会社の銀行融資について。経営者保証の解除ができずに困る問題事例を取り上げてみます。経営者保証に関するガイドラインの理解を深めるためにも、押さえておきましょう。
ガイドラインを見てもわからないなら。
会社の銀行融資について。
2023年4月から、銀行には「経営者保証の説明義務」が課されました。これにより、経営者保証の解除は、これまで以上に加速していくものとおもわれます(実際に、傾向もあらわれています)。
とはいえ、どんな会社も、必ず経営者保証を外してもらえるわけではありません。経営者保証が必要だと見られる会社に対しては、やはり経営者保証をとることになります。
もちろん、社長としては経営者保証は無ければ無いほうがいいものですから、どうしたら経営者保証を外すことができるのか? は、関心ごとだといえるでしょう。
この点、「経営者保証に関するガイドライン」が参考になります。同ガイドラインは、法的な拘束力こそないものの、関係者が自発的に尊重し、遵守することが期待されているものです。
つまり、「会社と銀行に共通の自主的なルール」と位置付けられています。よって、銀行は同ガイドラインをもとに、経営者保証の要否を判断をしているわけです。
だとすれば、社長もまた、「経営者保証に関するガイドライン」を理解しておくのがよいでしょう。そこでまずは、ガイドラインに記載されている3要件を挙げてみます↓
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
- 財務基盤の強化
- 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
と言われても、よくわからない… ということもあるでしょうから。このあとは、3要件それぞれについて、経営者保証の解除ができずに困る、実際の問題事例で確認していきましょう。
もし、自社が当てはまるものがあれば、改善をしていかねばなりません。
経営者保証の解除ができずに困る問題事例
要件1/法人と経営者との関係の明確な区分・分離
まずは、ガイドラインの要件1つめについて。これは、「資産の所有やおカネのやりとりに関して、会社と経営者が明確に区分・分離されているかどうか?」です。
これに関して問題になる事例を挙げると…
- 社長に対する貸付金がある。しかも金額が増え続けている
- 多額の仮払金が、貸借対照表に掲載されている
- 社長が会社に貸している不動産の賃料が相場よりもだいぶ高い
- 交際費の金額が同業他社に比較してかなり多い
これらに該当すると、銀行が経営者保証の解除をできない理由になりえます。いずれのケースも、端的にいえば、「会社のサイフと社長個人のサイフ」がごっちゃになっている…ということです。
社長に対する貸付金は、完全に解消するか、解消するための具体策を講じる必要があります。仮払金もまた、内容を精査して、しかるべき経理処理をしなければいけません。
不動産の賃料については、長年にわたり、賃料を改定していない場合には気をつけたほうがよいでしょう。いちど、近隣相場を調べて、必要があれば改定することをおすすめします。
また、交際費にも注意が必要です。社長は「必要経費」だと考えていても、銀行からすると「冗費」との見方はあるものです。たとえば、接待飲食代、贈答品代、ゴルフプレー代など。
同業他社水準(対売上比率など)を確認して、比較してみるとよいでしょう。水準については、銀行担当者に質問をしてみて、アドバイスしてもらうのも1つの方法です。
要件2/財務基盤の強化
続いて、ガイドラインの要件2つめについて。これは、「財務基盤が強化されていて、会社のみの資産や収益力で返済が可能であるかどうか?」です。
これに関して問題になる事例を挙げると…
- 債務償還年数が長すぎる(目安として 15年以上)
- 経常利益が赤字になっている
- 社長個人からの借入金がある。しかも金額が増え続けている
これらに該当すると、銀行が経営者保証の解除をできない理由になりえます。いずれのケースも、端的にいえば、「返済できるだけの利益を出せていない」ということになります。
債務償還年数とは「(借入金 ー 現金預金)÷(税引後利益 +減価償却費)」であり、現状の利益ペースだと、いまある借入金を何年で返済できるのか? をあらわす指標です。
長くても 15年、できれば 10年以内を目指しましょう。そのためには、利益を増やすことです。そうすれば、経常利益が赤字になるということもありません。
なお、いま現在の利益が不十分ではあっても、実現可能性が高い経営計画書を作成・提示したうえで、相応の達成率(80%ていど以上)があれば、債務償還年数が改善する「見通し」をもって、経営者保証を解除してもらうことは可能です。
また、実際に利益が出ていたとしても、社長個人から会社がおカネを借りているようだと、問題になるケースがあります。そのおカネがなければ、会社の資金繰りが回らない、と見られるからです。
つまり、「会社のみの資産や収益力で返済が可能」とは言えない、ということになってしまいます。結果として、経営者保証を外せずにいる会社もあるので、気をつけましょう。
この点、利益が出ている会社であれば、社長からの借入金を返済するためのおカネを、銀行から借りられるケースもあります。メインバンクなどに相談をしてみるのもよいでしょう。
要件3/財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
さいごにもう1つ、ガイドラインの要件3つめについて。これは、「銀行に対して、適時適切に財務情報が開示されているか?」です。
これに関して問題になる事例を挙げると…
- 1年に1回、決算書しかつくっていない(試算表・資金繰り表はつくっていない)
- 試算表をつくっていても、その精度が低すぎる
- 中小企業の会計に関する基本要領に則って決算書がつくられていない
- 決算書に粉飾(利益・資産の水増し)がある
これらに該当すると、銀行が経営者保証の解除をできない理由になりえます。いずれのケースも、端的にいえば、「情報不足あるいは、情報が不正確」ということになります。
まずは、定期的に銀行と接点を持つこと、定期的に報告をすることが大切です。そのきっかけとして、四半期にいちど、試算表や資金繰り表を提示しながら近況報告をするのがよいでしょう。
なお、その試算表の精度が低いと逆効果です。たとえば、棚卸を毎月していないとか、減価償却をしていないとか、売掛金や買掛金を計上していない(現金主義で経理している)とか。
そのあたりは、顧問税理士にも相談をして、精度を上げていきましょう。あわせて、「中小企業の会計に関する基本要領」についても、税理士に確認をしておくべきポイントです。
社長が知らないまま、税理士任せで、基本要領に反した決算書をつくっているケースが散見されます。結果として、銀行から決算書の信頼を得られないことがあるので、注意が必要です。
ちなみに、粉飾があれば経営者保証の解除に応じてもらえないのは、言うまでもありません。それ以前に、融資そのものが受けられなくなってしまうでしょう。
まとめ
会社の銀行融資について。経営者保証の解除ができずに困る問題事例を取り上げてみました。経営者保証に関するガイドラインの理解を深めるためにも、押さえておきましょう。
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
- 財務基盤の強化
- 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保