借りる額が少なすぎれば、資金繰りが悪くなる。借りすぎるのもどうかと思う…
というわけで。「銀行からはいくら借りればいいのか?問題」に対する答えについて、お話をしていきます。
借りすぎるのもどうかと思う。
会社が銀行から受ける融資について。いったい、いくら借りればいいのか? という問題があります。言い換えると、ウチの会社はいくら借りるべきなのか?
借りる額が少なすぎれば、資金繰りが悪くなる。かと言って、借りすぎるのもどうかと思う… そんな問題に対して、3つの答えを提示してみることにします。ずばり、こちらです↓
- 正常運転資金分
- 年間返済額 − 簡易CF
- 借りられるだけ
ぜひ自社の決算書を見ながら、これら3つの答えを確認していきましょう。
銀行からはいくら借りればいいのか?問題に対する答えを3つ
【答え1】正常運転資金分
まずは、正常運転資金分のおカネを銀行から借りるようにしましょう。正常運転資金とは? 算式であらわすと次のとおりです ↓
正常運転資金 = 売上債権(売掛金・受取手形)+ たな卸資産(在庫)− 仕入債務(買掛金・支払手形)
はじめてのヒトには「なんじゃこりゃ?」という算式かもしれませんが。意味を考えれば、ナットクできるはずです。
算式のうち「 売上債権(売掛金・受取手形)」は、売上代金のうち入金されるのを待っている金額です。「たな卸資産(在庫)」もまた、売れておカネになるのを待っている金額です。
いずれも「おカネになるのを待っている」という点で共通しています。したがって、「売上債権」や「たな卸資産」が増えると、資金繰りが悪くなることを理解しておきましょう。
いっぽうで、「仕入債務(買掛金・支払手形)」は「売上債権」の逆で、仕入代金の支払いを待ってもらっている金額です。よって、仕入債務が増えるほど、資金繰りは良くなります。
これらをふまえて。おカネになるの待っている金額(売上債権・たな卸資産)から、おカネの支払いを待ってもらっている金額(仕入債務)をマイナスしたものが「正常運転資金」です。
その正常運転資金分のおカネを会社が持っていないと、社員の給料や事務所家賃、その他の経費を支払うことができなくなってしまう。資金繰りが厳しくなってしまう…
だから、正常運転資金分のおカネは銀行から借りておこう。というのが、資金繰りのセオリーになります。
ちなみに。正常運転資金分の借入は、「借りやすい借入」です。「売上債権」や「たな卸資産」は、近々おカネになるものであり、銀行から見ると担保みたいなものでもあるので安心だからです。
というわけで。まずは、自社の決算書(あるいは試算表)を見て、正常運転資金の金額を計算してみましょう。そのうえで、正常運転資金分の借入ができているかどうかを確認してみましょう。できていなければ、借入を検討です。
資金繰りが厳しい… という会社のなかには、正常運転資金分の借入ができていない会社があります。これは「借りなさすぎ」と言える状態になるので注意が必要です。
なお、正常運転資金分の借入については、「短期継続融資」という借りかたができると、さらに資金繰りを良くする効果があります。応用編として、こちらの記事も参考にどうぞ↓
【答え2】年間返済額 − 簡易CF
毎年の決算書ができあがったときに考えたいのが、「年間返済額 − 簡易CF」です。これが、銀行からはいくら借りればいいのか? の答えになります。
ところで、簡易CF(簡易キャッシュフロー)とは? 算式であらわすと「税引後利益 + 減価償却費」です。減価償却費はひとまず忘れてみると、税金を払ったあと手元に残ったおカネが簡易CFだとわかります。
この簡易CFこそが、借入金の「返済原資」です。つまり、簡易CFの金額が、その会社が1年間で返済できる金額になります。
そこを理解したうえで、こんどは年間返済額を確認してみましょう。決算が終わって、次の決算まで向こう1年のあいだに返済する金額を確認です。各借入の返済予定表を見ていけばわかりますよね。
その結果、たとえば、向こう1年の年間返済額が 1,500万円だったとします。いっぽうで、今回の決算での税引後利益が 500万円。次の決算も同じくらいの利益だと仮定すると… こうなります↓
年間返済額 1,500万円 − 税引後利益 500万円 = 1,000万円
この 1,000万円がなにを意味するかと言えば、返済するのに不足する金額です。このままだと、返済をするのに利益では足りず、手元のおカネを取り崩して返済をしなければいけません。
もし、手元のおカネが 1,000万円に満たなければ、資金ショートすることは明らかです。じゃあ、どうするか? 銀行からの借入です。返済に足りない分は、借入をすることで補います。
返済するために借入するなんておかしい… と、思われるかもですが。事業が振るわないときだってあるのですから、しかたのないことです。銀行もまた、そこは理解をしています。
とはいえ。実際におカネが足りなくなってからバタバタすると、銀行にも嫌がられるものです。決算書ができた段階で足りないことは予想がつくのですから、そのタイミングで借入の算段をするようにしましょう。
具体的には、銀行に決算書(のコピー)を渡すときに、向こう1年の資金繰り表を用意しておく。資金繰り表のなかには、足りない分(さきほどの例で言うと 1,000万円)の借入を織り込んでおく。
すると、融資が必要な金額・時期もはっきりするので、銀行のほうから融資提案もしやすくなります。また、「計画的」な姿勢を見せることが、銀行の安心感にも繋がるでしょう。反対に、「場当たり的」な姿勢は銀行の不安につながり、融資を受けにくいものにします。
というわけで。毎年、決算書ができあがったら「年間返済額 − 簡易CF」の借入を検討するようにしましょう。
なお、簡易CFとは「税引後利益 + 減価償却費」だというハナシをしました。なぜ、減価償却費をプラスするのか? 減価償却費はおカネの支払いをともなわない費用(減価償却の対象になる資産を買ったときに支払い済み)だから、利益に足し戻すためです。会計チックで、少々難解なところです。
ご興味あれば、こちらの記事もどうぞ↓
【答え3】借りられるだけ
「銀行からはいくら借りればいいのか?問題」に対する答えとして、ここまで2つ見てきました。1つは「正常運転資金分」という答え、もう1つは「年間返済額 − 簡易CF」という答え。
では、それら2つの答えを満たす分だけ借りればいいのか? と言えば。そうとも言い切れない。それが、3つめの答えになります。ずばり、「借りられるだけ」です。
借りられるだけ借りればいい、などと言うと。とんでもない暴言だとしてお叱りを受けそうですが、それでも、「借りられるだけ」という答えには銀行融資の本質がつまっていることは理解しておきましょう。
銀行融資は、借りたいときには借りられないものです。むしろ、借りたいときほど借りられないものです。会社が借りたいときの多くは、「おカネに困っているとき」になります。
では、おカネに困っているヒトにおカネを貸したいですか? 貸したくありませんよね、というハナシです。銀行だって同じ。銀行融資は人助けではなく商売ですから、なおのことです。
だとしたら、借りられるときに「借りられるだけ」借りておくことは、ひとつの考え方・ひとつの答えになるでしょう。
もちろん、借入にもデメリットはありますから(利息、担保・保証など)。どちらを取るかは、会社それぞれです。ただそれでも、借りたいときほど借りられないことを忘れてはいけません。多くの会社が、借りたいときに借りられずに大変な思いをしているところです。
業績が良い会社はとくに、融資が受けやすくなります。銀行から融資セールスを受けることもあるでしょう。そのときには、「借りられるときに借りておく」のも有効な選択肢です。
それからもう1つ。設備投資をするときには、設備資金の融資を受ける。これも、「借りられるときに借りておく」にあたります。
設備投資をするときに、「なるべく自己資金で」という考え方もあるでしょう。けれども、その後に資金繰りが悪くなったときに、「やっぱり設備資金を融資して」というわけにはいきません。言うまでもなく、設備資金の融資は設備投資をするときにしか受けられないからです。
事業を続けていれば、いつなんどき・なにが起きるかはわかりません。自己資金はできるだけ温存しておく、借りてでも手元のおカネを積み上げておく。会社を守る手段として、覚えておきましょう。
守るだけではなく、攻めにも役立ちます。攻めるべきときにおカネがなくてタイミングを逃す… ということはあるものです。ふだんから手元におカネがあれば、そういうこともなくなります。
まとめ
借りる額が少なすぎれば、資金繰りが悪くなる。借りすぎるのもどうなのか… 悩ましいところかもしれませんが。
そこは、「銀行からはいくら借りればいいのか?問題」に対する答え3つを押さえておきましょう。
- 正常運転資金分
- 年間返済額 − 簡易CF
- 借りられるだけ