銀行から、「社長の役員報酬が高い」と言われることがあります。これを聞いて、社長は気にすべきか否か。役員報酬を下げるべきか否か、についてお話をしていきます。
役員報酬が高い、と言われれば気にはなる。
会社の決算書や試算表を見た銀行から、「社長の役員報酬が高い」と言われたら。社長としては気になるところでしょう。高すぎるのであれば、少しは下げないと融資が受けにくくなってしまうのでは…? と、そんなことを考える社長もいるはずです。
たしかに、銀行が言う「社長の役員報酬が高い」を、気にしたほうがよいケースもあります。が、必ずしも気にする必要はありません。つまり、役員報酬を下げる必要はないケースもあるということです。
とはいえ、銀行に「説明」すべきことはありますから。そのあたりもふまえて、銀行に「社長の役員報酬が高い」と言われたら気にすべきか否かをお話していきます。
- 役員報酬の内訳に問題無しなら気にしない
- 利益+役員報酬に問題無しなら気にしない
- 業績悪化時は気にすべき
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
役員報酬の内訳に問題無しなら気にしない
決算書や試算表に記載されている「役員報酬」の金額には、社長以外の役員の役員報酬も含まれていることがあります。したがって、決算書や試算表を見ているだけでは、社長の役員報酬を知ることはできません。
にもかかわらず、決算書や試算表だけを見て「社長の役員報酬が高い」と言う銀行員は、実際にいます。
たとえば、決算書には「役員報酬 2,000万円」と記載されていても、社長ひとりの役員報酬ではなく、役員3名で 2,000万円ということもあるわけです。これを銀行がわかったうえで言っているのかどうかは、確認をする必要があります。
それなら、決算書には「勘定科目内訳明細書」が付いているだろう。そう思われるかもしれません。たしかに、それを見れば役員報酬の内訳はわかります。ところが、その勘定科目内訳明細書を見ずに「社長の役員報酬が高い」と言う銀行員もいることは覚えておきましょう。
なお、銀行が「高い」というときに、なにをもって高いと考えているのか?
ひとつは、「返済原資」です。銀行は、返済原資を「税引後利益+減価償却費」で見ています。よって、会社が滞りなく返済を続けるには、「税引後利益+減価償却費 > 年間返済額」であるべき。というのが、銀行の見方です。
この点で、「税引後利益+減価償却費 < 年間返済額」となってしまうようだと、「社長の役員報酬が高すぎるからだ」との見方につながります。
それでも、会社の預金残高が潤沢であれば、その預金で返済を続けることは可能ですからまだよいでしょう。しかし、預金残高が少ない(とくに平均月商の1ヶ月分未満)となると、銀行としては返済に不安を感じるところです。
というように、利益や預金の金額を見ても問題がないようであれば、銀行が言う「役員報酬が高い」との言葉を気にする必要はありません。あらためて、役員報酬の内訳を説明することで対応しましょう。
利益+役員報酬に問題無しなら気にしない
銀行が「返済原資」として、「税引後利益+減価償却費」を見ていることは話をしました。このことから、銀行は「利益」自体にも注目をしています。
利益は「返済原資」を構成するという一面とは別に、「収益力」のあらわれという一面もあります。利益が大きいほど収益力が高く、優秀な会社だということです。
ここで、具体例を使って考えてみましょう。A社では、社長の役員報酬が 1,000万円、利益が 1,000万円。B社では、社長の役員報酬が 2,000万円、利益がゼロ。両社を比べたときに、収益力が高いのはどちらか?
社長の役員報酬を除いた利益、つまり、「利益+役員報酬」で考えると、両社の収益力はどちらも「2,000万円」で同じです。
多くの中小企業においては、「社長=大株主」であり、社長自身が役員報酬を決めることができます。よって、会社の業績が良いときには、社長は役員報酬を増やし、業績が悪いときには役員報酬を減らすものです。
そう考えると、役員報酬を除いたあとの利益だけを見ていては、会社の収益力を見誤ってしまう可能性があります。さきほどのA社とB社の事例がまさに、です。
利益だけを見ていると、「A社のほうがよい会社だ」との短絡的な見方になってしまうでしょう。そこで、銀行も「利益+役員報酬」という見方をしているのですが、なかにはその見方をしないままに「役員報酬が高い」と口にする銀行員もいます。
たとえば、前期は「役員報酬 1,000万円、利益 1,000万円」、今期は「役員報酬 2,000万円、利益ゼロ」を見て、「利益に対して役員報酬が高すぎる」といった発言です。
たしかに、利益は減っています。とはいえ、「利益+役員報酬」は減っていません。会社の収益力自体は変わっていないとも言えるでしょう。社長は、会社の業績がよいときに、個人でおカネを蓄えておき、会社がいざというときに備える。という考え方もあります。
もちろん、会社の資金繰りが悪くなる(預金が減り続ける)ほど、役員報酬を高くするのは問題ですが。そうでない限りは、「利益+役員報酬」を銀行に説明することで対応しましょう。
業績悪化時は気にすべき
ここまでは、銀行に「社長の役員報酬が高い」と言われても気にしなくてよい、というケースを見てきました。さいごに、気にすべきケースも確認をしておきます。
それは、「業績が悪化しているケース」です。というのは、ここまでの話でお気づきのことでしょう。会社の業績が悪くて赤字になっているのに、資金繰りも悪くなっているのに、社長の役員報酬が高ければ、さすがに問題があります。
具体的には、「税引後利益+減価償却費 < 年間返済額」かつ「預金残高 < 平均月商1ヶ月分」が、ひとつの目安になるでしょう。加えて、「債務超過(資産 < 負債)」の状態であれば決定的です。
このような状態になると、会社は追加融資を受けたくても受けられず、すべきことは「リスケジュール」になります。当初の返済額を一時減額、あるいは一時停止して、そのあいだに会社の立て直しをはかるわけです。
そのリスケジュールを銀行に依頼するにあたって、銀行から「役員報酬が高い」と言われるようだと問題があります。このままでは、リスケジュールに応じてもらえない可能性があるからです。
銀行の見方として、「リスケジュールをするのにもかかわらず、社長の役員報酬が高いままでは道理に合わない」となるでしょう。言い換えると、「社長もまた、痛みを伴うべき」ということです。
銀行にリスケジュールを依頼するときには、「経営改善計画書」を作成・提示するのが基本になります。その計画のなかに、「社長の役員報酬減額」を織り込むのは、必須だといってよいでしょう。ただし、当然ながら、社長が生活できないほどまで減額する必要はありません。
なお、銀行が「役員報酬の内訳」を見ていないことがあるのは前述したとおりです。役員報酬の総額だけを見て「役員報酬が高い」と言われることがないように、あらためて「役員報酬の内訳」についても説明をするようにしましょう。
まとめ
銀行から、「社長の役員報酬が高い」と言われることがあります。これを聞いて、社長は気にすべきか否か。役員報酬を下げるべきか否か、についてお話をしてきました。
銀行に「説明」をすることで対応するケースと、「役員報酬を下げる」ことで対応するケースとの違いを押さえておきましょう。銀行が「高い」というからには、いずれかの対応は必要です。
- 役員報酬の内訳に問題無しなら気にしない
- 利益+役員報酬に問題無しなら気にしない
- 業績悪化時は気にすべき