決算書の預金残高が多いと銀行融資が受けやすい、というハナシがありますが。多い「だけ」では不十分です。その理由についてお話をしていきます。
預金残高が多いに越したことはないけれど。
銀行融資について、社長はこんなハナシを聞いたことがあるかもしれません。「決算書の預金残高が多いと融資が受けやすい」というハナシです。
かく言うわたしも、ときおりそんなことをお伝えしています。が、決算書の預金残高が多い「だけ」では不十分です。多いに越したことはありませんが、それだけではない。その理由は次のとおりです↓
- 銀行にとって重要なのは内訳だから
- リアルタイムの数字ではないから
- 預金平残が大事だから
それではこのあと、順番に確認していきましょう。これらを見落としていると、銀行融資が受けにくくなってしまうことがありますから注意が必要です。
決算書の預金残高が多いだけでは銀行融資に不十分な理由
銀行にとって重要なのは内訳だから
決算書の預金残高が多いと融資が受けやすくなるのは、預金があれば、返済できなくなる可能性が低いと考えられるからです。
たとえば、決算書に 1,000万円の借入金が記載されていても、1,000万円の預金も記載されていれば、その会社は「いつでも完済できる」と見ることができます。
では、借入金の内訳がA銀行 500万円、B銀行 500万円、預金の内訳がA銀行 900万円、B銀行 100万円だとしたらどうでしょう? B銀行としては不安(あるいは不満)になりますよね。
預金を担保のようなものだと考えれば、A銀行は完済してもらえそうですが、B銀行は完済してもらえるかわからないからです。なので、銀行は「預金の内訳」に注目しています。
ところが、決算書に内訳を記載しているケースはまれでしょう。そこで銀行は、決算書に付随する「勘定科目内訳明細書」を見て、預金の内訳を確認しています。
ですから、社長もまた「勘定科目内訳明細書」を見て、預金の内訳を確認しておきましょう。理想は、借入金の内訳(の割合)に合わせて、預金の内訳も合っている状態です。
さきほどの例で言えば、借入金の内訳は、A銀行・B銀行ともに 50%ずつですから、預金の内訳も、A銀行・B銀行ともに 50%ずつ(500万円ずつ)が望ましい、ということになります。
とはいえ、勘定科目内訳明細書(決算書)ができあがってからではどうしようもありませんので、決算日を迎える前に、預金の内訳を調整しておきたいところです。
預金残高は多ければよいわけではありません。その預金を、どの銀行にあずけるかが重要であることを覚えておきましょう。あずけ先を間違えると、銀行融資が受けにくくなってしまいます。
さきほどの例で言えば、B銀行からは融資が受けにくくなってしまうでしょう。
リアルタイムの数字ではないから
決算書の預金残高は、リアルタイムの数字ではありません。あくまで、決算日現在の数字であり、極端を言えば、決算日時点は 1,000万円でも、いまはたったの 100万円かもしれません。
もちろん、銀行が「より重視」するのは、リアルタイムの預金残高です。リアルタイムの数字というと、「試算表」を思い浮かべることでしょう。
たしかに、試算表は「決算書に比べると」リアルタイムに近いのですが、どれだけリアルタイムに近いかは、その会社が「どれだけタイムリーに試算表をつくっているか」によります。
この点で、月明け3日めには試算表をしあげている会社もあれば、半年遅れでつくっている会社もあるのが実情です。さらに言えば、試算表をつくっていない会社さえあります。
それはさておき。つまるところ、試算表もまた「完全なリアルタイム」とは言い切れない、というのが銀行の見方です。
それでもなお、「自社はできるかぎり、リアルタイムで数字を把握することを重視しているんだ!」との意思表示として、試算表を早くしあげること。それを、銀行に伝える(毎月、試算表を提示する)のがよいでしょう。
ちなみに、銀行が「ほんとうに知りたい預金残高」とは、リアルタイムの残高ではありません。ほんとうに知りたいのは、「未来の残高」です。
なんだそれ? と、おもわれるかもしれませんが。具体的には、「資金繰り予定表」になります。資金繰り予定表をつくっていれば、その会社は「未来の預金残高」を示すことが可能です。
もちろん、予定は未定ですから、そのとおりになるかどうかはわかりません。
ただそれでも、資金繰り予定表をつくっていない会社に比べれば、資金繰り予定表をつくっている会社のほうが、銀行は信頼するものです。資金繰り予定表は、社長の管理意識・管理能力のあらわれでもあるからですね。
というわけで、決算書だけではなく、試算表や資金繰り予定表も銀行に提示できるようにしましょう。
預金平残が大事だから
決算書の預金残高を考えて、決算日までに各銀行の預金残高を調整しましょう、と前述しました。
ではもしも、決算日の直前だけ、ある銀行の預金残高を増やして、決算日が過ぎるとまた減らしているような場合はどうでしょう? 当然、その銀行はおもしろくありませんよね。
銀行は、自行の口座については「預金平残(よきんへいざん)」というものを確認しています。
預金平残とは、「1ヶ月間の毎日の預金残高を合計して、それを日数で割った金額」です。つまり、預金の平均的な残高が、預金平残になります。
その預金平残を銀行は確認していることから、決算日の直前だけ預金残高を増やすような「小手先の手段」は見抜かれてしまうことは覚えておきましょう。
そこで社長は、銀行ごとの日々の預金残高を「折れ線グラフ」にしておくと、預金平残をイメージしやすくなります。会計ソフトから、CSVデータを出力して、Excelで加工してみましょう。
預金残高は日々変動しているわけですが、残高が多いときもあれば、おもいのほか少ないときもあることに気づくはずです。少ないところを底上げできれば、預金平残を引き上げることができます。
というように、社長もまた「銀行と同じ視点」を持つようにしてみましょう。銀行融資の受けやすさにつながります。
まとめ
決算書の預金残高が多いと銀行融資が受けやすい、というハナシがありますが。多い「だけ」では不十分です。その理由についてお話をしてきました。
銀行融資の受けやすさにかかわるところですから、内容を押さえておきましょう。
- 銀行にとって重要なのは内訳だから
- リアルタイムの数字ではないから
- 預金平残が大事だから