いっぱんに、自己資本比率は高いほうがよいと言われますが。実際には、自己資本比率が高い中小企業の盲点はあるものです。その具体的な盲点について、解説をしていきます。
高ければよい、というわけではない。
会社の決算書を評価する指標の1つに、「自己資本比率」があります。算式でいうと「純資産(自己資本)÷ 総資本(総資産)」であり、その値が「高いほどよい」とも言われている指標です。
たしかに、低いよりは高いほうがよいものですが、高ければよいというものでもありません。この点で、自己資本比率が高い中小企業には盲点がある、と言ってよいでしょう。
あえて、もういちど言いますが、自己資本比率が高ければよいわけではありません。では、その盲点とは具体的に何なのか? おもなところでは次のとおりです。
- 預金がない
- 信用がない
- 利益がない
これらを見て、どういうことなのかがわからない… というのであれば、このあとの解説を確認していただければとおもいます。それでは、順番に見ていきましょう。
自己資本比率が高い中小企業の盲点
預金がない
自己資本比率とは、冒頭に算式も示したとおり、「総資本に占める自己資本の割合」です。総資本とは、「他人資本 + 自己資本」であり、このうち他人資本は「返す必要があるおカネ」、自己資本は「返す必要がないおカネ」となります。
返す必要がないおカネである自己資本が多いほうが、会社としては安全であり、自己資本比率が高いということは自己資本が多いということなのだから、自己資本比率は高いほうがよい。というのは、貸借対照表でいう「右側(負債・資本)」のハナシです。
いっぽうで、貸借対照表の「左側(資産)」はどうかといえば、自己資本比率の高低とは無関係だといえます。つまり、自己資本比率が高いから、資産がじゅうぶんだとは言えない、ということです。
ちなみに、ここで言う資産とは「現金預金」になります。結局のところ、現金預金が尽きれば、会社はおしまいなので、現金預金はじゅうぶんに備えておかねばなりません。
では、具体例で考えてみましょう。「現金預金0、固定資産 100、負債0、純資産 100」の会社があったとします。この会社の自己資本比率は 100%です。これはすばらしい! といえるのでしょうか?
いえませんよね。なにしろ、現金預金が無いのであり、あすをもしれぬ状態です。もちろん、これは極端な具体例ではありますが。自己資本比率の高低だけでは、資金繰りの良し悪しまでははかれないことがわかるでしょう。
と、言われてみればわかることでも、自己資本比率を高めるために銀行借入を繰り上げ返済することで、現金預金を減らしすぎて資金繰りを悪くしている会社があります。
大企業に比べると資金調達の難易度が高い中小企業は、自己資本比率を高めるよりも、現金預金を増やすほうが先です。自己資本比率は、現金預金の残高とセットで確認するようにしましょう。
信用がない
ふたたび、さきほどの極端な例を持ち出してみます。「現金預金0、固定資産 100、負債0、純資産 100」で、自己資本比率が 100%の会社です。自己資本比率は高いほどよい、という見方であれば百点満点の会社になります。
では、この会社に「信用」があるかといえば、必ずしもあるとはいえません。なお、ここで言う信用とは、おカネを借りるための信用であり、銀行からの信用です。
自己資本比率 100%なので、銀行借入はゼロ。これを見た銀行が、「無借金経営ですばらしい!」と考えるのか? 残念ながら、そうはなりません。「銀行借入ができないほど信用がない会社」と見るのが銀行です。
なので、銀行借入がまったくない会社は、銀行借入がしづらくなることがあります。これを意外におもわれる社長もいるようなので、気をつけたいところです。
もちろん、自己資本比率 100%が極端な例であることは間違いありません。ただ、そこまでではないにしても、自己資本比率が高いほど銀行借入は少なくなると考えれば、自己資本比率が高いほど信用は低くなると考えることもできます。
ここでもまた、繰り上げ返済に注意が必要です。借入の残高を減らして自己資本比率を上げることはできますが、いっぽうでは信用の残高を減らしている… ともいえます。
繰り上げ返済をした銀行以外の銀行から見れば、「借りられたくても借りられない会社」と見られる可能性もあるでしょう。となると、のちのち銀行借入が必要になったときに悪影響です。
借入が多すぎるのはよくないにしても、まったくなかったり、少なすぎるのもよくありません。自己資本比率を高めようとするあまり、借入を減らしすぎないことが大切です。
利益がない
自己資本比率を計算する際の「自己資本」は、大きく2つに分かれます。資本金と利益剰余金です。このうち資本金は「株主からの出資額」であり、利益剰余金は「過去の税引後利益の累計額」になります。
では、また具体例で考えてみましょう。「資産 100、負債0、資本金 100」の会社があったとします。この会社の自己資本比率は 100%です。いかがでしょうか?
自己資本を構成する利益剰余金はゼロ、という点がポイントです。これは、「もうかっていない(利益を出せない)」ことをあらわしています。わかりやすいように、極端な事例にしていますが、利益剰余金がゼロではなくても少ない会社は同じことです。
この点、銀行は「利益=返済原資」と見ていますから、利益剰余金が少ない会社は「返済原資が無い会社」として融資を嫌います。その昔は、担保があれば借りられたのですが、いまはそういう時代ではありません。担保があっても利益がなければ借りられないのです。
ちなみに、財務改善の手段として「資産を売却して、借入を返済する」というものがあります。結果として、自己資本比率は改善するのですが、利益や利益剰余金が増えるわけではありません。なので、根本的な解決になっていないことは理解しておきましょう。
大事なことは、本業で利益を出すことです。
まとめ
いっぱんに、自己資本比率は高いほうがよいと言われますが。実際には、自己資本比率が高い中小企業の盲点はあるものです。その具体的な盲点について、解説をしてきました。
自己資本比率の高低と同時に、あわせて確認をすべき点として、本記事の内容を押さえておきましょう。自社の財務基盤をより安定したものにできるはずです。
- 預金がない
- 信用がない
- 利益がない