脱コロナを迎え、倒産する会社の増加が心配される状況です。はたして、自社はだいじょうぶなのか?倒産には兆候があります。その兆候を見逃さないように、リスク分析に取り組みましょう。
経営自己診断システム、使ってる?
脱コロナを迎えた2023年は、倒産する会社が増加した…という調査結果が公表されています。いわゆるゼロゼロ融資の返済本格化や、円安、人件費高騰などもあいまって、今後も倒産の増加が予想されるところです。
ひるがえって、自社はだいじょうぶなのか?と、いわれても。そんなことは、わからない。一生懸命にがんばるしかない。たしかに、そのとおりではありますが。
放っておけば気づかない、自社の倒産兆候に気づけるかもしれない「方法」があることはご存知でしょうか。それは「リスク分析」です。
いくつかの指標について、自社の数字と、倒産した会社の数字とを比較することで、自社に倒産の兆候があるのかどうかを探ることができます。
って、倒産した会社の数字とどうやって比較するの?というのであれば、安心してください。すでに、ツールとして用意されています。中小企業基盤整備機構が提供している「経営自己診断システム」です↓
ネットから、誰でも無料ですぐに利用できます。用意するものは、2期分の決算書。あとは、入力画面で数字を埋めていくだけ。10分くらいあれば、入力もできるはずです。
このお手軽さ、利用しない手はありません。決算書の数字も毎年変わるのですから、決算がおわったら、経営自己診断システムに入力するのを「恒例」にするとよいでしょう。
で、入力がおわると、結果が出力されるので、そのなかに含まれる「倒産リスク分析」から、自社の倒産兆候をつかむことになります。
倒産リスク分析の注目指標
経営自己診断システムの倒産リスク分析では、10の指標が取り上げられています。それらの指標について、自社の数字と、倒産した会社(デフォルト企業)の中央値、さらには業界中央値と比較をすることが可能です。
なので、決算書で自社の数字だけを見ていても気がつかないことでも、リスク分析によって気がつける可能性が高まります。早く気づくほど、改善に向けて早く手を打つことができるのがメリットです。
ですが、ややもすると「指標(数字)なんかで、倒産の兆候がわかれば苦労はしない」と、おもわれるかもしれません。たしかに、指標から倒産の兆候を100%つかむのは不可能です。
いっぽうで、倒産する会社には、「共通の兆候」があらわれることもまた事実。ゆえに、自社の数字にも、その兆候があらわれていないかを知ることが「有効」だと考えます。
と、前置きが長くなりましたが。実際に、経営自己診断システムの倒産リスク分析で取り上げられている指標がこちらです↓
- 自己資本比率
- 流動比率
- 当座比率
- 固定長期適合率
- 減価償却率
- 手元現金預金比率
- 借入金月商倍率
- 借入金依存度
- 預借率
- 売上高支払利息割引料率
このうち、とくに重要性の高いものについて、3つほど解説をしてみます。
自己資本比率
算式は、「(純資産合計÷資産合計)×100」です。
メジャーな指標であり、社長であればご存知のことでしょう。ところが、意外と軽視されていることがあります。それは、「自己資本比率が高いから安全とは限らない」という見方です。
たしかに、銀行などもそのような見方をしています。自己資本比率が高くても、預金が少ない会社は倒産する可能性が高いからですね。なので、自己資本比率の「高さ」に対する注目度が低いのは、理にかなっているといえるでしょう。
ただし、自己資本比率の「低さ」は要注目です。なぜなら、倒産する会社の多くに、自己資本比率の低さという兆候があらわれるからです。よって、銀行も自己資本比率が一定水準以下になると、融資を躊躇するようになります。
では、一定水準とは?ここで、経営自己診断システムが役立つわけです。同システムのリスク分析からわかる「倒産した会社の中央値」と、自社の数字とを比較してみましょう。
似通っているようであれば、要注意です。自社の数字が上回っているとしたら、こんどは「業界中央値」とも比較をしてみます。それを下回っているようだと、銀行などからは「業績が悪い会社」と見られ、融資が受けにくくなっている可能性が高いです。
業界中央値は、超えるべき目標としても役立ちます。
手元現金預金比率
算式は、「(現金・預金÷売上高)×100」です。
売上に対して、どれくらいの現金預金を持っているかをあらわします。さきほど、自己資本比率が高くても、預金が少ない会社は倒産する可能性が高い、という話をしました。
そこで、この指標の出番です。自己資本比率が高いけど、手元現金預金比率が低い会社は意外とあります。黒字ではあるけど、いつも資金繰りがカツカツ…みたいな。
そういった会社もまた、銀行から見れば不安であり、融資が受けにくくなるものです。銀行対応という点では、手元現金預金比率は10%くらいを1つの目安に置いておくとよいでしょう。
そこを下回るようだと、銀行融資が受けにくくなります。では、どうやって手元現金預金比率を高めればよいのか。正論であれば、利益を増やしておカネを貯めることでしょう。
ですが、出せる利益にも限りがありますし、利益には波もあります。そこで、銀行融資です。手元に置いておく現金預金を増やすために、銀行から借入することも検討しましょう。
極論をいえば、銀行は借入の多い会社を嫌うのではありません。現金預金が少ない会社を嫌うのです。このときの現金預金は、借りたものであってもかまわない。それを理解していない社長も少なくありません。
倒産リスク分析の指標のなかに、借入金月商倍率があります。算式は、「(短期借入金+長期借入金)÷(売上高÷12)」です。この数値が高いほど、借入が多すぎることをあらわします。
ただし、借入金月商倍率が高くても、手元現金預金比率も高い場合には、「特に問題がない」といえることもあるわけです(借入が多くても、預金で返済することができるから)。
というわけで、1つの指標だけで倒産リスクを判断するのではなく、複数の指標との関連にも目を向けながら、判断するようにしましょう。
売上高支払利息割引料率
算式は、「(支払利息割引料÷売上高)×100」です。
売上高に対する支払利息・割引料の比率をあらわすものであり、利息負担の状況をあらわします。この値が大きいということは、売上が少ないか、利息が多いかです。
売上が少ないとは、借入に比べると売上が少ない、ということでもあります。すると、売上に対する利息負担は大きくなるからです。この場合には、売上を増やしましょう、ということになります。
いっぽうで、利息が多いという点では、今後は注意が必要です。近いうちには、日銀によるマイナス金利の解除が予想される状況であり、結果として、融資金利の上昇が見込まれます。
となれば、売上高や借入額が変わらずとも、支払う利息は増えるので、売上高支払利息割引料率は高まることになるでしょう。放っておけば、倒産の引き金や要因になることはありえます。
そこで重要になるのが、金利交渉です。これまでは「超低金利」の時代でしたから、金利交渉をしなくても、問題になることはほぼありませんでした。ところが、世の中の融資金利が上がれば、交渉できるかできないかで、金利の格差が生じます。
よって、社長は金利交渉について学ぶことも必要です。そのうえで、売上高支払利息割引料率の数字を、倒産した会社の中央値や、業界中央値と比較することで、自社の金利交渉の巧拙をはかるとよいでしょう。
なお、金利交渉の考え方や方法については、動画にまとめましたのでご参考にどうぞ↓
まとめ
脱コロナを迎え、倒産する会社の増加が心配される状況です。はたして、自社はだいじょうぶなのか?倒産には兆候があります。その兆候を見逃さないように、リスク分析に取り組みましょう。