ときには銀行のほうから、会社に対して融資を勧めることもありますが。そのタイミングが、自社の決算まぎわの場合にはどうするか? ここで融資を受けるかどうかの考え方について、お話をしていきます。
融資を受けるも受けないも痛し痒し。
銀行はおカネを貸すのが商売。ゆえに、ときには銀行のほうから、会社に対して融資を勧めることもあります。つまり、「おカネを借りませんか?(というか、借りてもらえませんか?)」といった、いわゆる「融資セールス」です。
では、そのタイミングが、自社の「決算まぎわ」である場合はどうでしょう?
銀行との関係性もありますし、手元におカネを持っておいたほうが良いというハナシもある。だとすれば、借りておくべきか? けれども、借入金が増えれば決算書の評価が悪くなるのではないか? あぁ、どうしよう… と、悩んでしまうかもしれません。
そこで、本記事では、決算まぎわに銀行から融資を勧められたらどうするか? について、お話をしていきます。具体的には、次のようなことに注目したうえで、融資を受けるかどうかを検討するのがよいでしょう↓
- 預金残高を確認する
- 融資シェアを想定する
- 融資条件を相談する
これらについて、このあと順番に見ていきましょう。
決算まぎわに銀行から融資を勧められたらどうするか?
預金残高を確認する
極論ではありますが、おカネがなくなれば、会社はつぶれてしまいます。そう考えると、まずはおカネがだいじだ、と言ってよいでしょう。
この点で、大企業であれば信用力を活かして、いつでもすぐに資金調達(増資や融資など)ができるとしても、中小企業となるとそうはいきません。であるならば、銀行がおカネを貸してくれると言っているいまはチャンスです。
そこでまずは、自社の「預金残高」を確認してみましょう。そのうえで、預金残高が「不十分」であれば、融資を受けて、手元のおカネを増やしておくのが得策というものです。では、預金残高が不十分とは、具体的にどういう状態を言うのか?
預金残高が「平均月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)の2ヶ月分以下」、これがひとつの目安になります。なにかあれば、資金繰りに支障をきたす可能性が高くなる水準です。よって、現状、預金残高が平均月商の2ヶ月分以下であれば、迷わず融資を受けることをおすすめします。
でも、借入金が増えると決算書の評価が悪くなる… と、考える社長もいるでしょう。実際に、多くの社長が「自己資本比率を重視している」とのデータもあります。借入金が増えると、その自己資本比率が下がることを心配しているわけです。
たしかに、自己資本比率は下がります。が、預金残高との二者択一となれば、預金残高です。繰り返しになりますが、おカネがなくなれば会社はつぶれてしまいます。また、預金残高が平均月商1ヶ月分を割り込むと、つぶれる会社が多くなるのはデータでもあきらかです。
銀行はそれを知っていますから、預金残高が少ない会社への融資を躊躇します。ですから、将来、預金残高が少ないことで、銀行からの融資が受けられなくなるのを避けるためにも、借りられるときに借りて、預金残高を増やしておくことも考えておきましょう。
ちなみに、自己資本比率を把握していない社長の会社は赤字が多い、とのデータもあります。したがって、「おカネがありさえすればいい」のではなく、自己資本比率を上げるのも「だいじではない」わけではない、ということです。
つまり、「預金残高か自己資本比率か」の二者択一であれば預金残高だけれど、どちらもだいじではある点は、誤解なきよう注意しなければいけません。
融資シェアを想定する
預金残高も考えて、融資を受けよう! というときに、気をつけたいのが「融資シェア」です。融資シェアとは、自社の融資総額に占める、各銀行の融資残高の割合をいいます。
たとえば、融資総額が 5,000万円の会社があったとして。そのうち、A銀行の融資残高が 3,000万円、B銀行の融資残高が 1,500万円、C銀行の融資残高が 500万円だとします。このとき、各銀行の融資シェアは、次のとおりです↓
- A銀行 … 60%(3,000万円 ÷ 5,000万円)
- B銀行 … 30%(1,500万円 ÷ 5,000万円)
- C銀行 … 10%(500万円 ÷ 5,000万円)
では、この会社が決算まぎわになって、B銀行から 3,000万円の融資を勧められたとしたらどうでしょう? そのまま融資を受けた場合、決算時点での融資シェアは次のように変わります↓
- A銀行 … 37.5%(3,000万円 ÷ 8,000万円)
- B銀行 … 56.25%(4,500万円 ÷ 8,000万円)
- C銀行 … 6.25%(500万円 ÷ 8,000万円)
上記のとおり、融資シェアのトップは、A銀行からB銀行に入れ替わることになります。もし、A銀行に「うちがメインバンクだ」との認識がある場合、この状況はおもしろいものではありません。メインバンクの座を、B銀行に奪われたことになるからです。
よって、このような状況になるのであれば、B銀行から融資を受ける前に、A銀行にいちど相談をしておくほうがよいでしょう。「B銀行から 3,000万円の融資提案がきています。御行(A銀行)からも、なにか提案をいただくことはできますか?」という相談です。
それでも、A銀行からは提案がないというのであれば、B銀行から融資を受けるのもいたしかたありません。いちおう、A銀行には「ひとこと」伝えたのですから、義理は果たしたとも言えるでしょう(もちろん、A銀行はそうはおもっていないかもですが…)。
というように、銀行はこちらが考えている以上に、「融資シェア(=他行の状況)」を気にしているものです。決算まぎわに融資を受ければ、それがそのまま決算書に反映されることになります。決算書を見た他行がびっくりすることがないように、決算書の融資シェアも「想定」したうえで、勧められた融資を受けるかどうかを検討しましょう。
融資条件を相談する
預金残高も考えて、また、融資シェアも考慮したうえで、勧められた融資を受ける! という場合。もうひとつ、検討すべきことがあります。それが、「融資条件」です。
融資条件とは、文字どおり、融資の条件であり。融資金額、返済期間、返済方法、金利、担保・補償の有無などの条件をいいます。銀行のほうから勧められた融資であれば、これらの融資条件を交渉するチャンスです。
ふだんの融資であれば、こちらが借りたいわけなので、どうしても「立場が下」になります。ですが、今回は銀行が貸したいのですから、「立場は逆転状態にある」と言ってよいでしょう。
そこで、借りるにしても、融資条件を相談するのがおすすめです。このとき、金利を下げることばかりに目がいく社長は少なくありません。ところがむしろ、金利は無視して、ほかの条件を良くすることを考えましょう。
たとえば、もっと融資金額を大きくするとか、もっと返済期間を長くするとか、短期継続融資(手形貸付・当座貸越)で借りるとか、担保や保証は無しにしてもらうとか。とくに、プロパー融資を受けたことがない、受けたことがあっても少ない会社は、プロパー融資を相談したいところです。
プロパー融資であれば、信用保証協会の保証枠(一般保証の無担保融資で 8,000万円限度)を温存することができます。いちどプロパー融資の実績ができれば、次のプロパー融資が受けやすくなります。他行からのプロパー融資を引き出す「材料」にもできるでしょう。
というように、すでに低金利のいま、さらにわずかな金利を下げるよりも、有意義な融資条件はあるはずです。銀行から融資を勧められたときには、そのままの条件を鵜呑みにするのではなく、また、金利ばかりを交渉するのではなく、自社にとって中長期的に有意義な融資条件の相談をしましょう。
なお、「多少は金利が高くなってもいいので」と付け加えて相談をすると、銀行も応じやすくなります。
まとめ
ときには銀行のほうから、会社に対して融資を勧めることもあります。そのタイミングが、自社の決算まぎわの場合にはどうするか? ここで融資を受けるかどうかの考え方について、押さえておくようにしましょう。
- 預金残高を確認する
- 融資シェアを想定する
- 融資条件を相談する