ちまたで言われる「年間売上高の半年分以上の借入があると危ない!」というハナシ。でも実は、必ずしも危ないわけではありません。そのあたりの見分け方についてお話をします。
たしかに、借りすぎはよくない。
社長が決算書を見るうえで気がかりの1つに、「借りすぎではないか?」があります。
つまり、銀行からの借入が多すぎるのではないか? 借入によって会社がつぶれてしまうのではないか? といった懸念です。たしかに、借入が「多すぎる」のはよくありません。
この点、ちまたには「年間売上高の半年分以上の借入があると危ない!」というハナシがあります。これはこれで、目安ではあるものの、状況によってはアテにならないことに注意が必要です。
なので、年間売上高の半年分以上の借入があっても、別に危なくはないケースもあります。にもかかわらず、危ないと感じてしまい、必要な借入ができず、資金繰りが悪くなるのは問題です。
というわけで、年間売上高の半年分以上の借入があるとつぶれてしまうのかどうかを、見分ける方法についてお話をしてみます。自社の決算書を見ながら、以下の項目を確認をしてみましょう↓
- 預金分を除く
- 利息から見る
- 利益から見る
これらについて、このあと順番に解説していきます。
年間売上高の半年分以上の借入があるとつぶれる?の見分け方
預金分を除く
冒頭、年間売上高の半年分以上の借入は借りすぎだ、という目安についてお話をしました。
少し補足をすると、平均月商(年間売上高÷12ヶ月)の6ヶ月分を超える借入は危険水域、3ヶ月分を超える借入は注意信号、という「財務分析的」な見方があります。
たとえば、年間売上高が1億 2,000万円(平均月商 1,000万円)、借入残高が 6,000万円の会社があったとして。この会社の売上や、想定される利益から見ると、6,000万円を返済していくのは資金繰り的に厳しいよね… とイメージするのはわかるハナシです。
ゆえに、危険水域。そのような会社は、銀行からの融資が受けられなくもなるものです。
では、この会社が 4,000万円の預金を持っていたらどうでしょう? そのおカネで、借入を返済しようとおもえば返済できる、ということになります。
だとすれば、実質的な借入は 6,000万円ではなくて、2,000万円(借入残高 6,000万円 ー 預金残高 4,000万円)だと考えることもできるはずです。このとき、借入は平均月商の2ヶ月分にすぎず、危険水域どころか注意信号ですらありません。
なので、この会社の借入が多すぎるとまではいえないわけです。実際、銀行からはまだ借入をすることもできるでしょう。
年間売上高と借入残高だけを見るのではなく、あわせて預金残高も見ることが大切です。預金残高分の借入は無いものと考えて、「実質的な借入」がいくらかを見るようにしましょう。
利息から見る
借りすぎかどうかの見分け方として、「利息」から見る方法もあります。ここで言う「利息」とは、会社が銀行に支払う利息のこと。損益計算書に「支払利息」として記載されている金額です。
その支払利息と、同じく損益計算書に記載されている「営業利益」の金額とを比べてみましょう。営業利益とは、会社が「本業からえた利益」をあらわしています。
位置で言うと、営業利益は「支払利息の少し上」にある利益です。ゆえに、支払利息は営業利益のなかからまかなうべきものであることがわかります。
たとえば、営業利益が 100万円なのに対して、支払利息が 200万円であれば、最終的な利益は 100万円の赤字になってしまいます。この場合には、借りすぎだといえるでしょう。
つまり、利息が多いということであり、利息が多いということは借入が多いからだ、ということです。
ちなみに、「営業利益=支払利息」ではギリギリすぎるので、「営業利益 > 支払利息」が望ましいわけですが、営業利益はどれくらい多ければよいのか?
ひとつの目安として、「営業利益 > 支払利息 ×2」というものがあります。支払利息の2倍以上の営業利益が望ましい、ということです。なので、年間売上高の半年分以上の借入があったとしても、「営業利益 > 支払利息 ×2」であればだいじょうぶ、という見方もできます。
ただし、この見分け方だけで、借りすぎかどうかを判断しないようにしましょう。他の見分け方もそうですが、複数の見分け方で確認をしてみて、「総合的」に判断をすることで、より正しい判断ができるようになります。
利益から見る
借りすぎかどうかの見分け方として、さいごにもう1つ。「利益」から見る方法もあります。算式で言うと、「税引後利益+減価償却費 > 年間返済額」を満たすかどうかです。
話をわかりやすくするために、ひとまず「税引後利益 > 年間返済額」で考えてみましょう。税引後利益は、税金を払ったあと手元に残る利益であり、「返済原資」にあたるものです。
したがって、「税引後利益 > 年間返済額」の状態であれば資金繰りに問題はない。年間売上高の半年分以上の借入があったとしても、借入が多すぎるわけではない、という見方ができます。
では逆に、「税引後利益 < 年間返済額」の場合はどうでしょう? 手元のおカネを取り崩して返済を続けることになるので、遅かれ早かれ資金繰りに問題が生じることがわかります。
というように、借入が多すぎるかどうかを、利益から見分ける方法も覚えておくとよいでしょう。
なお、「税引後利益+減価償却費 > 年間返済額」で、税引後利益に減価償却費をプラスするのは、減価償却費が支出をともなわない費用だからです。
たとえば、減価償却費の対象である機械装置 500万円を購入した場合。支出(おカネが出ていく)されるのは、購入をしたときです。その後、耐用年数に応じて、減価償却費として毎年費用が発生しますが、すでに支出は済んでいますからおカネが出ていくわけではありません。
いっぽうで、税引後利益を計算する過程では、減価償却費をマイナスしています。そこで、減価償却費分の支出はなかったものとして、税引後利益に足し戻しているわけです。うーん、よくわからない… ということであれば、こちらの記事も参考にどうぞ↓
まとめ
ちまたで言われる「年間売上高の半年分以上の借入があると危ない!」というハナシ。でも実は、必ずしも危ないわけではありません。そのあたりの見分け方についてお話をしました。
ほんとうは危なくないのに危ないと感じて、必要な借入まで控えてしまうことがないように。本記事でお話をした見分け方を押さえておきましょう。
- 預金分を除く
- 利息から見る
- 利益から見る