決算書や試算表を見た銀行員から、「仕入・外注費が増えていますね」と言われたら。社長はいったい、どのように答えたらよいのかについて、お話をしていきます。
仕入・外注費は商売の良し悪しにかかわる。
融資を受けている会社は、銀行に対して「決算書」や「試算表」を提示します。そこに掲載されている「数字」を見た銀行員から、いろいろと言われることもあるでしょう。
たとえば、「仕入の金額が増えていますね」とか、「外注費の金額が増えていますね」とか。いずれも「売上原価」にかかわる数字であり、商売の良し悪しにかかわるだいじな数字でもあります。
銀行員が気にするのも「もっとも」です。では、そのようなことを言われた社長は、いったいどのように答えればよいのか?
事実を答えるのは当然にしても、銀行が気にしている点を理解したうえで、的を射た回答をしたいものです。というわけで、「仕入・外注費が増えていますね」と銀行員に言われたらどう答えるか、について。このあと、お話をしていきます。
「仕入が増えていますね」と言われたら
仕入単価が増加したら、売上単価を引き上げる
銀行員が「仕入が増えていますね」という場合。そこには十中八九、「売上の増加に比べて」という意味合いが含まれています。
つまり、売上の増加と同じくらい、仕入が増加しているのであれば問題はありませんが。売上の増加よりも仕入の増加のほうが大きい場合には、「利益の減少」が心配だということです。
最近では、世界的な新型コロナの影響もあって、いろいろなモノの値段が以前よりも高くなっています。いわゆる、「原材料費の高騰」です。これにより、仕入が増えている会社は少なくありません。
このまま放置をしていれば、利益が減少するわけですから。いったいどうするつもりなのか? ということを聞きたくて、銀行員は「仕入が増えていますね」と言っていることを理解しましょう。
この点で、中小企業では意外と多い対応が、「放置」です。まさに、銀行員が気にしているとおりのことが起きています。
本来ならば、値上げをすべきところではありますが。競合(大企業も含めて)との価格競争で負けるのをおそれて、販売価格を引き上げることができないのです。
大企業であれば、原材料費の高騰による影響を飲み込む「体力」もあるでしょう。が、中小企業には、そこまでの体力はありません。仕入単価の増加があれば、売上単価を引き上げるのがセオリーです。
困ったら銀行に相談してみる
そんなこと(値上げ)をしたら売れなくなってしまう… というのなら。それは、「商品自体の問題」だと言えます。商品そのものに魅力がない(あるいは、どこで買っても同じモノ)か、それとも、付加価値が少ないか(売りかたにもくふうがない)。
そのあたりもふまえて、仕入の増加に対して、値上げができるのかどうかを、銀行員に対して話をするようにしましょう。
そうは言っても、いま、値上げをするのは得策ではない。という場合は、どうしたらよいのか? 大量仕入による仕入単価の引き下げ、という方法が考えられます。あるいは、支払サイトを縮めて、その分の割引を受けるとか。
いずれにしても、おカネが必要になります。大量仕入には、いままでよりもおカネがいりますし、支払いサイトを縮めるのにもおカネがいります。そこで、銀行に相談をしてみましょう。
おカネを貸すのが銀行の仕事ですから、仕入単価の引き下げが合理的であれば、融資を検討してもらえる可能性があります。損益予測や資金繰り予定表といった「資料」を準備して、相談ができるとよいでしょう。
また、仕入先の問題として、大量仕入に耐えられるだけのチカラがない、大量仕入にしても支払サイトの短縮にしても、値下げに応じてもらえないことはあるものです。
この場合にも、銀行に相談をすることで道がひらけるケースがあります。銀行による支援のひとつ、「ビジネスマッチング」です。銀行はおカネを貸すだけではなく、取引先の紹介もしています。困っていることがあれば、正直に相談をしてみるのもおすすめです。
「外注費が増えていますね」と言われたら
外製から内製を好む銀行
銀行員が「外注費が増えていますね」という場合。やはりそこには、「売上の増加に比べて」という意味合いが含まれています。このまま放置すれば、利益が減少することを気にしているわけです。
これが、外注単価の増加ということであれば、ハナシはさきほどの「仕入の増加」と変わるところはありません。ところが、外注費の増加については、もうひとつ「論点」があります。
それは、内製から外製への切り替えです。つまり、社員による仕事(内製)から、外注先への仕事(外製)に切り替える。結果として、決算書の「給与・賃金」の金額が減って、「外注費」の金額が増えている、という状況になります。
これを見た銀行員が、「外注費が増えていますね」と言うことがあるわけです。
ちなみに、銀行は「外注費の減少」については、どちらかといえば「好意的なイメージ」を持っています。ここで言う「外注費の減少」とは、外製から内製への切り替えを意味するわけですが。
内製、つまり、社員が増えたということは、社員を雇って固定的に給与・賃金を支払えるくらい、仕事が増えている。売上が見込めている。だとすれば将来は安心だ、というイメージです。
これに対して、外注費の増加は、内製から外製への切り替えを意味します。すると、今後の売上見込みが不安定だから、固定的な給与・賃金を減らすために、外注費が増えているのではないか… と、銀行はイメージすることがあります。
したがって、外注費が増えている(いっぽうで、給与・賃金が減っている)ときには、今後の売上見込みについて、売上推移や受注リストなどを提示しながら、銀行に説明できるとよいでしょう。
終身雇用は終わりぬ。
加えて、もうひとつ。銀行に伝えるべきことがあります。それは、「なぜ、内製から外製に切り替えるのか」の理由です。
以前に比べると、副業を認める会社が増えています。いくつかの要因はありますが、そのなかのひとつに挙げられるのが「優秀な人材の囲い込み」です。いったい、どういうことかというと。
優秀な人ほど、速くてたくさんの仕事ができます。スピードや量だけではなく、成果もあげられるでしょう。ところが、その人の能力をすべて必要とするだけの仕事量がない場合はありますし、ひとつの会社に支払うことができる「給与」の額は限られてもいます。
結果、優秀な人ほど、ほかに活躍の場(たくさん稼げる場)を求めて、会社をやめてしまう… 会社にとっては損失です。だったら、副業を認めたうえで、自社の仕事をきちんとやってもらえればそれでいい、という考え方が出てきました。
そこをさらにもう一段階、先に進めたものが「外注」です。いままでは社員だった人を、雇用契約ではなく、請負契約として、外注で仕事(内容は社員のときと変わらず)をしてもらいます。社員の「雇用・管理コスト」も大きなものですから、そういった意味でも、外注は会社にとってのメリットもあるものです。
そのような背景もあって、フリーランスが増加しているとも言われます。だとすれば、会社は「優秀なフリーランス」を見つけて外注をするほうが、「内製よりもコスパがよい」という一面もあるでしょう。
このあたり、「外製よりも内製」と考えがちな銀行には、ようく説明をしておきたいところです。外注をしている業務の内容、外注先の選定基準などをリストにするなどして、銀行に説明をするようにしてみましょう
まとめ
決算書や試算表を見た銀行員から、「仕入・外注費が増えていますね」と言われたら。社長はいったい、どのように答えたらよいのかについて、お話をしてきました。
銀行が気にしているポイントを理解して、的を射た回答ができるようにしましょう。