社長は、毎年の決算がおわったタイミングで、向こう1年分の銀行融資を受けるのがおすすめです。とはいえ、いったいいくら借りればいいのか? その計算手順についてお話しします。
いくら借りたいのか、と聞かれるから。
社長は、毎年の決算がおわったら(=税務申告がおわったら)、銀行融資を受けましょう。ということを、おすすめしています。
銀行は、決算書の内容をふまえて、向こう1年の「融資方針」を決めるからです。つまり、それだけ決算書の内容を重視している、ということでもあります。
なので、銀行の融資方針が決まったタイミングで、さっさと借りてしまったほうがいい。あとからとなると、いくら決算書重視とはいえ、追加の書類を求められたりもするものです。
というわけで、社長は各取引銀行に決算報告をしつつ、融資提案をお願いするとよいでしょう。
とはいえ、そのタイミングで、いったいいくら借りればよいのか? と、おもわれるかもしれません。融資提案をお願いするといっても、銀行からは「いくら借りたいのか」と聞かれます。
ゆえに、向こう1年の資金繰り予定表を持参してお願いするわけですが、その資金繰り予定表には、いくらの借入予定額を記載すればよいのか? その考え方と計算手順を、このあとお話していきます。
決算がおわったら銀行融資でいくら借りればいいかの計算手順
1.年間返済額を把握する
まずは、既存の銀行借入について、1年分(期首〜期末)の年間返済額を把握しましょう。銀行から受け取った「返済予定表」を見れば、計算することができます。
各借入ごとに、毎月の返済額を一覧にして、年間返済額を集計しておくとよいでしょう。たとえば、
- A銀行から借入 → 毎月 10万円返済
- B銀行から借入 → 毎月 15万円返済
- C銀行から借入 → 毎月 20万円返済
だとすれば、年間返済額は
(10万円+15万円+20万円)× 12ヶ月=540万円
会社の資金繰りを考えるうえでは、この 540万円を返済できるかどうかがポイントになります。
2.税引後利益+減価償却費と比較する
続いて、さきほど把握した年間返済額(540万円)と、「税引後利益+減価償却費」とを比較します。そこで、向こう1年の「税引後利益+減価償却費」を試算してみましょう。
ちなみに、「税引後利益+減価償却費」が、銀行借入の返済原資にあたります。税引後利益はいいにしても、どうして減価償却費…? と、おもわれるかもしれませんが。
減価償却費は、費用計上時に支出をともなうものではないから(支出は減価償却対象の資産を購入したときだから)です。と言われても… ということであれば、まずは暗記してしまいましょう。
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それはそれとして、「税引後利益」を試算するには、「税引前利益」の試算が必要です。税引前利益を試算するには、「売上ー費用(=利益)」の予測が必要になります。
つまり、損益計画を立てることによって、「税引前利益」を試算するという流れです。税引前利益が試算できたら、税率を乗じて税金を計算します。税率は、35%で考えておけば不足はないでしょう(実際にはもう少し小さいはずなので)。
たとえば、税引前利益が 600万円だとしたら、税引後利益は「600万円 ×(100%−35%)=390万円」ということになります。
このとき、減価償却費が 150万円だとしたら、「税引後利益 390万円+減価償却費 150万円=540万円」となり、返済原資である 540万円と、年間返済額である 540万円が一致します(たまたま)。
これであれば、向こう1年の返済に困ることはありません。したがって、「税引後利益+減価償却費≧年間返済額」であれば返済に困ることはない、ということになります。
いっぽうで、「税引後利益+減価償却費<年間返済額」となると、問題ありです。
3.手元の預金残高を確認する
「税引後利益+減価償却費<年間返済額」は問題あり、だと言いました。なにが問題なのか? 「年間返済額ー(税引後利益+減価償却費)」の分だけ、おカネが減っていくのが問題です。
たとえば、年間返済額が 540万円、税引後利益+減価償却費が 100万円の会社であれば、向こう1年で 440万円(540万円ー100万円)のおカネが減っていくことになります。
これは、返済するだけの利益がないために、手元のおカネを食いつぶしている… ということです。
となれば、当然、損益計画の見直しを迫られるわけですが、それでも「税引後利益+減価償却費<年間返済額」となる場合にはどうすればよいのか?
「年間返済額ー(税引後利益+減価償却費)」を借りることを考えます。さきほどの例であれば、少なくとも 440万円を借りるということです(厳密には、440万円に加えて、新規借入の年間返済額分も)。それができれば、手元のおカネが減るのを避けられます。
したがって、「税引後利益+減価償却費<年間返済額」のケースでは、「年間返済額ー(税引後利益+減価償却費)」以上の融資を受けられるように検討しましょう。
では、「税引後利益+減価償却費≧年間返済額」の場合には融資を受けなくていいか? といえば、そんなこともありません。すでに、手元のおカネが少ないのであれば、融資を受けたほうがよいでしょう。
手元のおカネ(預金残高)は、最低でも平均月商(年間売上高÷12ヶ月)の2ヶ月分以上、できれば6ヶ月分くらいをおすすめします。それよりも少ないのであれば、融資を受けるのは1つの選択肢です。
4.借りたくても借りられない問題
いくら借りればいいかはわかった。けれども、借りたい分だけ借りられるものなのか。つまり、借りたくても借りられないことはあるのではないか? と言われれば、そのとおりです。
さいごは、銀行が決めることなので、借りたくても借りられないことはあります。ただし、「折り返し融資」については、その限りではありません。
折り返し融資とは、「もともと借りていた金額まで借りなおす融資」をいいます。
たとえば、当初 1,000万円の融資を受けていたとして、その後、毎月返済を続けて、現在の残高は 600万円という場合。折り返し融資によって、400万円を借りることができます。
1,000万円については、銀行が審査のうえでOKした金額であり、その後の返済にも滞りがない。だったら、1,000万円まで貸してもだいじょうぶだろう。と、銀行は考えるために、折り返し融資は受けやすい融資だといえます。
なので、少々業績が悪いときにでも、折り返し融資であれば受けられる、ということはあるものです。
注意点としては、折り返し融資は「運転資金」の融資に限られること。設備資金の融資については、折り返し融資の考え方はありません。
また、スムーズに折り返し融資を受けるためには、もともとの借入額に対して、3分の1以上の返済が進んでいることが目安になります。たとえば、当初 1,000万円の融資を受けたのであれば、333万円くらいの返済がおわっているかどうかです。
いっぽうで、あまり返済が進んでいない段階だと、折り返し融資には応じてもらいにくくなります。借入金一覧表をつくるなどして、「どれくらいの折り返し融資が受けられそうか」を把握しておくとよいでしょう。
さらに、注意点をもうひとつ。折り返し融資は、まずはメインバンクから。その後、ほかの取引銀行も順番にお願いするようにしましょう。
銀行は、メインバンクの動きを気にするものなので、メインバンクが折り返し融資をしていないと、ほかの銀行は折り返し融資をしづらくなります。また、折り返し融資がどこかの銀行だけにかたよるのもよくありません。基本は、メインバンクから順番に、です。
まとめ
社長は、毎年の決算がおわったタイミングで、向こう1年分の銀行融資を受けるのがおすすめです。とはいえ、いったいいくら借りればいいのか? その計算手順についてお話ししました。
銀行融資はできるだけ1度に済ませて、その分、社長は経営に集中できるようにしましょう。