借入が増えるのはよろしくない、という考え方がありますが。実際には、必ずしもそうではありません。銀行借入を増やしても、銀行からの評価が下がらない理由について、お話をしていきます。
借入が増えるのはよろしくない。
会社の決算書について。いっぱんに、「借入」が増えるのはよろしくない、との考え方があります。
ひいては、銀行借入が増えるのはよろしくない。決算書の内容が悪くなるので、銀行からの評価も下がってしまう。だとしたら、銀行から借入ができなくなってしまう… との考え方もあるようです。
が、必ずしもそうではありません。銀行借入を増やしても、銀行からの評価が下がらない。むしろ、上がることさえあります。その理由を確認しておきましょう。銀行借入を「過度」に嫌ったり、避けたりすることがなくなるはずです。
具体的には、次のとおりになります↓
- 銀行の商品だから
- 利息収入が得られるから
- 実績・信用になるから
- 倒産リスクが減るから
- 成長スピードが上がるから
- 融資慣れしているから
これらについて、このあと順番にお話をしていきます。
銀行借入を増やしても、銀行からの評価が下がらない理由
銀行の商品だから
銀行にとって、融資は「商品」にあたります。商品とは、売り手にとって、売れれば売れるほどよいものであり、それをたくさん買ってくれる相手が「良いお客さま」です。
だとすれば、融資をたくさんできる相手、つまり、銀行借入を増やす会社は、銀行にとって「良いお客さま」だという考え方が成り立ちます。必ずしも、銀行からの評価が下がるわけではありません。
この点で、「銀行借入は嫌いだ」といった発言は、銀行員にとってはおもしろくないものであることは理解しておきましょう。繰り返しになりますが、融資は銀行の「商品」だからです。
じぶんの商品を嫌いだといわれて、うれしい人はいませんよね。それは、銀行員だって同じです。あまり嫌っていると、「良いお客さま」になるとはおもわれず、銀行の足が遠のいてしまいます。
また、仕入代金や経費の未払い(買掛金や未払金)も、銀行借入と同じ「負債」であり、いうなれば同じ「借金」です。そんな未払いがあるのにもかかわらず、いっぽうでは、銀行借入だけを対象に「借金は嫌いだ」というのであれば、理屈に合わないものでもあります。
少なくとも、銀行員の前では「借金は嫌いだ」とはいわないことです。
利息収入が得られるから
さきほど、融資は銀行にとっての「商品」だといいました。商品を売れば、当然もうかります。
銀行もまた、融資をすることで利息収入が得られますから、やはりもうかるわけです。したがって銀行は、自行の融資残高が大きい会社を評価します。良いお客さまとして、だいじにするということです。
また、会社の業績が悪化して、資金繰りが厳しくなったときにも、自行の融資残高が大きい会社を、銀行はカンタンに見捨てることはできません。つぶれてしまえば、貸したおカネを回収できなくなってしまうからです。そのときは、元金の返済を猶予しながらも(リスケジュール)、利息は取り続けることで回収をはかります。
いっぽうで、融資残高が小さい会社となると、「回収をあきらめて早く整理をしてしまおう」との動きもありうるところです。銀行からすれば、返済を猶予し続けるほど「良いお客さま」ではない、ということでもあります。
だとすれば、融資残高を大きくすることは、銀行からの評価を上げる手段だと言えるでしょう。たとえば、同じ 3,000万円を借りるのでも、1行から借りるのと、3行から 1,000万円ずつ借りるのとでは違う。銀行からの評価が上がるのは、1行から 3,000万円を借りるほうだとわかります。
ゆえに、融資を受ける銀行をあまり増やしすぎて、融資金額が分散しすぎないように気をつけましょう。
実績・信用になるから
借入残高があるということは、銀行借入ができたという「実績」があることをあらわしています。銀行は、「貸したおカネを返してもらえる相手」にしか融資をしませんから、実績があるということは、銀行からの「信用」があることともイコールです。
なので、借入残高が大きい会社は、それだけ信用力がある会社だ。というのが、銀行の見方です。また、いちど借りたことがある金額までは融資がしやすくなるのも、そのような銀行の見方があるからでもあります。
たとえば、いちど 3,000万円まで融資を受けたことがある会社は、その後に返済が進んで残高が減ったときに、減った分を借り直すことに関しては借りやすいということです。
これに対して、まったくの無借金の会社、まったく銀行借入がない会社は、そもそも銀行から敬遠されるケースがあります。信用力がない会社だ、と見られるからです。
会社としては「がんばって無借金を続けてきた」のかもしれませんが、銀行は「借りたくても借りることができなかったのではないか…?」という見方をします。結果として、無借金の会社は融資が受けにくくなることはあるわけです。
いっぱんには、無借金の会社は良い会社だとの見方もありますが。銀行からの評価はそうでもない。無借金が必ずしも評価されない、ということは覚えておきましょう。
倒産リスクが減るから
いまここに、「預金 500万円、銀行借入ゼロ」のA社があるとします。これに対して、「預金 5,500万円、銀行借入 5,000万円」のB社があったとしたらどうでしょう?
もし、この瞬間に不測の事態がおきて、どちらの会社も売上がなくなってしまった場合。より倒産を避けられる可能性が高いのは、どちらの会社か。預金の多さに着目すれば、B社だと考えることができます。A社は 500万円しかありませんが、B社は 5,500万円ありますから、その分だけ時間をかせぐことができるからです。
ちなみに、A社もB社も「正味 500万円の預金」という点では変わりません(B社が、5,000万円を完済すれば預金は 500万円)。にもかかわらず、銀行借入が多いB社のほうが、いざというときの倒産リスクは低い。これを、銀行は評価しています。
つまり、銀行借入が多かったとしても、預金も多ければ問題はない。むしろ、銀行借入が多かったとしても、評価は上がるということです。実際、銀行借入が多い会社であっても、預金もまた多い会社には、銀行から融資提案があるものです。
銀行借入だけを見るのではなく、預金とあわせて見るようにしてみましょう。
成長スピードが上がるから
ここでもういちど、さきほどのA社とB社の例を考えてみます。A社は「預金 500万円、銀行借入ゼロ」、B社は「預金 5,500万円、銀行借入 5,000万円」でした。
では、どちらの会社が、より早く事業を成長させることができそうか? この点でも、預金をより多く持っているB社だと考えることができます。
たとえば、1つ 500万円の商品を仕入れて売る商売だとしたら。A社が商品を1つ仕入れて売るあいだに、B社は 11個仕入れて売ることができます。よって、より早く売上と利益を増やして、成長できるのはB社です。
これを「レバレッジ効果」と呼びます。言い換えると、「テコの原理」です。銀行借入をうまく使える会社は、成長スピードを上げることができる。そういった会社を、銀行もまた評価します。
銀行借入の金額が多くても、成長に活かせている会社は、銀行からの評価が下がることはなく、むしろ上がることを理解しておきましょう。
融資慣れしているから
銀行借入が多い会社は、それだけ「融資に慣れている」とも言えます。慣れているということは、それだけ、銀行対応の経験も豊富であり、銀行借入に対する理解が深いと見ることもできるでしょう。
逆に、銀行借入が少ない会社は、融資に慣れていませんから、いざというときにも融資をうまく受けられず。結果として、倒産リスクが高まったり、成長スピードが鈍ったり、ということが考えられます。
大企業のように、豊富な資金調達手段を持たない中小企業にとって、銀行融資はだいじな資金調達手段です。銀行融資は、中小企業の資金繰りにおける「生命線」だと言えます。
だとすれば、融資慣れしている会社を銀行が評価して、融資に不慣れな会社を銀行が不安に感じることもあるでしょう。ですから、銀行借入が多いからといって、銀行からの評価が下がるわけでありません。
まとめ
借入が増えるのはよろしくない、という考え方がありますが。実際には、必ずしもそうではありません。銀行借入を増やしても、銀行からの評価が下がらない理由を押さえておきましょう。
銀行借入を「過度」に嫌ったり、避けたりすることがなくなるはずです。
- 銀行の商品だから
- 利息収入が得られるから
- 実績・信用になるから
- 倒産リスクが減るから
- 成長スピードが上がるから
- 融資慣れしているから