決算書は、同業他社との比較がだいじ。財務指標もまた、同業他社との比較がだいじ。では、同業他社との比較で気をつけたい財務指標とは? についてお話をしていきます。
同業他社比較は銀行へのアピールになる。
決算書は、同業他社との比較がだいじ。というのは、銀行融資を受けるコツの1つでもあります。なぜなら、銀行は融資先の決算書を同業他社と比較して、評価をしているからです。
だとすれば、社長もまた「同業他社との比較」について理解をすることで、銀行に対するアピールができるようになるのはメリットでしょう。もちろん、自社の財務状況を理解することにも役立ちます。
では、同業他社との比較とは、具体的にどのようにするのか? おもなものとして、「財務指標」が挙げられます。〇〇利益率とか、〇〇比率などといった指標です。
その財務指標について、自社の数値と同業他社との数値を比較することで、自社と他社の違いをあきらかにしたり、他社よりも優れている部分を銀行にアピールしたり。逆に、他社に劣る部分については、改善の対象にしたりするわけです。
これに関連して、「同業他社との比較で気をつけたい財務指標」がありますよ。というのが、本記事のテーマです。具体的には、次の3つになります↓
- 一人あたり売上高、利益、人件費
- 総資本回転率
- 売上高成長率
これらの財務指標について、なぜ、同業他社との比較で気をつけなければいけないのか? そもそも、どういう意味を持った指標なのかなどもあわせてお話をしていきます。
同業他社の財務指標を知る方法として、中小企業基盤整備機構が提供しているWEBサービス「経営自己診断システム」や、日本政策金融公庫がWEBで公表している「経営指標調査」がおすすめです。いずれも、無料で利用できます。
同業他社との比較で気をつけたい財務指標3選
一人あたり売上高、利益、人件費
まずは、「一人あたり売上高」「一人あたり利益」「一人あたり人件費」について。それぞれ、売上高や利益、人件費を、自社の社員数で割った数値になります。
その結果、一人あたり売上高や一人あたり利益が意味しているのは、社員一人あたりの「生産性」です。一人あたり人件費は、その会社の「給与水準」を意味していることになります。
生産性にしても、給与水準にしても、会社ごとの「差」があらわれるところです。銀行も注目をしていますから、社長としても把握しておくべき数値だと言えます。
では、生産性については、高ければ高いほうがよいか? というと、必ずしもそうとは言い切れません。一人あたり売上高が高くても、一人あたり利益が低かったら… よくありませんよね。
なので、売上高と利益はセットで見る必要があります。そのうえで、優先すべきは利益。売上高も増えていたらなおよし、という見方です。
なお、時期によっては「先行投資」的に、社員を採用していることもあるでしょう。この場合には、一人あたり売上高や一人あたり利益が、一時的に下がってしまいます。
同業他社と比較しても悪い数値になるようであれば、社長は銀行に「説明」を加えるようにしましょう。「売上増・利益増をはかるために社員を増やしています。最終的には、一人あたり売上高は〇〇万円、一人あたり利益は〇〇万円になる見込みです」といった説明です。
その説明や根拠に納得すれば、銀行からは「運転資金」の融資提案をもらえる可能性もあります(売上が増えると、増加運転資金分のおカネが必要になるものなので)。
また、一人あたり人件費については、同業他社と比較をしたうえで、優位な差(10%ていど多い)があれば、ぜひとも銀行にアピールをしたいところです。
高いお給料を支払うことができる利益がある、おカネがある、ということであり、高いお給料を支払うだけの優秀な人材がいる、よって自社の将来性にも期待できる、とのアピールになります。
総資本回転率
算式であらわすと、「総資本回転率 = 売上高 ÷ 総資産」です。同じ売上高の会社であっても、総資産が少ないほうが総資本回転率は高くなり、効率的な事業であることを意味しています。
総資本回転率は、売上高を増やすことでも高められるのですが、銀行は「意外」と、総資産のほうにも注目していることを覚えておきましょう。
総資産とは、会社が保有する資産の合計であり、貸借対照表の「資産の部」を見ることで、内訳を把握することができます。銀行は、その内訳(個々の資産)を見て、「ムダ」がないかを確認しているのです。
たとえば、売掛金のなかに、もう回収が見込めない「不良債権」がないか? 棚卸資産のなかに、もう販売できない「不良在庫」がないか? 稼働していない機械設備はないか? などなど。
そういったムダがある会社は、総資本回転率が低くなります。同業他社の総資本回転率と比較をしてみて、自社のほうが低いのであれば、資産のムダを確認してみましょう。
そのうえで銀行に対しては、ムダが発生した経緯・原因を説明して、改善策まで提示できれば、銀行が感じる不安の軽減につながります。
また、銀行は「ムダ」だけではなく、「ウソ」を警戒していることを忘れてはいけません。ここで言う「ウソ」とは、いわゆる「粉飾決算」のことです。
たとえば、売掛金のなかに、架空売上にともなう「架空債権」があるとか。棚卸資産のなかに、利益を水増しするための「架空在庫」があるとか。そういった会社の総資本回転率は、やはり低くなります。
なので社長は、同業他社と比べて自社の総資本回転率が低い場合、「ウソがないこと」についても銀行に説明することが大切です。
たとえば、決算日直前にまとまった仕入をして、決算日時点で在庫になっていると、総資本回転率が低く見えることになります。こういったときには、「まとまった仕入をしたほうが、仕入単価が下がるから」といった理由を、銀行に説明できるとよいでしょう。
売上高成長率
前年比増収率などとも呼ばれる財務指標で、算式であらわすと「売上高成長率 = 当期売上高 ÷ 前期売上高」です。つまり、前期に比べてどれだけ売上が伸びているのかを意味します。
さきほど、総資本回転率について「銀行は、総資産のほうにも注目している」と言いましたが、売上高にも注目はしています。言うまでもなく、返済原資(利益)の源泉が売上高だからです。
なので、売上高が減っていれば、「将来の利益減少(将来の返済原資減少)を銀行は心配します。
そういう意味では、売上高成長率は高いほうがよい、というのは一般的な見方です。ただし、売上高成長率が下がっていても、返済原資としての「利益」が減っていなければどうでしょう?
必ずしも心配がある、とは言えなくなりますよね。実際に、筋の悪い事業(赤字の事業)から撤退することで、売上は減ったけど利益は増えた、というケースはあるわけです。
したがって、「あえて売上高を減らしている」のであれば、社長は銀行に「その意図」を説明するようにしましょう。同業他社の売上高成長率と比べて、低いようであればとくにです。
なお、銀行は同業他社の売上高成長率を見て、その業界の先行きをイメージしています。ある業界の売上高成長率が伸びていれば、先行きは明るい。積極的に融資をしよう、みたいな。
なので、同業他社の売上高成長率を見たときに、伸びているようであれば、「自社も同様に伸びている」ことをアピールできると、融資の受けやすさにつながります。
いっぽうで、同業他社の売上高成長率が下がっている、つまり、業界全体があまりよくな状態である場合にはどうなのか? 基本的には、銀行はその業界に対しての融資を控えるようになります。
こういったときには、「やりようによっては伸びしろがあるということ」だとして、同業他社とは違った取り組みをしている点をアピールできるとよいでしょう。
まとめ
決算書は、同業他社との比較がだいじ。財務指標もまた、同業他社との比較がだいじ。というわけで、同業他社との比較で気をつけたい財務指標とは? についてお話をしてきました。
本記事で取りあげた3つの財務指標について、そもそも各指標が持っている意味や、比較をするときに気をつけなければいけない理由を押さえておきましょう。
銀行に、自社のアピールをするときに役立つはずです。結果として、融資の受けやすさにつながります。
- 一人あたり売上高、利益、人件費
- 総資本回転率
- 売上高成長率