会社が銀行融資を受けるなら、売上総利益は多いほどよい、との見方がありますが。実は、売上総利益は少ないほどよい、という見方もありますよ。というお話です。
多けりゃいい、というものでもない。
会社が融資を受けるときに、銀行からよく見られるものといえば「決算書」があります。さらに、その決算書のなかでもよく見られる数字のひとつが「売上総利益」です。
そもそも、決算書に掲載される「利益」はさまざまあります。損益計算書を上から順に見ていけば、「売上総利益」にはじまり、次いで「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」と並んでいます。
これらの利益について、ときおり耳にするのが「上にある利益ほど重要」というハナシです(異論もあるようですが)。つまり、売上総利益がいちばん重要だということになります。これは、上にある利益ほど、本業から生み出された利益としての「純度」が高いからです。
逆に、下にある利益ほど、純度の低い利益が混じります。たとえば、税引前当期純利益には、たまたま処分した有価証券の売却益、不動産の売却益などが含まれるのです。
それはそれとして、銀行から売上総利益が重視されるとした場合の「見方」として、「売上総利益は多いほどよいのか?」と聞かれたらどうでしょうか。「そりゃあ、多いほどよいだろう」とおもわれるかもしれませんが、実は「少ないほうがよい」というケースもある。
そんな話を、このあとしていきます。
販売管理費が同じなら売上総利益は多いほうがよい
はじめに、売上総利益は多いほうがよいケースを確認してみましょう。たとえば、次のような2つの会社があったとします↓
- A社 … 売上総利益 100、販売管理費 80、営業利益 20
- B社 … 売上総利益 90、販売管理費 80、営業利益 10
いちおう解説をしておくと、「売上総利益 ー 販売管理費 = 営業利益」という関係にあります。そのうえで、A社とB社を比較してみましょう。
まず、売上総利益はA社のほうがB社よりも 10多い。販売管理費は両社とも同じ。ゆえに、営業利益は売上総利益が多い分だけ、A社のほうがB社よりも 10多い、ということになります。
このように、「販売管理費が同じ」という前提であれば、売上総利益は多いほうがよい。営業利益(ひいては最終利益)が多くなるから、という見方に異論はないでしょう。
ここで気をつけたいのが、「販売管理費が同じ」という前提であり、前提が変われば結論は変わります。つまり、売上総利益は必ずしも多ければよいわけではありません。
そこで、次のケースを確認することにしましょう。
営業利益が同じなら売上総利益は少ないほうがよい
さきほどとは別のケースとして、次のような2つの会社があったとします↓
- C社 … 売上高 200、売上原価 100、売上総利益 100、販売管理費 80、営業利益 20
- D社 … 売上高 200、売上原価 150、売上総利益 50、販売管理費 30、営業利益 20
さきほどのケースよりも、扱う数字の数が増えました。売上高と売上原価です。これにより、「売上高 ー 売上原価 = 売上総利益」という関係が成り立っているのを確認しておきましょう。
売上総利益以降の関係(売上総利益 ー 販売管理費 = 営業利益)は、さきほどのケースといっしょです。
それではあらためて、C社とD社を比較してみます。売上高は両社ともに同じです。違うのは、次の売上原価。C社が 100に対して、D社は 150です。結果として、売上総利益には 50の差が出ます。
次の販売管理費は、C社が 80に対して、D社が 30です。ここでのポイントは、両社ともに「売上原価 + 販売管理費」が同じであること。つまり、費用の総額は両社ともに同じなのです。その結果、さいごの営業利益も両社ともに同じになります。
では、売上総利益が多いC社と、売上総利益が少ないD社と、どちらがよいのか? そりゃあ、やっぱり売上総利益が多いほうがよいでしょう。という見方もひとつです。
が、こんどは、「売上総利益が少ないほうがよいだろう」という見方もあります。どういうことかというと…
そもそも、売上原価とは「売上に応じて変動する費用」であり、「変動費」などと呼ばれます。売上が増えれば売上原価も増える、売上が減れば売上原価も減る。具体的には、商品仕入や外注費などをイメージするとわかるでしょう。
いっぽうで、販売管理費は「売上に関係なく生じる費用」であり、「固定費」などと呼ばれます。売上が増えようが減ろうが、金額に変わりはありません。たとえば、社員の給与や事務所家賃など。
では、もしも、不測の事態によって、C社とD社の売上が激減したとしたらどうでしょう? わかりやすいように、売上がゼロになったと仮定します。
C社は、固定費である販売管理費 80によって、営業利益は 80の赤字です(売上高、売上原価ともにゼロなので、売上総利益もゼロ)。いっぽうのD社は、販売管理費 30ですから、営業利益は 30の赤字で済みます。
というように、もともとは同じ売上高、同じ営業利益であった両社ですが、不測の事態における結果(事業リスク)には差があることがわかるでしょう。売上総利益が少ないD社のほうが、事業リスクを抑えられている、ということです。
そのD社について、もう少し具体的に見てみると。たとえば、人件費をアウトソーシングしているようなケースが考えられます。自社で雇用をしていれば、社員の払う給与は「販売管理費」です。これに対して、人を雇わずに外注していれば、その外注費は「売上原価」になります。
というように、固定費(販売管理費)を変動費(売上原価)に置き換えることで、売上減少時のリスクを減らすことができます。したがって、事業リスクという面からは、「売上総利益は少ないほうがよい」という見方もあるわけです。
だからなんだと言うのか?
ここまで、「売上総利益が多いほうがよい」というケースと、「売上総利益が少ないほうがよい」というケースについて確認をしてきました。結局、違った見方があるわけで、だからなんだと言うのか? と、おもわれたかもしれません。
だいじなことは、違った見方に沿って、自社の売上総利益について、銀行に「自社の考え方」を伝えることです。
銀行はよく、同業他社比較をしています。融資先は、同業他社と比べてどうなのか? ですから、会社も、同業他社比較の視点で、売上総利益について伝えられるとよいでしょう。
さきほどのA社とB社のケースであれば、A社は「売上総利益」の大きさをアピールできます。「ウチは、商品価値を高めることで、同業他社との差別化をはかっています。結果として、販売単価も高いので、売上総利益が多いのが強みです」といった具合でしょうか。
また、「売上総利益率(売上総利益 ÷ 売上高)」の面からアピールすることもできます。売上総利益が多く、売上総利益が同業他社より高いのであれば、商品価値が高いことの証になるからです。
では、C社とD社のケースはどうでしょう。D社は、「事業リスクの低さ」をアピールできます。「ウチは、アウトソーシングを進めることで、固定費の変動費化をはかっています。コロナのような事態がいつくるかわかりませんので、事業の継続可能性を高めているところです」などという伝え方ができます。
まずは、自社の数字と他社の数字とを比べてみる。売上総利益に関していえば、自社は他社と比べて多いのか少ないのか。そのうえで、それは自社の意図したことなのかどうか。意図したところであれば、それを銀行にアピールすればよく、意図したところでなければ、当然、改善をはかることになります。
なお、同業他社比較については、中小企業基盤整備機構の「経営自己診断システム」を利用するのもよいですし、銀行担当者に同業他社のようすを聞いてみるのもよいでしょう。
まとめ
会社が銀行融資を受けるなら、売上総利益は多いほどよい、との見方がありますが。実は、売上総利益は少ないほどよい、という見方もありますよ。というお話をしました。
その話を理解したうえで、自社の売上総利益について、銀行に伝えられるようにしましょう。伝えていなかったり、伝え方が不十分だと、「売上総利益は多いほどよい」との見方だけで評価されてしまう可能性があります。