開業を考えるときに、融資をどうするかは悩みごとのひとつです。
自己資金はじゅうぶんだ。そんなときにも「あえて借りる」。その考え方の真意とは?
開業時に融資を受けるか否か
いよいよ「開業」を考えるとき。
金融機関から融資を受けるかどうしようか、という選択があります。
よほど潤沢な資金がある場合を除き、迷っているなら融資を受けられるように準備すべきです。
- なぜ、開業時には融資を受けるべきなのか?
- 開業時の融資で「自分のために」考えておくべきこととはなにか?
今回は、この2点についてお話をしたいと思います。
開業時には融資を受けたほうがよいワケ
融資を受けるためには、必ず「理由」と「返済原資」がなければいけません。貸し手の立場を考えれば当然です。
使い道(理由)もなく、返すアテ(返済原資)もないのにお金は貸せません。
この点、開業時には「開業のための設備資金や運転資金」という「大義名分」で融資をお願いすることができます。
まず、「これから事業をはじめるから」という理由ははっきりしています。一方で返済原資はどうなのかというと、確たるアテはないけれど開業前だからという「あたたかい目」があります。
「あたたかい目」といっても、もちろんきちんとした見込みなり、計画なりは必要です。それでも、「フタを開けてみないことにはわからないことだから」と、比較的手加減があるという話です。
一方で、開業後に「思ったよりも収入がなく、お金がなくなった」と言って融資を受けようというのは難しくなります。
それはそうですよね。「思ったより」なんて言われたら心もとないものがあります。事業を始めている以上、今度は返すアテ(返済原資)を「比較的」厳しく追及されることを覚悟しなければいけません。
少々乱暴な表現になりますが、「借りられるときに借りておく」ということで開業時の融資をおすすめします。いくら借りるかどうかというのは別の話であり、後述します。
開業時の融資で「自分のために」考えておくべきこと
お話しするのは「開業時融資の際に考えておくべきこと」ということですが、「融資を受けられるようにするために」というような融資審査のためのノウハウではありません。
そういうことは他のサイトや書籍などで知ることができますので、わたしがあえてお話しをするまでもありません。
あくまで、「開業する自分にとって、後々のために」考えておくべきこととして、次の3つを挙げます。
- ほんとうの開業動機
- 家計・税金まで考慮した資金繰り
- 自己資金はいくら必要か
1.ほんとうの開業動機
融資を受ける際の申請書類には、必ず開業動機を記載する欄があります。融資の種類によって書式が異なるため何とも言えませんが、せいぜい5行程度のスペースでしょう。
これを真に受けてはいけません。あなたの開業動機、開業に対する思いとは5行程度のものなのですか?
開業動機はこれから先の「自分の原点」です。かならず見返すべき時が来ます。
わたしは開業3か月になりますが、正直、ほんとうにやりたいことにはまだまだ手が届かずにいます。だから、たびたび開業動機を見返しては自分の原点を確かめ、これからのことを再考するようにしています。
開業動機は審査のためにしたためるものではありません。未来の自分に宛てて書いておくべきもの。開業の時の思いは、その時にしか書けないのですから。
ノウハウではないと言いながら、少しだけ捕捉します。融資審査を通すためにも、5行程度では少なすぎるでしょう。
開業にいたった経緯、どういう商品・サービスをどういう人たちにどのように届けたいか、そのために所持しているスキルや資源はなにかなど。数値計画の説得材料としても書いておいたほうが良いことはたくさんあります。
わたし自身は、Wordで加工して開業動機欄を広げて記入していました。たくさん書けば良い、というものでもありませんが5行ではとても足りません。
とにかく、「あなたが」開業してやらなければいけなかった理由を、あなたにしか書けないことを書きましょう。コンサルタントや税理士に考えてもらう、なんてそこはおかしいですよ。
2.家計・税金まで考慮した資金繰り
数値の話です。つまづいてしまう方が多いのがここでしょう。
融資の申請書類にも数値計画については必ず記載が必要になりますが、どう書いてよいかわからないという人が多いものです。
さきほどの開業動機でお話ししたようなことがまとまっていれば、あとはそれを数字ならばどう表現するかというのが数値計画。それこそ、コンサルタントや税理士の出番というものです。
はじめから専門家を頼らないこと。思い(開業動機)なき数値計画は、画餅。絵に描いた餅であることを忘れてはいけません。
さて、ノウハウ講義ではありませんので、数値計画の書式についてお話しようというのではありません。
数値計画を考える際に、どこまで考えておくべきかということをお伝えしたいのです。ポイントは、「資金」「家計」「税金」です。順番に説明します。
知識が必要なところですがとても大事なことなので、専門家を頼ってでも考えておくべきところです。
【 資金 】
「資金=利益」ではありませんよ、ということ。数値計画というと、売上・経費・利益を予測して…というイメージが強いかと思います。
ですが、もっと大事なのは「利益」があるかどうかよりも、「お金」があるかどうか。
利益があればお金もあるのではないか、と思われるかもしれません。まあ、その通りです。
ただ厳密には、利益とお金の流れは一致しません。それぞれの動きにズレがあります。
「黒字倒産」「勘定合って銭足らず」という言葉がありますよね。イメージで言うとそういうことです。
そういうことがないように、利益だけでなく、資金(お金の残高)についても計画しておきましょうというお話しになります。
【 家計 】
「事業用」のお金だけでなく、「家庭」のお金にまで、目を向けておくことです。
事業で利益が出ていても、家庭の生活、すなわち「家計」にとっては十分な水準ではないということもありえます。
最終的には、家庭の生活すなわち「家計」がまわらなければいけません。
「家計がまわるために、事業で必要な売上はいくらなのか」という見方をしておく必要があります。
家計を見ずに済ませる数値計画は非常に危険です。
【 税金 】
利益が出れば税金を払わなければいけません。利益がそのまま手取りにならないことはみなさん知っています。
ですが、その税金はいくらかかるのかとなると・・・
個人事業主でいえば、所得税、個人住民税、個人事業税、固定資産税、消費税など。専門家でなく、これらをきちんと計算できる人はまずいないでしょう。
だからと言って、税金のことを先送りしていると先々困ったことになります。「えっ、こんなに税金払うの!?」という言葉をどれだけ聞いてきたことか。
これも「黒字倒産」「勘定合って銭足らず」と同じこと。税金のことまで考えて数値計画だと心得ておきましょう。
3.自己資金はいくら必要か
これでさいごです。
結論。無収入でも「1年間」生活できるお金を「家計」に用意する。
結論と言いながらも、「1年間」に明確な根拠はありません。
ただ、これくらい備えておくことが実質的にも精神衛生上もよろしいようだ、というわたしの感覚値であることは申し添えます。
どれだけ考えて、どれだけ念入りに準備をして開業したとしても、やはりフタを開けてみないことにはわかりません。
思っていたほど売上が伸びないということはあるものです。税理士としてそういう状況をいくども見てきましたし、開業したわたし自身ももちろんラクなことはありません。
また、いつ体を壊したり、けがをして休業せざるを得なくなるかもわかりません。
それはサラリーマンとかわるところはありませんが、そのときの「保障」という面では自営業のほうが深刻です。
そういう「不確定要素」を考えると、1年間ぐらいは生活できるお金があると少しは安心だろう、そのように考えています。
たとえば、「家計」で月40万円必要ならば、480万円は家計用の「予備資金」として準備できるかどうかです。
このことを踏まえて、融資はいくら必要かを考えます。
さきほどの例の続きで、家計の貯金としては800万円あるとします。事業の開業資金としては1,000万円必要だとしたら。
家計から事業にまわせるお金は、800万円-480万円=320万円。これがいわゆる「自己資金」です。
ですから、開業時融資として必要なのは、1,000万円-320万円=680万円になります。
融資には、「自己資金がいくらあればよいか」というような条件があります。
政府金融機関である日本政策金融公庫の新創業融資制度では、「開業資金の10%以上の自己資金」が必要とされています。
先ほどの例でいうと、32%(320万円/1,000万円)ですからだいじょうぶです。融資制度によって条件は異なりますので注意が必要です。
そこまで考えたときに、自己資金が足りないなぁというのであれば「開業」については慎重に考えたほうがよいでしょう。
ところで、「開業時融資は受けるべき」を考えると、条件までの余裕分、220万円についても「あえて」借りておくという選択肢があります(審査の結果、必ず借りられるわけではありませんが)。そうしておけば、さらに家計に予備資金を残すことにつながるからです。
融資額が増えることで支払利息も増えますが、借りた分のお金は、家計の貯金として残っているのですからいっしょと言えばいっしょです。これが借りられるときに借りておく、ということです。本当に借りたいとき(困っているとき)には借りることは難しいもの。
開業するとわかりますが、「お金が減っていく恐怖」はすごいものがあります。とくにはじめのうちは売上がない、少ないことがありますのでなおさらです。
するとその恐怖で、必要なものにまで「投資」ができなくなるという誤判断が起こりえます。ますます悪循環です。
家計の十分な予備資金を考えることは、事業リスクへの備えでもありますが心の支えでもあります。
まとめ
開業時融資は受けるべき。そのときに考えるべきことについてお話ししました。
融資を受ける際には、金融機関の担当者や、コンサルタント・税理士などを頼ることもあるでしょう。
金融機関やコンサルタント・税理士は借りられるように協力してくれますが、それが必ずしも「自分のため」になるわけではありません。開業動機の話がそうです。
また、協力してくれるのは「おそらく」、融資のための必要最低限の部分です。資金や税金、ましてや家計のことまで考えてくれるかはわかりません。
この点は、自分で何とかするか、協力を「要求」するほかありません。
融資を受けるにしても、ただ受けるだけとならないように。後々困ることがないように。自分のために考えるべきことを考えましょう。
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きょうの執筆後記
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昨日は、午前中はとある研修に参加。
午後は事務所内で、セミナー開催について検討。
開業動機の思いを果たすためには、「考えること」を続けていくしかありません。