財務指標のひとつ「流動比率」が低くなる原因はいろいろありますが。銀行借入に原因があるのだとすれば、いったい何が起きているのか? について、お話をしていきます。
流動比率は最低でも100%超。
会社の決算書を分析するツールのひとつ「財務指標」について。財務指標にもいろいろありますが、そのなかのひとつに「流動比率」があります。算式であらわすと、
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債
算式中の「流動資産」とは、おカネそのもの(現金預金)に加えて、近いうち(おおむね1年以内)におカネを受け取ることができる資産をいいます。たとえば、売掛金、受取手形、たな卸資産、短期貸付金など。
これに対して、「流動負債」は、近いうち(おおむね1年以内)におカネを支払わなければいけない負債です。たとえば、買掛金、支払手形、未払金、短期借入金などです。
これら、流動資産と流動負債とがどういった「関係性」にあるのが望ましいか? というと。「流動資産 > 流動負債」の状態です。近いうちに払わなければいけない負債よりも、近いうちにおカネを受け取ることができる資産が多いほうがいい、ということをあらわしています。
その逆は、問題です。つまり、「流動資産 < 流動負債」となると、近いうちに支払いができなくなってしまう可能性があります。これらをふまえて、流動比率は「最低でも 100%超」であることを理解しておきましょう。銀行もまた、そのように見ています。
では、その流動比率が低い会社について。その原因はいろいろあるわけですが、もし、「銀行借入」に原因があるのだとすれば、いったい何が起きているのか? 本記事では、そこに焦点をしぼってお話をしていきます。具体的には、次のとおりです↓
- 短期借入で固定資産を購入している
- 短期借入で赤字補てんをしている
- 短期継続融資が多すぎる
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
流動比率が低い会社の銀行借入に起きていること
短期借入で固定資産を購入している
貸借対照表に「固定資産」が記載されている場合には、その固定資産を短期借入で購入したのではないか? ということを疑ってみましょう。
そもそも、固定資産とは。「固定」の言葉があらわすとおり、長期(1年超)にわたって利用される資産をいいます。建物、土地、機械装置、自動車、器具備品、ソフトウェアなど。長期利用に加えて、金額が大きいのも固定資産の特徴です。
その固定資産を購入するのに、自己資金ではなく銀行借入を利用する場合。長期返済の約束で借入をするのが財務のセオリーです。もしこれを、短期返済の約束で借入するとどうなるか? 言うまでもなく、資金繰りが厳しくなります。
短期返済の金額に対して、返済原資である「固定資産の利用から生じる利益」が追いつかないということです。固定資産の金額は大きいのですから、短期で返済をするには返済負担が大きすぎます。
にもかかわらず、固定資産を短期借入で購入してしまう会社はあるものです。わざわざ固定資産の購入資金として借りるのもメンドーなので、ふだんの運転資金(仕入代金や経費の支払いのためのおカネ)として借入したなかから払ってしまえばいい。と、考えるような会社です。
このとき、貸借対照表の流動資産は増えずに(増えるのは固定資産)、いっぽうでは流動負債が増えることになります。すると、流動比率はどうなるか? 流動負債だけが増えるのですから、当然、流動比率は低くなります。
資金繰りが厳しくなるのは、すでにお話をしたとおりです。加えて、流動比率の悪化によって、銀行からの評価も下がり、融資が受けにくくなるのでは、ますます資金繰りが厳しくなってしまいます。
固定資産を借入して購入するのであれば、長期返済の約束で借りるようにしましょう。
ちなみに、自己資金で購入する場合も注意が必要です。自己資金で固定資産を購入すれば、流動資産(現金預金)が減りますから、流動比率は低くなります。それでも、じゅうぶんな流動比率であればよいですが、ムリをすると、やはり将来の資金繰りを厳しくしてしまうでしょう。
固定資産は金額大きいのですから、基本的には借入を利用して、流動比率を落とさないようにすること。とくに、現金預金の残高を減らさないようにするのがおすすめです。
短期借入で赤字補てんをしている
会社が赤字になると、おカネが足りなくなります。その赤字を穴埋めするための銀行借入というのは、原則、ありません。つまり、赤字補てんを目的とした融資はない、ということです。おカネを貸して返してもらうまでが銀行の商売ですから、当然でしょう。赤字の会社におカネを貸せば、返済してもらえないかもしれません。
が、実際には、赤字補てんの銀行借入はあります。銀行からすれば、融資先がつぶれてしまい、返済してもらえなくなるのも困るので。いずれ黒字になる見込みがあるのなら、いまは赤字でも融資をしよう、ということはあるわけです。
また、「結果的に」赤字補てんになるケースもあります。借入をした当初は黒字だったものの、その後に赤字になったことで、借入したおカネが赤字の補てんに使われている… というケースです。
いずれにせよ、そういった赤字補てんのための借入の返済原資は「利益」になります。利益のなかから、少しずつ返済をしていくことになりますから、長期返済の借入がセオリーです。
にもかからず、短期返済の借入になっていることがあります。すると、流動資産は増えずに(借りたおカネは赤字補てんに使われる)、流動負債だけが増えるので、流動比率が低くなってしまうことがわかるでしょう。
というわけで、赤字補てんでおカネを借りるのであれば「長期返済」です。短期返済の借入となれば、資金繰りも厳しくなるのですから、じゅうぶんに気をつけましょう。
それでも、銀行は「短期」での借入を勧めてくることがあります。短期で回収できるほうが、回収不能になるリスクを抑えられるからです。
この点で、赤字の会社に対して、当座貸越を勧めてくる銀行もあります。「当座貸越の枠があまっているのなら、そちらを使えばよい」というハナシです。この場合にも、流動負債が増えることとなり、流動比率が低くなります。
当座貸越を勧めてきた銀行はともかく、ほかの取引銀行からの見た目が悪くなるのは問題です。やはり、赤字補てんについては、長期返済の借入をすべきだと言えます。
短期継続融資が多すぎる
銀行融資について、「借りかた」のひとつに「短期継続融資」があります。文字どおり、短期かつ継続して借りる融資です。具体的には、手形貸付と当座貸越になります。
手形貸付の場合、返済期日を1年以内として、期日には審査のうえで、とくに変わりがなければ期日を更新。結果として、「借りっぱなし」になるのが、会社側のメリットです。
当座貸越の場合、設定された「限度額」の範囲内であれば、借りるのも返すのも自由。やはり、借りっぱなしにもできるのが、会社側のメリットになります。
したがって、安定した資金繰りを考えるうえでは、いかに短期継続融資でおカネを借りるかは重要なポイントです。が、いくらでも短期継続融資を借りられるわけではなく、原則、「正常運転資金」の範囲内となります。
正常運転資金とは、算式でいうと「売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産(在庫)ー仕入債務(買掛金・支払手形)」です。これは、会社が事業を続けている限り、立て替えが必要になるおカネであり、銀行から借入をするのがセオリーになります。
この正常運転資金分の借入を、毎月分割返済の約束で借りてしまうとどうなるか? 毎月の返済によって手元のおカネは目減りしていきますから、正常運転資金分のおカネを維持することができなくなってしまいます。
そこで、正常運転資金分のおカネは「借りっぱなし」にできる、短期継続融資で借りましょう。ということになるわけです。
これらをふまえたうえで、本来、正常運転資金の範囲内であるはずの短期継続融資について、その範囲を超えているケースもあります。会社が銀行に対して、相応の担保提供をしているケースです。
銀行としては、担保があれば安心・安全なので、正常運転資金の範囲を超えてもなお、短期継続融資を実行することはあります。この場合、貸借対照表の流動負債がふくらみますから(短期借入金が増える)、その分、流動比率は低くなるのです。
短期継続融資をしている銀行は事情を理解していますが、ほかの取引銀行からはわからないということもあるでしょう。わからなければ、単純に流動比率が低い(流動負債が多い)と見られることもありえます。あらためて、事情を説明しておくのがおすすめです。
まとめ
財務指標のひとつ「流動比率」が低くなる原因はいろいろありますが。銀行借入に原因があるのだとすれば、いったい何が起きているのか? について、お話をしてきました。
流動比率が低いと、銀行からの評価が下がり、融資が受けにくくなることがあります。自社の流動比率が低いようであれば、その原因を把握しておく。必要に応じて、銀行に説明できるようにしておきましょう。
- 短期借入で固定資産を購入している
- 短期借入で赤字補てんをしている
- 短期継続融資が多すぎる