いまは金融庁の意向もあって、経常運転資金は短期継続融資で借りる方向にシフトしつつあります。とはいえ、短期継続融資に消極的な会社もありますので。本記事では、会社が銀行から短期継続融資を受けるメリットについてお話をします。
経常運転資金は短期継続融資で借りる。
会社が銀行からおカネを借りるときの「借りかた」として、「短期継続融資」があります。当座貸越や手形貸付によって、返済期限が短期(1年以内)で、かつ、継続的に借り続ける融資です。
当座貸越であれば、銀行が決めた「限度額(極度額)」の範囲内で、会社が自由に借りたり返したりできます。結果、継続的に借り続けることが可能です。
いっぽう、手形貸付の場合には、返済期限には審査のうえで、事業の内容や業績に大きな変化がなければ期限が更新されます。結果、やはり、継続的に借り続けることが可能です。
この短期継続融資の「対象」は、いわゆる「経常運転資金」になります。算式でいうと、「売上債権 + 棚卸資産 ー 仕入債務」で計算される金額です。
以前は、経常運転資金を「毎月分割返済(証書貸付)」で借りるのが主流でしたが、いまは金融庁の意向もあって、「短期継続融資」にシフトしつつあります。
とはいえ、「銀行の貸し渋り・貸し剥がしにあったらどうするのか?」との不安から、短期継続融資には消極的な会社もあるようです。そこで本記事では、会社が銀行から短期継続融資を受けるメリットについてまとめてみます。
具体的には次のとおりです↓
- 利益がなくても返済できる
- 資金繰りがラクになる
- 貸借対照表が安定する
- 銀行との関係性が深まる
これらのメリットについて、このあと確認をしていきましょう。
会社が銀行から短期継続融資を受けるメリット
利益がなくても返済できる
借入金の返済原資は利益だ、というのはよく聞くハナシでしょう。とはいえ、銀行から借りたおカネを返すのに、必ずしも利益は必要ありません。短期継続融資こそが、その一例です。
では、短期継続融資の返済原資とはなにか? といえば。ずばり、売上代金です。
冒頭、短期継続融資の対象は「経常運転資金」だという話をしました。経常運転資金とは、「売上債権 + 棚卸資産 ー 仕入債務」であり、その金額分までは短期継続融資を受けられるということになります。
だとすれば、売上債権(売掛金や受取手形)を回収して、棚卸資産(在庫)を売却できれば、つまり、売上代金を回収できれば、短期継続融資分の返済はできることがわかるでしょう。
もちろん、それは理屈上の話であり、実際には事業をやめたときでなければ、すべての売上代金を回収することはできません。だからこそ、短期継続融資として貸しっぱなし(会社から見れば借りっぱなし)にするわけです。
また、銀行が貸しっぱなしにできるのは、「さいごは売上代金(売上債権・棚卸資産)を現金化すれば回収できる」と考えているからでもあります。
事業も山あり谷ありです。いつもいつも利益が出ているときばかりではないでしょう。利益がなくても返済できるというのは、利益がなくても借りられるということでもあります。これは、短期継続融資のメリットのひとつです。
資金繰りがラクになる
繰り返しになりますが、短期継続融資は借り続けることが可能な融資です。当座貸越であれば、返済をせずに借りたままにできます。手形貸付であれば、返済期限を更新することで借りたままにできます。
これに対して、毎月分割返済の約束で経常運転資金の融資を受けていた場合はどうでしょう? そもそも、経常運転資金とは、事業を続けている限り、会社が必要とするおカネです。
仮に、1,000万円の経常運転資金を必要とする会社が、1,000万円の融資を受けたとして。これを毎月分割返済していれば、当然、借りた 1,000万円のおカネは目減りしていきます。すると、必要な 1,000万円の経常運転資金を確保できなくなるので、資金繰りが厳しくなってしまうのが問題です。
ところが、短期継続融資であれば、毎月の返済はなく、借り続けることができるので、資金繰りが悪くなることはありません。よって、経常運転資金を短期継続融資で借りると、資金繰りがラクになるのはメリットです。
貸借対照表が安定する
貸借対照表の注目ポイントのひとつとして、「自己資本」が挙げられます。
貸借対照表を算式であらわすと、「資産 = 負債 + 自己資本」です。この算式から、資産は、負債(返さねばならないおカネ)か、あるいは、自己資本(返さなくてもよいおカネ)のいずれかで調達していることがわかるでしょう。
そのうえで、「返さなくてもよいおカネで調達しているほうが、貸借対照表は安定するよね」という見方で注目されるのが、自己資本ということになります。
では、銀行から受ける融資(銀行借入)はどうかというと。もちろん、「負債」です。たとえば、銀行借入をしてクルマを変えば、クルマという資産が増えるのと同時に、借入金という負債も増えます。
これに対して、短期継続融資はどうかというと。やはり借入金ですから、「会計上」は負債です。ところが、短期継続融資は借り続けることができることから「返さなくてもよいおカネ」だといえます。
だとすれば、短期継続融資は実質的には「自己資本」だといえるでしょう。結果、貸借対照表の安定に寄与します。なので、短期継続融資は、「疑似資本」などとも呼ばれるところです。
とはいえ、会計上は負債であることから、貸借対照表をハタから眺めるだけでは、短期継続融資の存在はわかりません。銀行(短期継続融資を受けている銀行以外の銀行)に対しては、あらためてアピールをするのがよいでしょう。
口頭で説明するのでもよし、加えて、勘定科目内訳明細書(借入金及び支払利子の内訳書)の「借入理由」の欄などに、経常運転資金分の短期継続融資であることを明記するのもおすすめです。
銀行との関係性が深まる
再三の繰り返しになりますが、短期継続融資は借り続けることが可能な融資です。銀行からすれば、貸しっぱなしの融資であり、回収不能リスクをともないます。
そこで、銀行が貸しっぱなしにするためには、継続的なモニタリングが必要です。短期継続融資をはじめた当初は、経常運転資金が 1,000万円でも、いまの経常運転資金は 800万円かもしれません。だとすれば、差額の 200万円については返済を求めるべきだといえます。
また、決算書や試算表に記載されている売掛金のなかには、回収できない売掛金(不良債権)が混じっているかもしれません。同じように、棚卸資産のなかには、売れない商品(不良在庫)が混じっている可能性もあります。
そういった不良債権や不良在庫があるのだとすれば、銀行はその分まで融資をするわけにはいきません。ましてや、貸しっぱなしにするなどもってのほかです。
なので、短期継続融資をするとなると、銀行は融資先に対する継続的なモニタリングが必要になります。結果として、銀行と会社とのコミュニケーションの機会が増え、関係性が深まるのはメリットです。
また、銀行が会社のことをより理解できるようにもなりますから、その後の融資・支援にも柔軟な対応を期待できます。
まとめ
いまは金融庁の意向もあって、経常運転資金は短期継続融資で借りる方向にシフトしつつあります。とはいえ、短期継続融資に消極的な会社もあるようです。
本記事でお話をした、会社が銀行から短期継続融資を受けるメリットを参考に、短期継続融資の積極的な利用を検討してみましょう。銀行からいかにして短期継続融資を引き出すかは、こちらの記事もどうぞ↓
- 利益がなくても返済できる
- 資金繰りがラクになる
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