「自己資本比率が高い=財務的な安全度が高い」という一面もありますが、自己資本比率が悪化しても銀行から嫌われない会社はありますよ。という、お話をしていきます。
社長であれば聞いたことがあるハナシ。
会社の決算書に関する有名な財務指標の1つに、「自己資本比率」があります。「自己資本比率30%以上は、優良企業の証」といったハナシを、社長であれば聞いたことがあるのではないでしょうか。
たしかに、「自己資本比率が高い=財務的な安全度が高い」という一面もあります。が、いっぽうで、自己資本比率が悪化したからといって、必ずしも財務的な安全度が下がるわけではありません。
つまり、実際に財務的な安全度が下がると、「銀行からは嫌われる(=融資が受けにくくなる・受けられなくなる)」わけですが、自己資本比率が下がったとしても、必ずしも銀行から嫌われるわけではない、ということです。
この点で、自己資本比率が悪化しても銀行から嫌われない会社の特徴と、それでもやっぱり嫌われる会社の特徴について、お話をしていきます。
自己資本比率が悪化しても銀行から嫌われない会社の特徴
大きく2つの特徴があります。
借金もあるがおカネもある
自己資本比率が悪化しても銀行から嫌われない会社の特徴の1つめは、「借金もあるがおカネもある」です。
たとえば、資本金 1,000万円、預金残高 1,000万円の会社があったとしたら、自己資本比率は 100%になります。では、この会社が、銀行から 9,000万円の借入をしたらどうでしょう?
自己資本比率は、10%にまで下がります(自己資本 1,000万円 ÷ 総資本1億円)。これを見た社長は、「マズい!財務的に危険すぎる…」と考えるでしょうか? 考えませんよね。
なぜなら、9,000万円の借入をすると同時に、9,000万円の預金残高も増えているからです。借金があっても同額のおカネがあれば、その借金は無いのと一緒だと言えます。
ですから、「銀行から借入をした瞬間」で見ると、たとえ自己資本比率が下がったとしても、本質的には、財務的な安全度が下がったとは言えません。銀行も同じように考えるからこそ、会社におカネを貸すわけです。
では、本質的に、財務的な安全度が下がるとはどういうときか? それは、「借りたおカネを使ってしまったとき」です。
さきほどの例で言えば、借りた 9,000万円が赤字の補てんに使われて、預金残高がどんどん減っていく… みたいな。あるいは、借りたおカネで設備投資をしたものの、投資による効果(利益アップ)がほとんどあがっていないとか。
こうした状況であれば、さすがに銀行からも嫌われます。ですが、前述したとおり「銀行から借入をした瞬間」で見ると、自己資本比率が下がったからといって嫌われることはないでしょう。
この点で、社長が気をつけたいのが「繰り上げ返済」です。繰り上げ返済をすれば、借入残高が減って、自己資本比率が上がる。ゆえに、銀行から好まれると考える社長がいます。
さきほどの会社が、借入をすべて繰り上げ返済をしたとしたらどうでしょう。自己資本比率はたしかに上がりますが、預金残高は 1,000万円になってしまいます。これについて、「預金1億円あったほうが、いざというときにも安心なのに」というのは銀行の見方です。
極端な例ではありますが、繰り上げ返済の金額のいかんにかかわらず、考え方に変わりはありません。繰り上げ返済によって、たしかに自己資本比率は上がるけれど、預金残高が減った分だけ資金繰りの余裕は減る、ということです。
したがって、繰り上げ返済をしても充分なだけの預金残高がある場合を除いて、繰り上げ返済は慎重に考えるようにしましょう。かえって、銀行からの融資が受けにくくなることもありえます。
きちんと利益が出ている
自己資本比率が悪化しても銀行から嫌われない会社の特徴の2つめは、「きちんと利益が出ている」です。
さきほど、借金があってもおカネがあれば、その借金は無いのと一緒だという話をしました。とはいえ、そういった会社でも「赤字続き」だとしたらどうでしょう?
赤字が続けば、借りたおカネは赤字の補てんに使われることになります。さらに赤字が続けば、借りたおカネの返済もできなくなるでしょう。そうなると銀行も困ってしまいます。
ですから、いくらおカネがある(預金残高が多い)とは言っても、きちんと利益が出ているに越したことはありません。事業には波があるものですから、ときには赤字に陥ることもあるでしょう。
それでも「トータルで見れば黒字かどうか、トータルで見てきちんと利益が出ているかどうか」というのは、銀行の関心事でもあります。
では、「トータルで見る」とはどういうことなのか? 貸借対照表の「純資産の部」のなかにある「利益剰余金」の金額を見て、判断することになります。
利益剰余金とは、平たく言えば、「開業から現在までの税引後利益の累計額」です。したがって、利益剰余金の金額を見れば、トータルで黒字か・トータルできちんと利益が出ているかはわかります。
さらに言うと、「利益剰余金 ÷ 現在の期数」を計算することで、平均的な年間利益をイメージすることも可能です。実際に、銀行もそのような見方をしています。
この点で、社長が「節税ばかり」を考えて、あえて利益を減らすようなことをしていると、利益剰余金の金額も減ることを覚えておきましょう。
なお、利益剰余金は「純資産の部(自己資本)」を構成する勘定科目の1つであり、利益剰余金が増えるということは、自己資本比率が上がることを意味しています。
自己資本比率を上げる方法というと、「負債を減らす(繰り上げ返済)」ことを考える社長は少なくありませんが、それよりも「利益剰余金を増やす(きちんと利益を出す)」ほうが本質です。
あえて利益を減らすような方法で節税をしつつ、繰り上げ返済をするというのは、かなり危険な財務対応であることも理解しておきましょう。
それでもやっぱり嫌われる会社の特徴
ここまで、「自己資本比率が悪化しても、必ずしも銀行から嫌われるわけではない」という話をしてきました。
ところが、それでもやっぱり嫌われる会社もありますので、そういった会社の特徴も確認しておきましょう。結論として、「自己資本比率が 10%を割り込む」ような会社は、銀行から嫌われる傾向があります。
言い換えると、自己資本比率が 10%を割り込む(1ケタになる)と、銀行からの融資がいっそう受けにくくなるということです。このとき、たとえおカネがあったとしても、利益が出ていたとしてもです。
ではなぜ、自己資本比率 10%が「境」になるのかというと、銀行も参照している企業の統計データを見ると、自己資本比率 10%を境に、倒産確率が顕著に上昇することがわかっているからです。債務超過(自己資本比率がマイナス)ともなれば、とくにです。
銀行が融資の可否を判断する際には、統計データも参考にしています。統計的に問題がある数字に対しては、銀行の反応がネガティブになることは覚えておきましょう。
そういう意味では、社長も同業他社比較をして、自社の水準を確認しておくのがおすすめです。具体的には、中小企業基盤整備機構が提供しているWEBサービス「経営自己診断システム」を利用したり、銀行担当者に教えてもらうのもよいでしょう。
まとめ
「自己資本比率が高い=財務的な安全度が高い」という一面もありますが、自己資本比率が悪化しても銀行から嫌われない会社はありますよ。という、お話をしてきました。
自己資本比率を高めることばかりを考えていると、銀行融資や資金繰りに関して「見当違い」を起こしてしまう可能性がありますので気をつけましょう。
「自己資本比率が高い=財務的な安全度が高い」というのは、ものごとの一面に過ぎません。