以前よりも、中小企業に対して銀行からの提案が増えている「シンジケートローン」について。メリット・デメリットをお話していきます。
中小企業にもシンジケートローンの提案が増えている
本記事の投稿日は、2022年4月6日。最近では、中小企業に対して銀行から「シンジケートローン(略称:シローン)」の提案が増えてきました。
以前は、年間売上高が数十億円を超えるような会社が提案対象だった印象がありますが。いまは、年間売上高が5億円くらいの会社に対しても提案がなされている状況です。そこには、銀行側の思惑もあるわけで。そのあたりもふまえつつ、シンジケートローンのメリット・デメリットをまとめていきます。
ちなみに、シンジケートローンとは。1つの融資先に対して、複数の銀行がシンジケート団(略称:シ団)を組み、同一の条件でおこなわれる融資をいいます。「シンジケート」と聞くと、あやしいフンイキを感じるかもしれませんが、銀行融資の一形態・協調融資の一形態です。
それではこのあと、シンジケートローンのメリット・デメリットを確認していきましょう。
1つの案件に対して、たとえば「民間銀行と日本政策金融公庫」の2つから、融資を受ける方法があります。1,500万円の融資を受けるにあたって、民間銀行が 1,000万円、日本政策金融公庫が 500万円を融資する、といったケースです。これは、中小企業で一般的に見られる協調融資になります。
シンジケートローンとの違いは、手続きや契約は、民間銀行と日本政策金融公庫それぞれにおこなう必要があること(シンジケートローンは、手続きや契約もひとまとめ)。また、融資条件(返済期間や金利など)は、民間銀行と日本政策金融公庫それぞれによることです(シンジケートローンは、契約がひとつなので融資条件は全銀行で共通)。
シンジケートローンのメリット
まずは、シンジケートローンのメリットから見ていきます。
より多くの金額を借りられる
シンジケートローンは、複数の銀行からの融資となるため、結果として、個々の金融機関から融資を受けるよりも多くの金額を借入できる可能性があります。融資金額が大きくなると、1つの銀行だけでリスクを負うのは困難ですが、複数の銀行であればリスクを分散することができるからです。
大きな金額を借りたい。けれども、取引銀行から通常の融資ではじゅうぶんな金額を借りられない。という場合などは、シンジケートローンの利用が選択肢のひとつになるでしょう。
短期借入・長期借入のバランスを見直せる
既存の借入金もまとめて借り換えることによって、「短期の借入金(短期継続融資)」と「長期の借入金(毎月分割返済)」のバランスを見直せる可能性があります。これにより、毎月の返済額を軽減できるので、資金繰りを改善できるのはメリットのひとつです。
なお、短期継続融資とは、経常運転資金(売上債権+棚卸資産ー仕入債務)を対象にした「手形貸付や当座貸越による融資」であり、実質的には「返済なし・借りっぱなし」の融資になります。
銀行対応の負担を軽減できる
シンジケートローンには、アレンジャー(シンジケート団を組成して、融資を取りまとめる役割をになう銀行)と、エージェント(返済や事務連絡など、窓口の役割をになう銀行。アレンジャーと同じ銀行であることが多い)とが存在します。
シンジケート団として、多くの銀行が関わっていても、アレンジャーとエージェントの二者に対応が集約されるため、会社は銀行対応の負担を軽減できるのはメリットです。
取引銀行を増やせる
シンジケート団には、いままで取引がない銀行が加わることもあります。あらたに銀行との関係を構築できるため、取引銀行が増えて、資金調達の幅が拡大するのもメリットです。
対外的な信用が上がる
シンジケートローンの利用は、業績が良い会社が前提になるため、利用の事実が公表されることで(自社のWEBサイトや各種メディアでの紹介など)、対外的な信用が上がる効果が期待できます。
シンジケートローンのデメリット
続いて、シンジケートローンのデメリットを見ていきます。
手数料の種類が多くて高い
シンジケートローンは、通常の融資に比べると手数料の種類が多く、その金額は高くなります。具体的には、アレンジャーに支払うアレンジメントフィーや、エージェントに支払うエージェントフィーなどです。
いっぽうで、金利は低く抑えられる傾向にあるため、手数料と利息の「トータルコスト」で見れば、極端に多額になるようなことはないでしょう。ただし、利息は期間の経過に応じて支払うのに対して、手数料は支払時期が前倒しになることが多くなる点には注意が必要です。
個々の銀行との関係性が希薄になる
前述したとおり、銀行対応がアレンジャーとエージェントの二者にしぼられるため、ほかの銀行との接点がなくなります。これを、「銀行融資の選択肢が狭まる」と捉えるのであれば、シンジケートローンのデメリットだと言えるでしょう。
この点をふまえて、個々の関係性を重視したい取引銀行があれば、シンジケート団から外してもらうように相談することは可能です。
コベナンツ(財務制限条項)に注意が必要
シンジケートローンには、「コベナンツ」が付されることが多くなります。たとえば、財務制限条項(2期連続赤字、純資産が前期比75%未満など)」や「報告や情報提供の義務」、「資産処分の制限」など。これらコベナンツに違反をすると、期限の利益を喪失する(原則、一括返済を求められる)のは大きなデメリットです。
ただし、実際には返済を「猶予・免除」されることもあれば、「条項の見直し」によって一括返済を免れるケースがあります。金融庁からは銀行に対して、「柔軟な対応」を求める通達が出ていることも覚えておくとよいでしょう。交渉の余地はある、ということです。
まとめに代えて 〜シンジケートローンを利用するか否か
ここまで、シンジケートローンのメリットとデメリットについて話をしてきました。これらをふまえて、会社はシンジケートローンを利用すべきか否か。銀行から、シンジケートローンを提案されたときにはどうするか?
結論として、個々の銀行から融資を受けられているのであれば、シンジケートローンを積極的に利用する必要はないものと考えます。理由は、前述したデメリットの大きさです。メリットについては、個々の銀行からの融資がじゅうぶんであれば同様に得られるものばかりでもあります。
銀行側の狙いは、「手数料収入」です。いまは低金利なので、ふつうに融資をするだけではなかなか収入を得られません。そこを、シンジケートローンの手数料で補おうというわけです。
また、手数料は利息に比べて支払時期が前倒しになることは、すでに話をしました。銀行にとっては、手数料であれば、利息よりも早く収入になるというメリットがあります。こういった「銀行側の思惑」もあって、シンジケートローンの提案が増えていることは理解しておきましょう。