銀行がよく見ている決算書について。銀行的な視点で、「良い会社」の目安になる財務指標とは?を確認していきます。業績改善のポイントとして、押さえておきましょう。
いったいどれを見ればよいのかがわからない。
銀行が融資の可否を検討するときには、決算書をよく見ているというのは有名なハナシです。その決算書について、業績の善し悪しをはかる基準として利用されるのが「財務指標」です。
とはいえ、ひとくちに「財務指標」と言っても、たくさんの指標があるために「いったいどれを見ればよいのかがわからない…」と嘆かれる社長が少なくありません。
そこで本記事では、銀行的な視点から「良い会社」の目安になる財務指標を取り上げてみることにします。具体的にはこちらです↓
- 自己資本比率
- 純資産倍率
- 使用総資本事業利益率
- インタレスト・カバレッジ・レシオ
これらの指標がなぜ、良い会社の目安になるのか? また、それぞれの指標をどのように見ればよいのか、考えればよいのか? さらには、どうしたら各指標をよくすることができるのか?
このあと確認をしていきましょう。
それらの財務指標が目安になる理由
はじめにまず、さきほど挙げた財務指標が、銀行的に「良い会社」の目安になる理由をお話しておきます。
自己資本比率、純資産倍率、使用総資本事業利益率、インタレスト・カバレッジ・レシオという4つの指標は、「特定社債保証制度」という融資制度において、要件として取り上げられている財務指標です。
その特定社債保証制度とは、中小企業が社債(私募債)を発行するにあたって、信用保証協会と銀行が共同で保証をおこなう制度をいいます。
とはいえ、どんな会社にでも保証をおこなうわけにもいきませんので、優良企業・成長企業の評価基準として「一定の基準」を設けている。その基準になるものが、前述した4つの指標です。
したがって、特定社債保証制度の要件を満たすことは、同制度を利用するか否かにかかわらず「良い会社の証になる」と言ってよいでしょう。
というわけで、このあと、それぞれの指標について確認をしていきます。
銀行的に「良い会社」の目安になる財務指標
特定社債保証制度では、「純資産(自己資本)」の規模によって、3つの基準がもうけられています。「5,000万円以上3億円未満」「3億円以上5億円未満」「5億円以上」の3つです。
ここでは、多くの中小企業があてはまるであろう「5,000万円以上3億円未満」を前提にします。
自己資本比率
1つめの財務指標は「自己資本比率」です。これは、メジャーな財務指標であることから、知っている社長も多いことでしょう。
念のため算式を確認すると、「自己資本比率 = 純資産の額 ÷(純資産の額 + 負債の額)」です。つまり、「総資本(純資産の額 + 負債の額)」に占める純資産の割合をいいます。
自己資本比率は高いほど、財務安全性が高いと言われますが、特定社債保証制度では「20%以上」を要件としている点に注目です。つまり、自己資本比率が 20%くらいあると、銀行や信用保証協会から「良い会社」だと見られやすい、ということになります。
なお、自己資本比率を改善しようと「繰り上げ返済」を考える場合には注意です。実際に計算してみるとわかりますが、それほど顕著に改善するわけではありません。
いっぽうで、繰り上げ返済によって「預金残高」は大きく減少するのが問題です。銀行は、預金残高が少ない会社を嫌います。自己資本比率が上がっても、預金残高が少なくなると、むしろ融資が受けにくくなることは理解しておきましょう。
この点で、預金残高はどんなに少なくても、「平均月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)の1ヶ月分」を維持することをおすすめします。それ未満となると、「自転車操業の危ない会社」というのが銀行の見方です。
純資産倍率
2つめの財務指標は「純資産倍率」です。あまり、聞いたことがない指標かもしれません。算式であらわすと「純資産倍率 = 純資産の額 ÷ 資本金」になります。
つまるところ、資本金(出資)を元手に、どれだけ内部留保(おもに利益剰余金)を増やすことができたか? の指標です。その純資産倍率が「2倍以上」というのが、特定社債保証制度の要件になります。
では、純資産倍率を上げるにはどうしたらよいのか。内部留保を増やすことであり、内部留保を増やすためには、毎年利益を出して積み上げることです。
とはいえ、利益を出せば「税金が増える…」ということで、社長が利益を嫌い、内部留保を増やすことができない会社があります。そういう会社は銀行から好まれないということが、純資産倍率を見ているとわかるでしょう。
なお、特定社債保証制度では、さきほどの「自己資本比率 20%以上」と、「純資産倍率2倍以上」のどちらかを満たせばよい、とされています。
自己資本比率にしても純資産倍率にしても、カギになるのは「内部留保(利益剰余金)」です。しっかりと利益を出して、内部留保を積み上げること。その際、税金を嫌いすぎて、「内部留保がほとんどない…」ということがないように気をつけましょう。
使用総資本事業利益率
3つめの財務指標は「使用総資本事業利益率」です。これまた、聞き慣れない指標かもしれません。算式であらわすと「使用総資本事業利益率 = (営業利益 + 受取利息・受取配当金)÷ 資産の額」です。
というわけで、「使用総資本(資産)」に対する「事業利益(営業利益 + 受取利息・受取配当金)」の割合になります。これは、いわゆる「ROA(総資産利益率)」です。
その使用総資本事業利益率について、特定社債保証制度では「10%以上」を求めています。業種・業態にもよりますが、これは「かなりの難易度」だというのが私見です。
特定社債保証制度では「10%以上」とは、イメージすると、営業利益率(営業利益 ÷ 売上高)が10%以上ということであり、中小企業にとっては「高いハードル」だと言えるでしょう。
では、どうしたら「使用総資本事業利益率」を改善することができるのか。1つは、資産をできるだけ「コンパクト」にすることです。逆に、ムダな資産を持てば持つほど、使用総資本事業利益率は悪化します。
ここで言う「ムダな資産」とは、利益を生み出すことができない資産です。利益(算式の分子)がなく、資産(算式の分母)だけが増えると、当然、使用総資本事業利益率は悪化します。
これに対して、利益を生み出すことができる資産であれば、資産(算式の分母)も増えますが、利益(算式の分子)も増えるので、使用総資本事業利益率を改善することが可能です。
というわけで、貸借対照表の資産を「あらためて精査」してみるのがよいでしょう。
インタレスト・カバレッジ・レシオ
4つめの財務指標は「インタレスト・カバレッジ・レシオ」です。これに関しては、なんか聞いたことがあるけれど「算式はどんなんだったっけ…?」という社長が多いのではないでしょうか。
算式は、「(営業利益 + 受取利息・受取配当金)÷ (支払利息・割引料)」です。と言われても、なんのこっちゃ? と、おもわれるかもしれませんが。
要は、営業利益が支払利息の何倍あるか? です。
そもそも「営業利益」とは、損益計算書に記載されるいくつかの利益(売上総利益、経常利益など)のなかでも、会社の「本業の収益力」をあらわす利益を言います。
なお、借入に対する利息は、本業の収益力である「営業利益」から払うものです。だとすれば、「営業利益 > 支払利息」であるべき、と言えるでしょう。
逆に、「営業利益 < 支払利息」となると、本業の収益力に見合わないほど借入をしすぎている、と考えることになります。
たとえば、営業利益が 500万円、支払利息が 500万円という場合、「営業利益 = 支払利息」ですからギリギリです。営業利益で利息がギリギリ払える状態です。
このギリギリ状態が、インタレスト・カバレッジ・レシオで言うと「1倍」になります(営業利益 500万円 ÷ 支払利息 500万円)。
そのうえで、特定社債保証制度は、インタレスト・カバレッジ・レシオについて「2倍以上」を求めています。営業利益 500万円であれば、支払利息は 250万円以下、ということです。
そのインタレスト・カバレッジ・レシオを良くするためには、ずばり「営業利益を増やす」こと。算式だけを見ていると「支払利息を減らせばいい」とも考えられますが、それには借入金を減らさなければいけません。
ですが、いまある借入金を減らすこともカンタンではなく、繰り上げ返済をすれば資金繰りが悪化してしまうことがあるのは前述したとおりです。なので、インタレスト・カバレッジ・レシオを改善するなら「営業利益を増やすこと」だと覚えておきましょう。
ちなみに、特定社債保証制度では、さきほどの「使用総資本事業利益率 10%以上」と、「インタレスト・カバレッジ・レシオ2倍以上」のどちらかを満たせばよい、とされています。
まとめ
銀行がよく見ている決算書について。銀行的な視点で、「良い会社」の目安になる財務指標とは?を確認しました。
それらの指標がなぜ、良い会社の目安になるのか? また、それぞれの指標をどのように見ればよいのか、考えればよいのか? さらには、どうしたら各指標をよくすることができるのか? を押さえておきましょう。
業績改善のポイントになるはずです。
- 自己資本比率
- 純資産倍率
- 使用総資本事業利益率
- インタレスト・カバレッジ・レシオ