民間銀行2行から融資を受けている会社が、そのうち1行から借り換え提案を受けたらどうするか? 実際の事例から汎用性・再現性が高い要素を抜き出します。
じぶんがこの会社の社長だったらどうするか?
実際の事例から学ぶ銀行融資・銀行対応、今回は…
民間銀行2行から融資を受けている会社が、そのうち1行から借り換え提案を受けたらどうするか。つまり、借り換えによって、融資を受ける銀行が1つに集約されてしまうような提案を受けたらどうするか。
実際に、そのような提案を受けた会社があります。
そもそも、融資を受ける銀行が1つに集約されることに問題があるのか? と、思われるかもしれませんが。あります、いろいろな問題が起きます。
まずは、業績が悪化したときの選択肢が減ること。いままでは、2つの銀行に相談をすることができたのに、借り換え後は1つの銀行に相談するしかなくなります。断られたら、あとがありません。
以前、融資を受けていた銀行にも相談すればいい。と、思われるかもしれませんが。借り換えられたほうの銀行というのは、端的に言えば「根に持っている」ものです。
借り換えられるとは、すなわち、裏切られることと同義であり、裏切られた会社を助ける義理はない。ということになります。なので、他行の融資を借り換えるときには、相応の覚悟が必要です。
また、銀行業界は「再編」が進んでいます。提携・統合・合併など。いずれにせよ、そこには「取り込む側の銀行」と「取り込まれる側の銀行」が生じます。
このとき、取り込まれる側の銀行とお付き合いをしていると、「急に融資方針が変わる」ことはあるものです。いままでは積極的に融資をしてくれていたのに、なかなか融資をしてもらえなくなった… みたいな。
もっと小さな変化で言えば、銀行担当者や支店長は数年おきに替わります。替わった担当者や支店長が、自社には合わなかったらどうでしょう。融資が受けにくくなる、ということもあるわけです。
そのときに、ほかの取引銀行があれば、次の担当者や支店長に替わるまでしのぐこともできますが、1つの銀行としか取引がないと、どうしようもなくなってしまいます。
では、冒頭の話に戻って。民間銀行2行から融資を受けている会社が、そのうち1行から借り換え提案を受けたらどうするか。金利が低い、経営者保証不要などの「良い融資条件」での提案だったらどうするか。悩みどころでしょう。
まずは、じぶんがこの会社の社長だったらどうするか。対応をイメージをしてみたうえで、このあとのお話を確認していただければと思います。それでは、いってみましょう。
民間銀行2行取引→うち1行から借り換え提案をどうするか?
民間銀行2行から融資を受けている会社が、うち1行から借り換え提案を受けた例があります。この事例から、汎用性・再現性が高い要素を抜き出したのがこちらです↓
- 日本政策金融公庫とも取引をはじめる
- 対案検討の機会を提供する
- 新規取引銀行を増やす
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
日本政策金融公庫とも取引をはじめる
融資を受ける銀行が1つに集約されることの問題は、前述したとおりです。対策として、日本政策金融公庫とも取引をはじめることが挙げられます。
日本政策金融公庫とは、国が100%出資する公的な金融機関です。民間銀行による融資を補完する役割を担っています。言い換えると、民間銀行が融資をしにくい場面でも、積極的な融資を展開するのが、日本政策金融公庫の役割です。たとえば、創業時の融資や業績低調時の融資など。
ゆえに、中小企業であれば、日本政策金融公庫とはぜひともお付き合いをしておくべきなのですが。本事例のように、取引がない会社もあれば、日本政策金融公庫の存在を知らずにいる会社もあります。
そこで、まずは日本政策金融公庫との取引をはじめましょう、という話です。
これなら、借り換えによって民間銀行が1つになったとしても、日本政策金融公庫という選択肢が残ることになります。赤字のときなどはとくに、民間銀行に比べて日本政策金融公庫は融資を受けやすい傾向にあるので、有効な選択肢にもなるでしょう。
とはいえ、それも「既にお付き合いあってこそ」です。日本政策金融公庫から、はじめて融資を受けようとするときに赤字というのでは、さすがに融資が受けにくくなってしまいます。
業績が良いうち、少なくとも業績が悪くなる前に、日本政策金融公庫からはいちど融資を受けて、「実績(=信用)」をつくっておくことが大切です。
今回の事例では、最終的に借り換え提案を受け入れましたが、同時に日本政策金融公庫からも融資を受けることで、民間銀行1つだけにならないように対応しています。
対案検討の機会を提供する
最終的には借り換え提案を受け入れるにしても、いきなり借り換えを実行するのは得策ではありません。まずはいちど、借り換えられるほうの銀行にも、相談をしてみることをおすすめします。
具体的には、「〇〇銀行さんから借り換えの提案がきています。御行からも、なにかご提案をいただくことはできますか」と言って、借り換え提案の融資条件も開示します。
借り換えられるほうの銀行が、「借り換えられたくない」と考えれば、対案を検討・提示してくるはずです。もしも、「どうぞ、どうぞ(借り換えてかまいません)」ということであれば、そこまでの関係性だった、ということがわかります。
では、対案が無い、対案が借り換え提案のメリットには及ばない場合はどうするか?
こんなふうに、対応するのがよいでしょう。「当社としては、メリットが大きい〇〇銀行さんの提案を採用せざるをえません。ただし、このような借り換えは今回限りです。以降の御行からの融資について借り換えすることはありませんので、どうぞご容赦願います」
というわけで、「今回だけはすみません」という話です。もちろん、借り換えられるほうの銀行としては、気分が良くないでしょうが、こちらとしては「対案検討の機会」は提供しました。いきなり借り換えたわけではありません。いちおうの義理を果たしたと言えるでしょう。
また、メリットが大きい提案を採用するのは、経済合理性を判断基準とする会社としては、当然のことです。よって、借り換えられた銀行からも、あるていどの納得感はえられるものと考えます。これであれば、完全に関係性が切れることはなく、いずれまた融資を受けることもできるかもしれません。
なお、借り換えるほうの銀行については、「見極め」が必要であることは言うまでもありません。借り換えてもらうときは調子のよいことをいって、その後の関係性はいっこうに深まらない… というのでは困ります。
見極めるのもカンタンではありませんが、その銀行の業績や地域との関わり方、融資姿勢(金融仲介機能のベンチマーク)などを確認しておきましょう。くわしくはこちらの記事もどうぞ↓
新規取引銀行を増やす
借り換えをすることによって、民間の取引銀行が1つになってしまったら(借り換えられたほうの銀行とは、関係性が悪くなると仮定して)。さすがに、1つだけでは不十分です。
日本政策金融公庫があるとは言っても、あくまで公的金融機関でしかありません。民間銀行は、ほかに民間の取引銀行があるからこそ、「競争意識」が生まれます。
金利の引き下げや経営者保証の解除など、融資条件の改善交渉をするにあたっては、ほかに民間の取引銀行があることが必要です。ほかがなければ、銀行からは足元を見られてしまいます。
こちらにはほかに選択肢がないのだから、金利が高くてもいいだろう。経営者保証をとってもいいだろう、とされてしまうのはデメリットです。
なので、複数の銀行と取引をして、銀行どうし競争をしてもらう環境が必要になります。では、どのくらいの数の銀行とお付き合いをしておけばよいのか。目安は、次のとおりです↓
- 年間売上高 3億円未満 → 民間銀行2〜3つ+日本政策金融公庫(国民生活事業)
- 年間売上高 3億円以上 → 民間銀行3〜4つ+日本政策金融公庫(国民生活事業)
- 年間売上高 5億円以上 → 民間銀行4つ以上+日本政策金融公庫(中小企業事業)・商工中金
ちなみに。本事例の会社は、年間売上高が2億円超、毎年売上を伸ばしている状況でした。次のステージである「年間売上高 3億円以上」を見据えて、民間銀行は3つていどとお付き合いをしておくべきです。
そう考えると、もともと取引をしている民間銀行が2つ、というのも少なすぎたと言えるでしょう。取引する銀行の数は、次のステージも考えながら、先を見て増やしていくことも大切です。
なお、年間売上高が増えると取引銀行数が増えるのは、年間売上高が増えると必要になるおカネも増えるから。結果、必要な融資金額も増えるからです。
ところが、1つの銀行に融資できる金額には限りがあります。1つの銀行にとることができるリスクが限られているからです。したがって、あるていど分散して融資を受けなければいけません。
ただし、分散しすぎるのも問題です。1つの銀行あたりの融資金額が小さくなりすぎると、銀行から見たときに融資をする「うまみ(利息収入)」がありません。
銀行がうまみを感じられるていどに分散をする必要があり、その目安は前述したとおりとなります。
まとめ
民間銀行2行から融資を受けている会社が、そのうち1行から借り換え提案を受けたらどうするか? 実際の事例から、汎用性・再現性が高い要素を押さえておきましょう。
自社の銀行融資・銀行対応にも、役立てる場面があるはずです。
- 日本政策金融公庫とも取引をはじめる
- 対案検討の機会を提供する
- 新規取引銀行を増やす