財務改善は、業績が悪くなってから取り組むよりも、業績が良いときのほうが取り組みやすく、成果が出やすいものです。そこで、自社の業績が良いときにこそチャレンジしたい財務改善5選についてお話をしていきます。
業績が良いときには財務改善を考えない社長
自社の業績が良いとき、言い換えると、利益が出ているとき・おカネがあるときには、「あまり財務改善のことは考えない(というか、考えなくてすんでしまう)」という社長が少なくないようです。
ところが、自社の業績が良いときにこそ「できる財務改善・しやすい財務改善」があります。このチャンスを逃すと、のちに業績が悪くなってしまったときの「財務的な備え」が不十分になるのが問題です。
財務改善は、業績が悪くなってから取り組むよりも、業績が良いときのほうが取り組みやすく、成果が出やすいというメリットもあります。
ですから、業績が良いときにこそ財務改善にチャレンジすることを考えてみましょう。具体的には、次の5つです↓
- 値上げする
- 税金を納める
- もっとたくさん借りる
- もっと上手に借りる
- 取引銀行を開拓する
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
自社の業績が良いときにこそチャレンジしたい財務改善5選
値上げする
1つめの財務改善は、「値上げする」です。業績が良いときにこそ、自社の商品・サービスの値上げを検討してみましょう。
本来、値上げは「適時適切」に行いたいものですが、同業他社の価格や消費者の顔色を気にするあまり、値上げに踏み切れないまま、長年にわたって価格を据え置いている会社があります。
ところが、消費税率が上がったり、原材料コストが上がったりしているのであれば、少なくともその分の値上げをしなければ、会社はジリ貧です。また、経営努力によって付加価値が上がっているのであれば、その分の値上げをすべきところでもあります。
値上げによる一番のメリットは、利益率が上がることです。すると、これまでよりも少ない売上高で、これまでと同じ利益をえることができます。少ない売上高でもよいということは、少ない人手・少ない時間ですむということです。
空いた人手・空いた時間で、より付加価値を上げることができれば、さらなる値上げによって、いっそう利益率を上げることもできます。好循環です。
とはいえ、値上げによる「客離れ」が怖い…というのが社長の本音でしょう。実際に、ていどの差こそあれ客離れはあるものです。だったら、客離れによる売上・利益の減少を吸収しやすい、業績が良いときにこそ取り組むのがよいでしょう。
逆に、業績が悪くなってからの値上げには取り組みにくいものです。
税金を納める
2つめの財務改善は、「税金を納める」です。業績が良いときには、基本的に、納める税金が多くなります。会社が納める法人税は、利益の大きさに比例するものだからです。
すると、社長は「税金を減らしたい」と考えます。もちろん、税金をできるだけ減らすこと自体は悪くありませんが、減らしすぎるのは問題であり、減らし方にも気をつけなければいけません。
この点で、良くないのは「支払いを増やして税金を減らしすぎること」です。言い換えると、費用を増やすことで利益を減らして、税金を減らそうという考え方になります。
この場合、たしかに税金は減りますが、減った税金以上に「費用の支払い」が増えるため、最終的に手元に残るおカネは減ってしまうのが問題です。つまり、おカネが溜まりにくい。
また、利益を減らすわけですから、決算書の「純資産」の金額も少なくなります。もう少し具体的に言うと、純資産のなかにある「利益剰余金」という勘定科目の金額が少なくなるのです。
利益剰余金の金額が大きいほど、いわゆる「自己資本比率」は高くなり、財務の安全度が高まります。自己資本比率が高いということは、ちょっと業績が悪くなっても、財務の安全を維持しやすいということです。
逆に、税金を減らすために利益を減らすと、利益剰余金が少なくなります。すると、業績が悪くなったときには、「債務超過(純資産がマイナス)」になりやすいのが問題です。
節税も大事なことではありますが、自社の業績が良いときこそ、しっかり利益を出して財務の安全度を高めておくことを考えてみましょう。
もっとたくさん借りる
3つめの財務改善は、「もっとたくさん借りる」です。業績が良いときにこそ、銀行から融資を受けましょう、ということになります。
いやいや、業績が良いのに(おカネがあるのに)おカネを借りるなんておかしいだろう? と、おもわれるかもしれませんが。業績が良いときにこそ、おカネを借りるメリットもあります。
それは、「借入実績の最大化」です。ここで言う「借入実績」とは、銀行からいくらの額の融資を受けているか? をいいます。
銀行が融資をするときには、「過去の融資額」が重要であることを覚えておきましょう。たとえば、A銀行から過去に 3,000万円の融資を受けたことがあると、A銀行は「融資残高が3,000万円までなら貸してもいいかな」と考えます。
3,000万円の融資を受けたあと、返済が進み、融資残高が 2,000万円になったとして。このとき、A銀行は「(3,000万円との差額である)1,000万円なら貸してもいいかな」と考えるということです。
いっぽうで、この場面で 1,000万円を超える融資を受けようとすれば、難易度が高くなります。それでも、「過去の融資額」を超えて融資を受けるにはどうするか?
1つの方法が、自社の業績が良いときに融資の依頼をすることです。業績が良ければ、業績が悪いときに比べると、銀行は融資をしやすくなります。そこを狙うわけです。
もし、A銀行から 2,000万円の融資を受けて、融資残高を 4,000万円に増やすことができれば、以降は、その金額までの融資が受けやすくなります。結果として、業績が悪くなったときにでも、受けられる融資の額が増えるのはメリットです。
もっと上手に借りる
いましがた、「もっとたくさん借りる」という話をしました。似たような話として、「もっと上手に借りる」のも、業績が良いときにこそチャレンジしたい財務改善の1つです。
上手に借りるとは、自社にとっての融資条件を良くする、ということになります。融資条件とは、返済期間や金利、保証・担保の有無など、いろいろです。
返済期間は長いほうが良いですし、金利は低いほうがいい。保証や担保は無いほうがいい、と社長であれば考えることでしょう。
ところが、会社にとって有利な融資条件は、銀行にとっては不利な融資条件です。社長が黙っていて、融資条件が良くなることはありません。社長は、銀行交渉をしなければいけない、ということです。
その交渉を有利に進めるのに、業績が良いことが役立ちます。業績が良い会社ほど、多くの銀行が融資をしたいと集まりますから、銀行どうしを競わせることが可能です。
すると、交渉で有利な条件を引き出しやすくなるでしょう。
ところが、業績が悪くなってから、融資条件を改善しようとする社長が少なくありません。「資金繰りが厳しいから、金利は下げてほしい」と言われても、銀行は「だったら、むしろ金利を上げなければ貸せません」となってしまいます。
ですから、業績が良いときにこそ、融資条件の改善をはかりましょう。そのためには、あえて借りる(おカネが必要ではなくても)のも1つの考え方です。
取引銀行を開拓する
5つめの財務改善は、「取引銀行を開拓する」です。つまり、取引銀行の数を増やす、ということになります。
取引銀行の数はいくつが最適か?については、いろいろと意見もありますが。少なくとも、1つだけは危険ですし、会社の規模に応じて、あるていど数を増やしていくのがセオリーだといえます。
では、これまで取引がない銀行と、あらたに取引をはじめるのにはどうしたらよいか。自社の業績が良いときにこそ、取引をはじめることです。
逆に、業績が悪いときに取引をはじめようとしても、銀行から警戒されてしまいます。銀行は「ほかの銀行で借りられなくなったからウチに来たのではないか…?」と考えるからです。実際に、そういった動きをする社長も少なくありません。
こうなると、取引をはじめるのが難しくなってしまいます。ですから、自社の業績が良いときにこそ、取引銀行を開拓しておくのがよいでしょう。
銀行融資・銀行対応では、常に「先手」が大切です。業績が悪くなる前に先手を打つ。業績が良いときにこそ先手を打つことが、会社の維持・成長に役立ちます。
まとめ
財務改善は、業績が悪くなってから取り組むよりも、業績が良いときのほうが取り組みやすく、成果が出やすいものです。
本記事で取り上げた、自社の業績が良いときにこそチャレンジしたい財務改善について、タイミングを逃さずに取り組まれることをおすすめします。
- 値上げする
- 税金を納める
- もっとたくさん借りる
- もっと上手に借りる
- 取引銀行を開拓する