利用実績が増えている「資本性借入金(資本性劣後ローン)」について。利用を検討する際の、よくある勘違いをまとめてみます。
前から、あるにはあったんだけどね。
先日(2021年10月10日)、日本政策金融公庫(以下、日本公庫)の「資本性劣後ローン」の制度利用が増えている、というニュースがありました。
「資本性劣後ローン」とは、いわゆる「資本性借入金」の商品名にあたるものです。では、資本性借入金とはなんなのか? 決算書上は「借入金」、でも、銀行の評価上は「自己資本」と見なされる。というのが、資本性借入金です。
コロナ禍で業績が悪化して、「自己資本(純資産)が過小」あるいは「債務超過(資産<負債)」に陥っている会社などは、資本性借入金を活用することで、借入しながらも自己資本を増やすことができます。自己資本が増えれば、銀行からの評価は上がりますから、さらに銀行融資が受けやすくなります。
この効果を狙って、日本公庫は2020年8月から、「資本性劣後ローン(新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付)」の制度をスタートしました。つまり、日本公庫が資本性借入金を提供することで、民間銀行からの融資を促そうというわけです。
資本性借入金自体は、2004年2月、『金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕』の改訂とともに導入されています。日本公庫では、コロナ以前から「資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)」の制度がありました。
また、商工組合中央金庫や、いちぶの民間銀行も資本性借入金の商品を用意しています。が、その敷居は高く、なかなか浸透してこなかったというのが現実でしょう。
ところが、コロナを経て、中小企業の財務・資金繰り改善は待ったなし。資本性借入金に対する銀行・社長の関心が高まり、利用実績が増えている状況です(2021年8月末現在、日本公庫の利用実績は、融資先3,847件、融資総額5,759億円)。
というわけで、資本性借入金(資本性劣後ローン)に対する質問、問い合わせが増えているわけですが。そのなかに見られる「勘違い」についてまとめてみます。こちらの3点です↓
- 金利が高い
- 既存借入の返済にあてる
- カンタンに融資が受けられる
資本性借入金(資本性劣後ローン)のよくある勘違い
【勘違い1】金利が高い
資本性借入金については、金融庁が「定義」を定めています。そのなかのひとつが、「配当可能利益に応じた利益」です。
これを受けて、日本公庫・国民生活事業(規模が大きい会社向けに、「中小企業事業」という窓口もあります)の「資本性劣後ローン」は、業績連動型の金利(利息は毎月払い)とされています。
具体的には、「税引後当期純利益額が0円以上か0円未満か」で金利が異なるしくみです。2021年10月15日現在、税引後利益が0円未満の場合の金利は0.50%、税引後利益が0円以上の場合の金利は、返済期間に応じて2.60%~2.95%に定められています。
利益が出ているときには金利負担が上がる、それも2%台後半です。これを見て、「金利が高い」と考える社長がいます。が、それは勘違いです。
なぜなら、「資本性劣後ローン」は長期の融資です。返済期間は「5年1ヵ月、7年、10年、15年、20年」のいずれかとされ、借入期間のあいだは元金返済ゼロの「期日一括返済」になります。
また、「劣後」の文字どおり、ほかの負債よりも支払義務が劣後するのが特徴です。もし会社におカネが無くなってしまった場合、まずはほかの負債(仕入代金や通常の借入)を返済する。それでもおカネが余ったときのみ、資本性劣後ローンの返済をすればよい、ということになります。さらには、無担保・無保証です。
日本公庫にとっては「回収不能のリスク」が高いのですから、金利が高いのは当然でしょう。また、劣後の性格もあることから、融資というよりも出資(資本金)に近いものであり、利息ではなく配当というのが適切なイメージだと言えます。
なお、「金利が高いなら、途中で繰り上げ返済をすればいい」というわけにはいきません。原則、期日一括返済であり、資本性劣後ローンでは、「融資後5年間は返済できない」とされています。このあたりもまた、融資というより出資(資本金)です。
【勘違い2】既存借入の返済にあてる
資本性劣後ローンを、既存借入の返済にあてる。つまり、いま現在の窮状をしのぐために、資本性劣後ローンの利用を考える社長がいます。これもまた、勘違いです。
基本的な考え方としては、資本性劣後ローンによって、「どれだけ売上・利益を増やせるかどうか」になります。もし、3,000万円の融資を受けるのであれば、3,000万円を原資に、返済期間を通じて、いくらの売上・利益をあげられるのか?
そのあいだの金利や税金負担を考慮したうえで、結果、期日に一括返済できるだけのおカネが貯まっているのかどうか?
つまり、資本性劣後ローンは、窮状をしのぐために利用すべきものではない、ということです。そうではなく、売上・利益を増やして、会社が再生をはかるための資本(原資)を獲得するために、資本性劣後ローンを利用すべきだと言えます。
前述したとおり、資本性劣後ローンは、融資というよりも出資(資本金)の性格を持つことが、ここからもわかるでしょう。
そもそも中小企業は、第三者から資本を獲得するのは難しいものです。他人からはなかなか、出資をしてもらうことができません。この点で、「資本性劣後ローン」は大いに役立ちます。
なお、資本性劣後ローンは「長期」の融資ですから、返済期間に応じて「長期の計画」が求められる点に注意が必要です。利用する会社にとっては、その作成が負担にもなるところでしょう。これは、次の勘違いにもつながるところです。
【勘違い3】カンタンに融資が受けられる
繰り返しになりますが、資本性借入金は「期日一括返済」が特徴です。返済期間中は、元金返済がないとは言っても、さいごにはその分の返済が待っています。
よって、「ほんとうに期日一括返済できるのか」は大きなポイントです。そのために、通常の融資に比べると、長期かつ詳細な事業計画書を作成する必要があります。
さらに、資本性劣後ローンでは、「完済までの間、毎期の経営状況の報告等を含む特約を締結していただきます。」というのが融資条件のひとつです。よって、毎年決算が終わったら、日本公庫に経営状況を報告しなければいけません。当然、計画の進捗状況を問われることになるでしょう。
資本性劣後ローンとは、「融資ではあるけれど、出資みたいなもの」です。だとすれば、融資をする日本公庫は、会社にとって「株主」のようなものだと言えます。
ゆえに、日本公庫は融資先に対して、「意見する権利(株主として)」があると、理解しておかなければいけません。経営状況が思わしくないときはとくに、意見されることを考えれば、その窮屈さはデメリットになるでしょう。
というわけで、資本性劣後ローンは受けるまでもタイヘン(事業計画書の作成)、受けたあともタイヘン(毎期の報告)です。カンタンに融資が受けられる、というのは勘違いです。
ちなみに、資本性劣後ローンは、実際の出資とは違いますから、既存株主の議決権割合を低下させるものではありません。にもかかわらず、銀行からは「資本と見なされる」のは、資本性劣後ローンのメリットのひとつです。
いくら意見をされたとしても、社長の経営権まで奪われるようなことはない、ということになります。これが、第三者からの出資であれば、場合によっては、経営権を奪われる可能性もあるわけです。
まとめ
利用実績が増えている「資本性借入金(資本性劣後ローン)」について。利用を検討する際の、よくある勘違いをまとめてみました。
資本性借入金(資本性劣後ローン)は、とても有用な制度です。制度の趣旨や内容を理解したうえで、利用を検討してみましょう。
- 金利が高い
- 既存借入の返済にあてる
- カンタンに融資が受けられる