融資を申し込んだ銀行から、いろいろと追加資料を求められる… これは、融資をあきらめさせるためなのか? もう、脈なしなのか? ということについて、お話をしていきます。
結論、脈なしとも限らない。
銀行融資に関する「ウワサ話」は、いろいろとありますが。そのなかの1つが、「銀行から追加資料を求められたら脈なし」というものです。
つまり、銀行に融資の申込みをするにあたって、あれやこれやと追加で資料を求められる… これは、銀行が融資をあきらめさせるために無理難題を押し付けているのではないか? みたいな。
結論として、たしかにその可能性もありますが、それだけでもありません。逆に、融資をするために追加資料を求めている、もっと積極的に支援をしたいから追加資料を求めているというケースもあります。
ですから、追加資料を求められたからといって、脈なしとは限りません。この点について、会社が取るべき銀行対応もふまえて確認をしていきましょう。
銀行はクレームを恐れている
繰り返しになりますが、銀行から追加資料を求められるのは「会社に融資をあきらめさせるため」という可能性はあります。が、ケースとしてはあまり多くはないでしょう。
なぜなら、銀行員は「クレーム」を恐れるものだからです。
たとえば、業績が悪すぎて、とても融資ができそうにない会社があったとします。それでも、融資を申し込まれた銀行は、会社にあきらめさせるために、あれやこれやと追加資料を求めました。
なんとしてでも融資を受けたい会社は、がんばって資料を提出。とはいえ、銀行はハナから融資をするつもりはありませんから、審査をしている素振りを見せつつ、最終的にはお断りをします。
この結果、社長は「あんなにがんばって資料を出したのに、いったいなんだったんだっ!」と怒り出すことはありうるでしょう。こうしてトラブルになると、減点主義で評価される銀行員にとっては「マイナス」です。トラブルは、銀行内の人事評価上、マイナス評価になってしまいます。
ゆえに、銀行員はクレームを恐れているものですから、いたずらに追加資料を求めるケースは少ないものと考えてよいでしょう。実際に、そのような話を、銀行員の方から聞いたこともあります。
似たようなこととして、「融資ができる見込みもないのに、審査をしているフリをするために、なかなか返事をしない」というハナシがあります。つまり、返事が遅いのは脈なしだと。
たしかに、そういうケースもゼロではないでしょう。ですが、銀行員はクレームを恐れるものです。時間をかけた挙げ句、結局は「貸せません」となれば、やはり社長が怒り出す可能性があります。
なので、「融資ができないときほど、早く審査結果を回答するようにしている」というのも、銀行員の方から聞いたことがある話です。
以上から、追加資料を求められたり、審査に時間がかかったりするからといって、必ずしも「脈なし」というわけではことを理解しておきましょう。
銀行員も忙しく、同時に複数の融資案件を抱えているため、優先順位によっては「後回し」にされてしまうことはあります。後回しにされすぎることがないように、融資の申込みをするときには、銀行担当者と相談をして、「回答期限」を約束するのがおすすめです。
決裁者や信用保証協会のせい、もある
銀行融資の相談をお受けしていると、「銀行は、あとからあとから追加資料を求めてくる… いちどに言ってくれればいいのに」というハナシをうかがいます。
銀行担当者の「能力」や「経験」の不足などによって、追加資料が発生することはありえますから、銀行担当者の「要領が悪い」のは原因の1つだと言ってよいでしょう。
ただし、それだけというわけでもありません。ご存知のとおり、融資の可否を決めるのは銀行担当者ではなく、融資課長や支店長、あるいは本部といった「決裁者」です。
したがって、決裁者が決裁をするにあたって、追加資料の準備を銀行担当者に求めることがあります。
また、信用保証協会の保証付き融資であれば、銀行に加えて、信用保証協会の審査が必要です。そこで、銀行はよくても、信用保証協会が追加資料を求めることはあります。
これにより、銀行担当者を通じて、追加資料を求められるケースはあるわけです。だとすれば、必ずしも、銀行担当者の「要領が悪い」とばかりも言い切れません。
脈なしかどうかの話とは違いますが、追加資料に関連する話として覚えておくとよいでしょう。
いまは事業性評価の流れがある
話を戻して、銀行から追加資料を求められたら脈なしなのか? について。
冒頭、「融資をするために追加資料を求めている、もっと積極的に支援をしたいから追加資料を求めているというケースもある」と言いました。なので、むしろ脈あり、というケースもあるのです。
たとえば、経営計画書。以前であれば、業績が悪い会社が求められることが多かった資料です。ところがいまは、業績が良い会社でも経営計画書を求められることがあります。
だからといって、経営計画書がなければ、業績が良い会社も融資を受けられない… というわけではありません。そうではなく、より積極的に支援をすべき会社かどうかを見極めるために、銀行は「経営計画書を見たい」と考えています。
その経営計画書には、決算書(あるいは試算表)にはない情報がいっぱいです。たとえば、経営方針や経営戦略(事業領域)、現状分析や経営課題、行動計画・数値計画など。これらの情報によって、銀行は「事業の内容」や「事業の将来性」をより深く知ることができます。
そのうえで、「この会社は将来性あり!」と見れば、中長期の視点で、積極的に支援をしようと考えるのが銀行です。であるならば、会社は求められた資料を提示したほうがよいでしょう。これは、経営計画書に限りません。
銀行はいま、融資先の「事業の内容」や「事業の将来性」に関する情報を欲しがっています。「事業性評価」という流れがあるからです。
事業性評価とは、「決算書の良し悪しや、担保・保証の有無に依存せず、事業の内容や将来性を評価しよう」という考え方であり、金融庁が銀行に対して求めている考え方でもあります。ゆえに、銀行は「事業性評価に取り組まざるをえない状況」です。
いっぽうで、事業性評価をするためには、いままでのように決算書を見ていればよい、というわけにはいきません。事業性評価に必要な情報を提供してくれる会社、提供できる会社が、銀行から好まれやすくなる、ということが増えていくでしょう。
もちろん、銀行員のほうから、社長のヒアリングしたり、会社・商品を観察することで事業性評価を進めることは可能です。けれども、銀行員も忙しいのであり、優先順位があります。
必要な情報を積極的かつ正確に提供してくれる会社を好むようになるのは、自然の流れです。実際に、情報を提供できない会社・情報を提供したがらない会社とは距離を置く、という現象は起き始めています。
以上をふまえて、追加資料を求められたときには「脈なし」と考えるのではなく、逆に「脈あり」と考えるようにしてみましょう。業績が良いとき・悪くないときに、銀行から追加資料を求められたときにはとくに、です。
その銀行と「中長期的に、安定的に、良好な関係」を築くチャンスになります。
ちなみに、業績が悪いときに追加資料を求められるのは、銀行は「なんとかして融資ができないだろうか?」と思案をしているあらわれかもしれません。銀行員がクレームを嫌うことは前述しました。そもそも貸せる見込みもないのに、思わせぶりな対応はしないものです。
まとめ
融資を申し込んだ銀行から、いろいろと追加資料を求められる… これは、融資をあきらめさせるためなのか? もう、脈なしなのか? という考え方もありますが。
必ずしも脈なし、というわけでもありません。場合によっては、むしろ「融資をするために追加資料を求めている、もっと積極的に支援をしたいから追加資料を求めているというケース」もあることを理解しておきましょう。