「貸借対照表」の「純資産の部」のなかにある「利益剰余金」です。利益剰余金は、会社の設立から現在までの「税引後利益」の累計になります。

税引前利益が大きければ大きいほど、税金を支払ったあとの税引後利益も大きく、その累計である利益剰余金も大きくなる。というのがポイントです。

利益の蓄積である利益剰余金は「内部留保」とも呼ばれ、内部留保の大きさは会社の安全性をはかるひとつの指標にもなっています(大きいほど安全性が高い)。

したがって、自社の内部留保を増やすべく、毎年の税引前利益をきちんと出すというのは、経営・財務の視点として必要なところです。

なお、言うまでもありませんが、《視点1》の税金を減らそうという考え方は、この経営・財務の視点に逆行することになります。税金を嫌って赤字にするような会社は内部留保を積むことができません。

そもそも、多くの社長は「利益を出す」ことを目指して会社・事業をはじめたはずです。にもかかわらず、気づくと目先の税金を減らすために利益を出さないようにしている。というのもおかしなハナシですよね。

ちなみに、「そんなに内部留保を溜め込むのもどうなのか?」との考え方はあるでしょう。社長自身が役員報酬で取るとか、従業員にも還元するとか。

もちろん、それもひとつの考え方ではあります。けれども、あまりにも内部留保が少なすぎる。あるいは赤字続きで内部留保がマイナスになっている… これは問題です。

どれだけの内部留保を蓄積するかのていど加減はありますが、内部留保がなさすぎる・まったくない。これはまた別の話だと心得ておきましょう。

さて。

税金を計算するため(税務署のため)、とだけ考えて決算書をつくっている会社があります。《視点1》に偏っている会社です。

また、銀行融資を受けるため(銀行のため)、とだけ考えて決算書をつくっている会社があります。《視点2》に偏っている会社です。

ところが本来、決算書は「自社のため」につくるもの。自社の正しい姿をあらわし、目指すべき姿を定めるためにつくるべきものです。

ひとつの視点に偏ることなく、3つの視点があることを理解して。決算書も、そこに掲載されている「税引前利益」も、3つの視点でバランスよく視るようにしましょう。

 

まとめ

できれば税金は納めたくない… のは、多くの社長の願いでもあります。だったら、できるだけ税引前利益を小さくして税金も小さくしよう! というのは視点の1つに過ぎません。

税引前利益にはぜんぶで3つの視点があることを押さえておきましょう。

税引前利益の3つの視点
  1. 税金(対税務署)の視点
  2. 融資(対銀行)の視点
  3. 経営・財務(会社自身)の視点
税金を考えるだけじゃダメ!「税引前利益」の3つの視点

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