ひとくちに「財務指標」と言ってもいろいろありますが。「たくさんある財務指標のなかから、あえて3つだけを挙げるならコレだ!」というお話をしていきます。
なんのことやらわからず、いくつあるのかもわからない。
会社の業績や状況を、把握・分析するための道具として「財務指標」があります。決算書に記載された数字から、一定の算式によって計算された指標が「財務指標」です。
当然、社長は自社の業績や状況を、把握・分析する必要がありますから、社長にとっても、財務指標は重要な道具だと言ってよいでしょう。
とはいえ、ひとくちに「財務指標」と言ってもいろいろあります。〇〇利益率、〇〇比率、〇〇回転期間、果てはインタレスト・カバレッジ・レシオなるものまで。
名称からは、もうなんのことやらわからず… いったい、ぜんぶでいくつあるのかもわかないほど、たくさんの財務指標があります。とても、覚えきれるものでもありません。
そこで、「たくさんある財務指標のなかから、あえて3つだけを挙げるならコレだ!」というものを、わたしなりにピックアップしてみました。次のとおりです↓
- 預金月商倍率
- 債務償還年数
- 総資産利益率
ではなぜ、これらの3つをピックアップしたのか? その理由を、各財務指標の解説とともにお話ししていきます。銀行融資を受けるのにも役立つところですから、ぜひ確認しておきましょう。
たくさんある財務指標のなかから3つだけを挙げるなら
預金月商倍率
算式であらわすと、次のとおりです↓
算式中の「売上高 ÷ 12ヶ月」は、いわゆる「平均月商」であり、ひと月あたりの平均売上高です。その平均月商で預金を割ることで、「預金が売上高の何ヶ月分あるか?」を計算するのが、預金月商倍率になります。
目安は、「預金月商倍率 >2」です。つまり、売上高の2ヶ月分以上の預金が望ましい。これが、「預金月商倍率 <1」となると、銀行融資が極端に受けにくくなることを覚えておきましょう。
言うまでもありませんが、「預金が少なすぎる危険な会社」であり、銀行としても「融資をしないほうがよい(貸しても返ってこない)」という判断になりやすいからです。
したがって、社長は「常に、預金月商倍率 >2」を目指すとよいでしょう。さらに言えば、「預金月商倍率 >3」を目指したいところです。売上高3ヶ月分以上の預金があれば、ちょっと何かあったときにも、比較的落ち着いて対応できます。
さらにおすすめは、「預金月商倍率 >6」です。これを聞いて、「そんなに預金が必要か?」とおもわれるかもしれませんが。東日本大震災や新型コロナの際には、長期にわたって打撃を受けた会社があります。
なにが起きるかはわからないことを考えれば、売上高6ヶ月分の預金が「いざというとき」には役立つことがわかるでしょう。それだけの預金があれば、融資の申込みや補助金の申請をするにも、余裕を持って対応できます。
とはいえ、売上高6ヶ月分の預金をためるなど、そうカンタンにはできません。なので、「銀行融資も利用」して、預金を増やすようにしましょう。利益を出してためたおカネも、銀行から借りたおカネも「同じおカネ」です。
「できるだけ、借金(銀行融資)はしたくない」とおもうかもしれませんが、借金をしても、借りたおカネを使わずに置いておけば、その分の借金はないのといっしょです。
いっぽうで、預金が少なくなってから借りようとしても、銀行からは警戒されるのですから、「どうせ借りるかもしれない」のであれば、借りられるうちに借りておくことも検討してみましょう。
債務償還年数
算式であらわすと、次のとおりです↓
初見だと、わかりづらい財務指標かもしれません。
わかりやすくするために、まずは「借入金 ÷ 税引後利益」で考えてみましょう。このうち「税引後利益」とは、「税金を払ったあとに残るおカネ」です。
その税引後利益が「返済原資」だとすれば、債務償還年数は「いまある借入金を何年で返済できるか」をあらわす指標だとわかります。目安は、「債務償還年数 < 10」です。
つまり、借入金は 10年のうちに返済できるのが望ましい。逆に 10年よりも長くなるようなら、「借入が多すぎる」あるいは「借入に対して利益が少ない」ということになります。
それが、銀行の見方でもあることを覚えておきましょう。「債務償還年数 < 10」であれば、融資が受けやすい。そうでなければ、融資が受けにくくなります。
では、「借入金」から「預金」と「経常運転資金」をマイナスしているのはなぜなのか?
預金があれば、いつでも返済できますから、その分の借入金はないのといっしょです。なので、預金をマイナスしています。問題は、経常運転資金です。
そもそも、経常運転資金とは「売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産(在庫)ー仕入債務(買掛金・支払手形)」を言います。
このうち、売上債権は回収すれば預金になり、棚卸資産も売れれば預金になるものです。いっぽうで、仕入債務は売上債権の逆にあたるものであり、近いうちに預金が減るので、売上債権・棚卸資産と相殺するという意味でマイナスしています。
そうして計算された経常運転資金は、近いうちに預金になる金額ですから、前述の預金と同じように、借入金からマイナスするのです。つまり、「借入金 ー 預金 ー 経常運転資金」は、「正味の借入金」をあらわしていることになります。
では、「税引後利益」に「減価償却費」をプラスしているのはなぜか? 減価償却費が、預金の支出をともなわない費用だからです。と言われても、これは会計的に難易度が高いハナシでもあります。
よくわからない… ということであればひとまずは、「税引後利益 + 減価償却費」が返済原資なんだ! と、暗記してしまいましょう。いや、ちゃんと理解したいんだ! というのであれば、こちらの記事を参考にどうぞ↓
預金月商倍率のお話のなかで、「銀行融資を利用して預金を増やしましょう」と言いました。とはいえ、借金(銀行融資)が多すぎるのはよくありません。多すぎるかどうかの目安として、債務償還年数という財務指標が役立ちます。
総資産利益率
算式であらわすと、次のとおりです↓
この財務指標が意味することについて、事例で考えてみましょう。同じ 100万円の利益を出すA社とB社があったとします。
このうちA社の総資産は 1,000万円、B社の総資産は1億円だとしたら、どちらが良い会社か? 総資産利益率で考えるのであれば、A社です。なぜなら、より少ない資産で、同じ利益を稼ぐことができているから。
資産を「元手」と見れば、より小さい元手で稼げるほうが「効率が良い」ですよね。つまり、総資産利益率は、「利益効率」をはかることができる財務指標になります。
だとすれば、「ムダな資産」が害悪であるとわかるでしょう。ムダな資産とは、利益を増やすのに貢献できない資産です。たとえば、不良債権や不良在庫、オーバースペックな設備、遊休不動産、含み損を抱えた有価証券など。
そういった「ムダな資産」があると、総資産利益率は低下します。ゆえに、ムダな資産を減らしながら、利益を増やすというのが、良い会社・良い事業への「道すじ」です。
この点で、利益ばかりを見て(資産を見ずに)、「利益が増えさえすればよい」と考えていると、いずれ「ムダな資産」に足元をすくわれることになります。
ムダな資産とは、言い換えると、「おカネをムダ使いした結果」です。ほんとうはおカネが残っているはずだったのに、残っていない… 銀行融資も受けにくくなるので、二重苦です。
ちなみに、総資産利益率は次のように「分解」できます↓
売上高利益率とは「税引後利益 ÷ 売上高」、総資産回転率とは「売上高 ÷ 総資産」です。したがって、売上高利益率を高めるか、総資産回転率を高めることが、総資産利益率の改善につながることがわかります。
以上をふまえて、まずは最新の決算書で計算した「総資産利益率」を、前期や前々期の「総資産利益率」と比較してみましょう。最新の総資産利益率が、過去の総資産利益率よりも高いか、低いかを確認します。
そのうえで、なぜ高いのか・なぜ低いのかの理由を探るために、総資産利益率を「分解」してみましょう。売上高利益率の増減によるものか、総資産回転率の増減によるものかがわかるので、改善のポイントがつかみやすくなるはずです。
なお、総資産回転率とは「資産を使ってどれだけの売上をあげられたか(売上は資産の何回転分?)」であり、どれだけ効率よく売上をあげられたかをあらわします。
利益を増やすためには、利益率を高めることと、資産の利用効率を高めることの両面が重要だ、ということです。その両面を押さえている総資産利益率には、「総合指標」としての良さがあります。
まとめ
ひとくちに「財務指標」と言ってもいろいろありますが。「たくさんある財務指標のなかから、あえて3つだけを挙げるならコレだ!」というお話をしてきました。
財務指標は、社長が自社の業績や状況を、把握・分析するのに役立つのはもちろん、銀行融資を受ける際の「受けやすさ」をはかるのにも役立ちます。ぜひ、確認をしておきましょう。
- 預金月商倍率
- 債務償還年数
- 総資産利益率