銀行の貸し出しが増えています。しかも、過去最高を更新するほどに。ところが、自社は借りにくい状況にあるのはなぜなのか?その理由について、お話をしてみることにします。
銀行の貸し出しは過去最高、なのに…
銀行の貸し出しが増えています。全国銀行業界が公表した「預金・貸出金速報」によれば、2023年12月末の貸出金残高は、580兆3,280億円で過去最高を更新しました。
ということは、銀行はドンドンおカネを貸しているのであり、だとすれば、会社はおカネを借りやすいはずだ。でも、自社はけして借りやすいわけでもなく、まわりでも同じようなハナシを聞く…
いったいどっちが真実なのか?借りやすいのか、借りにくいのか?
というわけでこのあと、銀行の貸し出しが増えているのに借りにくい会社がある理由について、お話をしてみます。自社が借りにくい状況にあるのならばとくに、内容を押さえておきましょう。
放っておくと、ますます借りにくくなってしまい、資金繰りに支障をきたすことになりかねません。
ずばり、二極化しているから
銀行の貸し出し自体は増えている。いっぽうで、借りにくい会社もある。いったいどっちが真実なのか?どちらも真実であり、事実です。だとすれば、導き出される答えはひとつ…
借りやすい会社もあるし、借りにくい会社もある。これが、銀行の貸し出しが増えているのに借りにくい会社がある理由になります。なお、ここで、さらに注目すべきは「二極化」です。
つまり、借りやすい会社と借りにくい会社の「差」が大きくなっています。借りやすい会社は、ドンドン借りられるいっぽうで、借りにくい会社はますます借りにくくなる…みたいな。
そのように二極化が顕著になった原因の1つは、新型コロナです。あたらしい生活様式に変化した社会のなかで、旧態依然の事業を続けていた会社は厳しさを増しました。
それに対して、事業再構築に取り組み、あたらしい生活様式にも対応した会社は、コロナ禍を耐え、コロナ後には大きく業績を伸ばしていたりもします。両者の差は、けして小さくありません。
加えて、急激な円安や物価高騰、人件費高騰など、コロナ後も会社を取り巻く環境は変化を続けています。それらについても、対応できる会社と対応できない会社とに分かれました。
結果、コロナ禍でもコロナ後でも、変化に対応し続けた会社と、対応し続けなかった会社とで、業績の二極化が進むことになったわけです。そのような状況を見た銀行は、何を考えるのか?
良い会社には、ドンドン貸そう。そうすれば、悪い会社にまで貸す必要もない。よい会社にドンドン貸してもうければいい。
実際、良い会社というのは、売上を伸ばして運転資金が増えますから、資金ニーズも増えていきます。将来に向けた、前向きな設備投資による資金ニーズもあるでしょう。銀行は貸したい放題です。
悪い会社に貸さないのはなぜ?
二極化が進むと、銀行は悪い会社には貸さないといいました。理由の1つは、手間が減るからです。
たとえば、とある銀行がこれまでは良い会社・A社と、悪い会社・B社とに1,000万円ずつ、融資をしていたとします。でも、良い会社・A社に2,000万円を融資できるとしたらどうでしょう。
悪い会社・B社に融資をする手間が減ります。融資をするにも、銀行は審査や手続きの手間がありますから、コストがかかるわけです。そのコストは少なければ少ないほうがいい。
この点、2社に貸すのをやめて、1社に貸すことでコストを削減することができます。
また、コストは手間だけではありません。悪い会社への融資は、回収不能リスクがあるため、将来の損失に備えて引き当てをしなければならないこともあります。その引き当てもまたコストです。
なので、悪い会社への融資が増えると、銀行はコストが増えて採算が悪くなります。
二極化が進み、良い会社と悪い会社の差がはっきりとしてきたいまだからこそ、銀行は、融資を良い会社に集中させようとしている。ということを、理解しておきましょう。
ちなみに、悪い会社とは。いま現在の業績が悪い(利益が出ていない、預金が少ない・借入が多い)ことに加えて、経営改善に対する姿勢が見えない会社をいいます。
たとえば、赤字が続いて債務超過なのに、目に見える改善計画さえない…というのは典型例です。そういう姿を見た銀行の足が遠のくは間違いありません。
悪い会社はまだまだ借りにくくなる
悪い会社は、二極化によって借りにくくなるといいました。ですが、悪い会社の「悲劇」はまだ続きます。ほかの要因によっても、悪い会社はさらに借りにくくなるのです。
ほかの要因とは?1つが、いずれ起きるであろう金利上昇です。日銀によるマイナス金利の解除がまもなくだといわれています。その後は、利上げが進んでいくことになるでしょう。
すると、融資金利も多かれ少なかれ上昇していきます。会社は利息支払の負担が増えることから、銀行の審査は厳しくなる、つまり、より収益力が求められようになるのです。
だとすれば、悪い会社はますます借りにくくなります。あるいは、銀行の回収不能リスクが高い分、さらに高い金利でないと融資が受けられなくなるかです。いずれも、社長にとって好ましいことではないでしょう。
もう1つの要因は、経営者保証です。ご存知のとおり、経営者保証なしの融資が急激に広まっています。プロパー融資に関していえば、新規融資のうち半数近くが経営者保証なしの状況です。
つい10年ほど前は1割ていどであったことを考えると、大きな変化だといえます。今後もさらに、経営者保証なしの融資が増えていく(銀行が増やそうとしている)とどうなるか?
そもそも、経営者保証なしで融資を受けられるのは「良い会社」です。良い会社だからこそ、経営者保証を外せるのであり、悪い会社にまで経営者保証を外すものではありません。
この点、金融庁から経営者保証なしの融資を要請されている銀行は、良い会社に経営者保証なしで融資をすることを優先するでしょう。結果、銀行がもうかるだけのじゅうぶんな額の融資ができれば、悪い会社にまで融資をする理由はありません。
経営者保証をとるとなると、銀行は説明義務もメンドーなので、なおのこと「経営者保証を必要とするような悪い会社には貸さない」ともなるはずです。
そうして、悪い会社はまだまだ借りにくなることを、覚悟しておかねばなりません。冒頭で挙げた、「銀行の貸出金残高が過去最高」を鵜呑みにしてはいけない、ということです。
まとめ
銀行の貸し出しが増えています。しかも、過去最高を更新するほどに。ところが、自社は借りにくい状況にあるのはなぜなのか?その理由について、お話をしてみました。
自社が借りにくい状況にあるのならばとくに、内容を押さえておきましょう。放っておくと、ますます借りにくくなってしまい、資金繰りに支障をきたすことになりかねません。