会社が銀行から融資を受ける場合に、社長個人の資産を担保提供すれば、融資は受けやすくなります。が、そのデメリットとは…? についてのお話です。
メリットがあれば、デメリットもある。
会社が銀行から融資を受ける場合に、社長個人の資産を銀行に担保提供するのは、選択肢のひとつになります。言うまでもなく、銀行からの融資が受けやすくなるからです。
銀行は、担保があればいざというときでも、貸したおカネを回収しやすくなります。その担保は、会社の資産ではなく、社長の個人資産であってもかまわないのです。
社長にとって「融資を受けやすくなる」のは、担保提供のメリットですが、いっぽうで、デメリットもあることを理解をしておきましょう。具体的には、次のとおりです↓
- 過剰債務になる
- ほかの銀行と疎遠になる
- いざというときの切り札がなくなる
これらのデメリットについて、このあと確認をしていきましょう。そのうえで、社長は自身の個人資産を、銀行融資にどう役立てればよいかについてもお話をします。
会社の銀行融資で社長個人の資産を担保提供するデメリット
過剰債務になる
銀行は、担保があればいざというときでも、貸したおカネを回収しやすくなる。ということは、さきほども話をしました。
もし、社長個人名義の定期預金が担保であれば、会社が借りたおカネを返済できなくてなったとしても、銀行はその定期預金から回収をすることができます。不動産の担保でも同じです。その不動産を売却して現金化すれば、やはり回収をすることができます。
その「回収のしやすさ」が安心となり、銀行が「融資をしすぎる」というケースはあるものです。
そもそも、会社の「本質的」な返済力とは「利益」だと言えます。会社が生み出す利益のなかから、借りたおカネを返済する。利益こそが返済原資。銀行は、会社の利益に見合った融資をする。これが本質です。
ところが、担保を提供しているばかりに、利益には見合わないほど多くの融資を受けている会社があります。利益からの完済は厳しいだろうなぁ、という会社です。
もちろん、そのような状況が「結果論」ということはあるでしょう。つまり、融資を受けた当初はそこまで利益が少ないわけではなかった。その後、徐々に利益が落ち込んだ。とはいえ、利益が落ち込むかもしれないこともふまえて、「将来の利益」まで目利きをするのが銀行の仕事でもあります。
たとえ、結果論であったとしても、利益に見合わないほど多くの融資を受けている「事実」にかわりはありません。その事実が、問題でありデメリットなんだ、と認識をする必要があります。
というように、社長個人の資産を担保提供することで、会社は利益に見合わないほどの融資を受けてしまう可能性がある。身の丈に合わないほどの借入、つまりは「過剰債務」を抱える可能性があることを理解しておきましょう。
銀行が貸してくれるからといって、借りすぎてしまうことには注意です。
ほかの銀行と疎遠になる
たとえば、A銀行・B銀行・C銀行の3つの銀行から、融資を受けている会社があったとします。このうち、A銀行だけに、社長が個人資産を担保提供したとしたらどうでしょう? 残りのB銀行、C銀行はどう考えるのか。
ふつうは、「不公平だ」と考えるはずです。じぶんたちだって、A銀行と同じように融資をしているのに、A銀行だけズルい。じぶんたちだって担保がほしい、そう考えるはずです。
とはいえ、すべての取引銀行に対して、気前よく担保提供するものではありませんし、できるものでもないでしょう。社長の個人資産にだって「限り」があります。というわけで、A銀行だけに担保提供をするとどうなるか。
B銀行やC銀行とは、疎遠になる可能性があります。まったく融資をしなくなるというようなことはなくても、あまり積極的には融資をしてもらえなくなることはあるはずです。
また、A銀行が社長個人の不動産に「根抵当権」を設定するようなケースはとくに、B銀行やC銀行とは疎遠になるといえるでしょう。根抵当権となると、過去から現在、さらには将来にわたる融資まで、A銀行は「保全」を効かせることができるからです ↓
こうなると、会社になにかあったときには、まずA銀行の回収が優先されてしまいますから、B銀行やC銀行が疎遠になるのはしかたのないことです。同じ理屈で、ほかの銀行と新規取引をはじめるのにも支障をきたす可能性があります。
このあたりも考慮して、特定の銀行に対してカンタンには担保提供しないようにしましょう。
いざというときの切り札がなくなる
会社にとって、担保はいざというときの「切り札」です。会社の「本質的」な返済力が「利益」であることは、さきほど話をしました。その利益がどうしても足りない、けれども、どうしてもいまおカネが必要だ。そのときの「切り札」になるものが担保です。
したがって、切り札はできる限り「温存」しておかなければいけません。ほんとうに困ったときに、担保を提供することで融資が受けられるように。そのときまでは、担保提供はしないことです。
ときおり、担保を提供しなければいけないほどではないのに、社長が個人資産を担保提供している会社があります。以前よりも業績が悪化したときなどに、銀行から「担保がないと融資ができません」と言われた… といったケースは少なくないようです。
が、前述したとおり、銀行が見るべき利益は「いま現在の利益」だけではありません。将来の利益もふくめて、目利きをするのが銀行の仕事。それなら、いま現在の利益だけを見て、担保提供を求めるなど銀行の怠慢ではないのか? とおもわれるのであれば、必ずしもそうではないでしょう。
なぜなら、銀行が目利きをできるだけの「材料」を、社長が提供していないケースも少なくないからです。
では、その材料とは? ひとことで言えば、「経営計画書」になります。いま現在の問題を特定し、その解決策を実行するための行動計画と、結果としての数値計画とをまとめる。その経営計画書によって、銀行は「将来の利益」を検討・評価しやすくなります。
逆に、なんの材料もなければ、銀行が目利きをできないのもムリはありません。
銀行から担保を求められても、カンタンには応じないことです。まずは、経営計画書をつくって、将来の利益について説明をしてみましょう。将来の利益に「蓋然性(高い実現可能性)」があれば、担保なしで融資を受けられることはあります。切り札は、温存しているからこそ切り札です。
まとめに代えて 〜社長個人の資産を銀行融資にどう役立てるか
ここまで、社長個人の資産を、担保提供するデメリットについてお話をしてきました。この点で、実は担保提供までしなくても、社長個人の資産からえられるメリットはある、というお話もしておきます。
そもそも、会社と社長とは「一体」だ、というのが銀行の見方です。事実、多くの中小企業においては、「大株主=社長」の状況にあります。このような状況下では、会社になにかあれば、社長が個人資産を投入するのは日常茶飯事です。
ゆえに、会社と社長とは一体と見て、社長に個人資産があれば、会社の資産と「合算」をして評価をする。という考え方が、銀行にはあります。その「合算」をするのに、担保提供は必要ありません。
もちろん、銀行からすれば担保提供してもらったほうがよいわけですが、担保提供せずとも「評価をしてもらうことはできる」という点は覚えておきましょう。
ただし、銀行が評価をするにも、社長個人の資産について「存在」がわからなければ、合算のしようがありません。そこで、社長がすべきは「個人資産のリスト」を銀行に提示することです。資産の種類や金額を一覧にまとめて、銀行に渡しましょう。
これによって、銀行からの評価が上がれば、担保提供をしなくても融資を受けられることもあります。会社の業績が悪いときにはとくに、「個人資産のリスト」を提示することを検討してみましょう。