財務指標もあまたありますが。「建設業に特有」かつ「資金繰りに関する」ものを取りあげて、確認をしていきます。
建設業の決算書を読み解くために必要なもの
会社の決算書や試算表を読み解くうえで、参考になるのが財務指標。とはいえ、あまたある財務指標を理解するのもカンタンではありませんが。
本記事では、そんな財務指標のなかから、「建設業に特有」かつ「資金繰りに関する」ものを取りあげてみます。
建設業の経理処理では、他の業種には見られない「勘定科目」があるため、特有の財務指標に注意が必要です。また、建設業における傾向として、気をつけるべき財務指標もあります。
具体的には、以下5つの財務指標です↓
- 完成工事未収入金回転期間
- 未成工事収支比率
- 立替工事高比率
- 売上総利益率
- 自己資本比率
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
建設業特有の資金繰りに関する財務指標5選
完成工事未収入金回転期間
まずは、算式であらわすと次のとおりです↓
算式の前半「完成工事未収入金 + 受取手形」は売上代金の未回収額、つまり、工事は完成している(売上が計上されている)ものの、おカネはまだ受け取っていない金額になります。
ちなみに、完成工事未収入金は、一般的な勘定科目で言うところの「売掛金」にあたるものです。建設業に特有の勘定科目は、一般的な勘定科目に置き換えて考えてみるのもよいでしょう
いっぽう、算式の後半「売上高 ÷ 12ヶ月」は、いわゆる平均月商です。
したがって、完成工事未収入金回転期間は「売上代金の未回収額が、平均月商の何ヶ月分あるか?」をあらわす財務指標であることがわかります。
この指標は、一時点のみの数字を確認するのではなく、過去の数字と比較をすることが大切です。たとえば、今月の完成工事未収入金回転期間を、前月のそれや、前年同月のそれと比べてみる。
そのうえで、完成工事未収入金回転期間が延びているようなら、回収条件が悪化している、あるいは、不良債権化しているものがあるのではないか…? との見方になります。
銀行には、「完成工事未収入金回転期間が延びる = 粉飾決算の疑い」という見方もありますから、銀行に対して事実を説明するためにも、回転期間が延びた理由は把握しておきましょう。
未成工事収支比率
算式であらわすと、次のとおりです↓
未成工事受入金とは、まだ工事がおわっていないけれど、先にもらっているおカネです。一般的な勘定科目で言うところの「前受金」にあたります。
これに対して、未成工事支出金はその逆、まだ工事がおわっていないけれど、先に支払ったおカネです。一般的な勘定科目で言うところの「仕掛品」にあたります。
したがって、未成工事収支比率は「おわっていない工事に関する、短期的な資金繰りの良し悪し」をあらわす財務指標であることがわかります。
結論として、「未成工事収支比率が高いほど資金繰りが良い」という見方です。
未成工事収支比率が高くなるのは、未成工事受入金が未成工事支出金よりも大きいとき。つまり、先にもらっているおカネのほうが、先に支払ったおカネよりも大きいときだ、と考えます。
建設業では、工事の着手から完成まで時間がかかることから、「おカネを先にもらう・先に支払う」が他の業種よりも多くなるため、この指標の重要性が高くなるのです。
資金繰りの良し悪しに与える影響が少なくありませんから、継続的に確認をしておきましょう。
立替工事高比率
算式であらわすと、次のとおりです↓
一見すると、「なんのこっちゃ?」とおもわれるかもしれませんが。この財務指標は、前述の「未成工事収支比率」を補う位置づけにあります。
もう少し具体的に言うと、未成工事収支比率が「おわっていない工事に関する資金繰り」をあらわす指標であったのに対して、立替工事高比率は「すべての工事に関する資金繰り」をあらわす指標です。
というわけで、まず分子を見てみると。「完成工事未収入金 + 受取手形」は、おわっている工事について入金を待っている金額になります。
そのあとの「未成工事支出金 ー 未成工事受入金」は、まだおわっていない工事について、自社が立替え払いしている金額です。未成工事支出金が先払い、未成工事受入金は前受けのおカネであることを思い出しましょう。
したがって、分子は「すべての工事に関する立替金額」をあらわしています。
いっぽうの分母は、「売上高 + 未成工事支出金」です。このうち、未成工事支出金は「まだおわっていない工事の売上高(とみなす)」という考え方になります。よって、分母があらわすのは、「すべての工事に関する売上高」です。
結果として、立替工事高比率は「すべての工事に関する資金繰り」をあらわします。この数字が低いほど、資金繰りとしてはラクな状態にあることを理解しておきましょう。
やはり、過去の数字とも比較して、状況に変化がないかを確認することが大切です。
売上総利益率
算式であらわすと、次のとおりです↓
この指標自体は、建設業に特有のものではありません。特有なのは、その見方・考え方です。建設業は、「売上原価」の影響が利益に大きく影響します。
売上原価とは、たとえば、建設資材の購入金額や、下請け業者に支払う外注費など。このあたりは、工事ごとに差が出ることもあれば、時期によって差が出ることもあるでしょう。
売上高が増えているとしても、売上原価も増えて、売上総利益は減っている… ということもあるわけですから、売上総利益率の確認が欠かせません。
工事ごとに売上総利益に差が出ることも考えると、売上総利益は「工事ごとに把握」する必要があることもわかるでしょう。会社全体の売上総利益だけを見ているのでは不十分です。
したがって、工事ごとの売上総利益を把握することができるように、経理の体制・しくみを整えるようにしましょう。
自己資本比率
算式であらわすと、次のとおりです↓
この指標もまた、建設業に特有のものではありません。注意すべきはやはり、見方・考え方になります。
この点で、建設業では「未成工事支出金」や「未成工事受入金」が多くなることは前述しました。このうち「未成工事支出金」は資産であり、「未成工事受入金」は負債です。
これら未成工事支出金や未成工事受入金が多くなれば、総資産(負債 + 純資産)もまた多くなることから、相対的に自己資本比率が低くなることを理解しておきましょう。
つまり、建設業にあっては、そもそも自己資本比率が低くなることがあり、「おわっていない工事の資金繰り(未成工事支出金・未成工事受入金の状況)」によっては、さらに資金繰りが低くなることもあるわけです。
そのうえで、「おわっていない工事の資金繰り」を改善することが、自己資本比率の改善に直結することを覚えておきましょう。
建設業では、1つの工事で大きな金額のおカネが動くことが少なくありません。ゆえに、未成工事支出金や未成工事受入金が、自己資本比率に与える影響が大きくなるのです。
まとめ
財務指標もあまたありますが。「建設業に特有」かつ「資金繰りに関する」ものを取りあげて、確認をしてきました。
本記事で取りあげた5つの財務指標がわかっていれば、建設業の会社の決算書・試算表を、よりいっそう深く読み解くことができるはずです。ぜひ、押さえておきましょう。
- 完成工事未収入金回転期間
- 未成工事収支比率
- 立替工事高比率
- 売上総利益率
- 自己資本比率