融資を受けている会社が、銀行に提出する決算書。銀行は、その決算書から何を読み取ろうとしているのか? を理解しておきましょう。社長の銀行対応に役立ちます。
社長には関係ない、なんてことはない。
融資を受けている会社は、毎年決算がおわると、銀行から「決算書(のコピー)の提出」を求められます。
これは、銀行が決算書を「融資先の評価材料」と見ているからですが。その決算書から、具体的に何を読み取ろうとしているのか?
そんなことは、銀行が考えるべきことであって「社長には関係ない」かというと、そうでもありません。銀行の視点を理解することは、社長の銀行対応に役立ちます。
結果として、融資の受けやすさにもつながるところですから、ぜひ押さえておきましょう。あらためて、銀行は決算書から何を読み取ろうとしているのか? 次のとおりです↓
- 返済可能性
- 粉飾の有無
- 資金使途違反の有無
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
銀行は決算書から何を読み取ろうとしているのか?
返済可能性
銀行がまず、決算書から読み取ろうとしているのは「返済可能性」です。つまり、貸したおカネを返してもらうことはできそうか? もちろん、返してもらえそうもなければ一大事です。
では、返済可能性をどのように読み取るのか? ひとことで言えば、「返済財源があるかどうか」です。返済財源にもいろいろありますが、大きく括れば「利益」と「資産」になるでしょう。
利益が出ているほど、おカネが増えますから、それだけ返済可能性は高まります。また、資産があるほど、現金化して返済に充てられますから、やはり返済可能性は高まります。なお、現預金は銀行が考える、「もっとも確実」な返済財源です。
逆に、利益が出ていない・資産がないということになると、返済可能性は低くなるため、銀行にとっては「要注意の融資先」になります。
したがって、社長は自社の決算書を見て、「利益はじゅうぶんか・資産はじゅうぶんか」を確認しておくようにしましょう。資産のなかでもとくに、「現預金はじゅうぶんか」には注目です。
現預金の残高が、平均月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)の1ヶ月未満となると、銀行融資は極端に受けにくくなる傾向があります。銀行が、返済可能性に強い不安を感じるからです。
ではもしも、いま現在すでに赤字だったり、現預金が少ない会社はどうすればよいのか? 将来の利益や現預金について、可視化できるようにしましょう。
将来の利益については、経営計画書を作成して「利益が増える」ことを銀行に説明する。将来の現預金については、資金繰り予定表を作成して「現預金が増える」ことを銀行に説明します。
ただし、計画や予定は「過去の実績」のうえに成り立つものです。いくら計画や予定がすばらしくても、過去(=決算書)が悪いと、その計画や予定の信頼度は下がってしまいます。
だからこそ、決算書がだいじなのであり、決算書の利益や資産(とくに現預金)が重要になるのです。社長は、「銀行にとっての返済可能性とは何か?」を理解しておきましょう。
利益を減らす節税や、現預金を減らす繰り上げ返済などは、返済可能性を下げる行為であることがわかるはずです。
粉飾の有無
さきほど、銀行は決算書の「利益」と「資産」に注目している、という話をしました。
では、その利益や資産が、事実とは異なるかたちで「水増し」されているとしたらどうでしょうか? いわゆる、粉飾決算です。
当然、返済可能性が高いとは言えませんよね。どれだけ利益や資産が多いとしても、それらが水増しされているものであれば、返済財源としてアテにすることはできないからです。
というわけで、銀行は決算書から「粉飾の有無」も読み取ろうとしています。
この点で、「どうせバレやしないだろう」とタカをくくっている社長はいるものです。ところが、ほとんどすべての粉飾はバレている、あるいは、いずれバレるものだといえます。
いちどの粉飾ではバレにくくても、2度3度となると、決算書の「歪み」は大きくなることを覚えておきましょう。たとえば、架空売上の計上を続ければ、架空債権(売掛金)が増え続けるため、「異常値」としてあらわれます。
これを聞いて、「粉飾は今回だけだから」とおもわれるかもしれませんが。粉飾に限らず、いちど悪事に手を染めると、「もういちどくらいは大丈夫だろう」と大胆になってしまうのがヒトです。
なので、粉飾は「いちどやったらおしまい」だと考えておきましょう。
また、銀行は粉飾に気がついても、基本的には黙っているものです。粉飾を指摘して、社長に逆ギレされても困りますから、黙って「融資を回収する(新規の融資をしない)」ことを選びます。
銀行からなにも言われていないから、粉飾がバレていないと考えている社長もいるようですが、そうとも言い切れないのです。むしろバレているけど、銀行が黙っているだけかもしれません。
なお、銀行にとっての粉飾と、社長にとっての粉飾には「ギャップ」が生じるケースもあります。社長が粉飾だとはおもっていなくても、銀行は粉飾と見ているというケースです。
わたしはこれを「悪意なき粉飾・自覚なき粉飾」と呼んでいます。たとえば、貸倒引当金を計上しないとか、減価償却費を法定限度額まで償却しないとか、買掛金・未払金の計上をしないとか。
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資金使途違反の有無
ここまでの話に加えて、もうひとつ。銀行が決算書から読み取ろうとしていることがあります。それは、「資金使途違反の有無」です。
融資を受ける会社のなかには、当初は「設備資金(設備を購入するためのおカネ)」を資金使途として借りておきながら、実際には「運転資金(仕入代金や経費の支払いなど)」に充ててしまう会社があります。
これを、「資金使途違反」と呼びます。つまり、銀行は決算書から、貸したおカネが「当初の予定どおり」に使われたのかどうかを読み取ろうとしています。
これを聞いて、「そんなのバレないんじゃないの?」とおもわれるかもしれませんが。資金使途違反をした時点ではバレなくても、その後に決算書を提出した時点でバレることは少なくないのです。
さきほどの例であれば、銀行は「当初購入予定だった設備の金額が、決算書や固定資産台帳に掲載されているかどうか」を確認しています。
ところが、資金使途違反をしていると、決算書や固定資産台帳に掲載されている設備の金額は、当初購入予定だった設備の金額を下回っていることからバレてしまうわけです。
ちなみに、資金使途違反がバレた会社の末路は悲惨なものがあります。一括返済を求められるだけではなく、以後、その銀行からの融資は受けられなくなるでしょう。
資金使途違反の対象になった融資が「信用保証協会の保証付き融資」であった場合には、信用保証協会に対する信用にも傷がつきます。以降の保証付き融資にも、悪い影響を及ぼしかねません。
前述した粉飾にしても、資金使途違反にしても、「ほんの出来心」というハナシもありますが。その出来心が、会社の資金繰りに「致命的なダメージ」を与えることを理解しておきましょう。
粉飾や資金使途違反によって、銀行からの信用を失えば、会社は銀行融資という手段を失うことになります。資金調達手段が限られている中小企業には致命傷です。
まとめ
融資を受けている会社が、銀行に提出する決算書。銀行は、その決算書から何を読み取ろうとしているのか? を理解しておきましょう。社長の銀行対応に役立ちますし、ひいては、融資の受けやすさにつながるところです。
- 返済可能性
- 粉飾の有無
- 資金使途違反の有無