「勘定科目なんてなんでもいいんですよ、どうせ経費は経費なんだから。」
フリーランス・個人事業主の確定申告の話となると、そんな言葉を目にしたり、耳にしたりします。
たしかに、そうなんだろうけど。でも、そういう人は言うんでしょうか?
「色・柄なんてなんでもいいんですよ、どうせ洋服は洋服なんだから」って。
フリーランスだからこそ勘定科目にこだわるという考え方
「勘定科目にこだわる」なんて言うと、その瞬間に毛嫌いされてしまいそうです。メンドーでおカタい感じだワって。
そこは「なんでもいいんですよ」って言っていたほうが、税理士としてはお客さまウケが良さそうです。だから、本当は言いたくないけれど。
でも税理士だからこそ。ここはあえてひとこと、言っておくことにします。
なんでもいいかどうかは、もういちど考えてみてはどうでしょう?
そんなわけで。「フリーランスの勘定科目」について、これから3つほどお話をします。それを聞いてなお、「なんでもいい」と言えるなら。それも考え方です。
- 「勘定科目はなんでもいい」が伝えたかった本当のこと
- なんでもよくなんてない、現実的な問題
- なんでもよくなんてない、あなた自身の問題
「勘定科目はなんでもいい」が伝えたかった本当のこと
「勘定科目なんてなんでもいい」というのは、ある意味その通りです。間違ってはいません。でも厳密には、こういうことだったはずです。
” 勘定科目が違っていたとしても、税金の計算上は差し支えない ”
理屈っぽいですねぇ、我ながら。でも、厳密には、正しくはそういうことだったはずです。
税金、つまりここでは所得税ということですが。所得税は、「所得 × 税率」で計算されます。所得とは平たく言うと「利益」みたいなものです。算式にすると、
所得 = 収入 - 経費
ですから、経費の「中身自体」は所得の計算に直接影響するわけではありません。経費が正しく「集計」されていればいいわけです。
勘定科目がなんであろうと、それが経費であれば所得は変わらない。所得が変わらなければ、税金だって変わらない。そんなイイじゃん、イイじゃんが高じて・・・
” 勘定科目なんてなんでもいいんですよ、どうせ経費は経費なんだから ”って。
だいぶ解釈が変わってしまったなぁ、と考えてしまいます。
「勘定科目が違っていたとしても」という「仮定」は取っ払われ、「税金の計算上は」という「前提」もなくなってしまいました。「差し支えない」という奥ゆかしい表現はどこへやら。
勘定科目なんてなんでもいいという「部分」だけをクローズアップしないように、というのがここまで1つめのお話です。
なんでもよくなんてない、現実的な問題
税金の計算をするための勘定科目であれば何でもいいでしょう。でも現実的には問題もあるけれど、というのがこ2つめのお話になります。
ズバリ、「対税務署・対税務調査」という観点で言うと。なんでもいいよ、とは言いづらい部分があります。
1つめのお話のとおり。たしかに、勘定科目がなんであろうと経費であるならば、税金の額は正しく計算できます。
とはいえ、いかがわしい勘定科目については税務署は「?」と気づきます。その「?」を調べに行こうかな、と考えます。税務調査です。
「いかがわしい」について補足をしておきますが、意味合いとしては「不自然」だということ。
わかりやすく極端に言えば。すべての経費が「接待交際費」という勘定科目で合計されているとしたら?ということです。そこまで極端なことはないにせよ。あまりイイ加減にやっていると「不自然」が生じます。
ある勘定科目の金額だけが目立って高いとか、ある勘定科目の金額が去年と比べてミョーに多くなっているとか。税務署はそういうところを見ています。
税務調査が好きだ、と言う人はあまりいないでしょう。不要な税務調査を避けるためには、「勘定科目はなんでもいい」を真に受けすぎないようにということです。
あともうひとつ。第三者への確定申告書の提示について。
フリーランス・個人事業主は銀行の融資などで、証明書として確定申告書を提示する場面が多々あります。場合によっては、勘定科目についても見られます。
勘定科目がヘンだからといいって、直接的に問題が生じることは「ほぼ無い」でしょう。でも、「イイ加減だなぁ」という感想は持たれるのかもしれません。
そんな感想はできれば持たれたくない、わたしはそう思います。
なんでもよくなんてない、あなた自身の問題
税務署や銀行のために勘定科目を考えるなんて真っ平御免だね、と言われるのであれば。その通り。強く同意します。いわゆる禿同。
じゃあ、「誰のために、何のために」勘定科目を考えるのか。答えはほかにありませんよね。「自分のため」です。
うわ~、綺麗ごとかい。と思われたかもしれませんが、これがさいご、3つめのお話です。
わたしは聞きたいんです。
” 色・柄なんてなんでもいいんですよ、どうせ洋服は洋服なんだから ”
ってあなたは言えるのですか?って。別に話をスリ替えて、はぐらかそうというわけではありません。
洋服も確定申告書も、その本質に変わるところがないので洋服の話を持ち出したまで。
幸せなことに(と言っていいでしょう)わたしたちの多くは、洋服を「自己表現」のひとつとして身につけているのではないでしょうか。
自分に合う色、自分に似合う柄、自分にフィットするシルエットなど。「自分・自己」に思いを投じて、その洋服を選んでいませんか?
どうせ洋服だからと、とんでもない色や柄のシャツを着たり、ダボダボのパンツを履いたりしませんよね。
そういう方であるのなら。確定申告書や決算書だっていっしょです。
あなたの仕事、あなたの事業を表現する「確定申告書や決算書」は洋服と同じです。「勘定科目」は洋服でいう色や柄。
勘定科目は、あなたの大事な仕事、あなたの大事な事業を表現するものです。あなた自身と同じようにあなたの大切なものを表現するもの。
だからわたしは、勘定科目をもう少し丁寧に扱ってあげてもいいんじゃないかなって感じてます。
まとめ
勘定科目について、わたしの考え方をお話してきました。ひとつの考え方であって、もちろん強要するようなことではありません。
そういう考え方もあるかな、と感じていただければ幸いです。ところで、
「フリーランス・個人事業主なんて、小規模で扱う金額も小さいんだから。税務署だってそんなに気にしないよ」
みたいなことを聞くことがあります。それって随分だな、と思います。「小規模で扱う金額が小さいから」なんだって言うのでしょう?
小さかろうがなんだろうが、その仕事・その事業はその人にとっては自分自身と同じく大切なものであるはずです。
だからですかね。「勘定科目なんてなんでもいいんですよ」と言われると、それも随分だよねと思うんです。
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きょうの執筆後記
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勘定科目をめぐって少々エキサイトしてしまいましたが。
経理にはポリシーが大切だと常々考えています。勘定科目に対する考え方もそのひとつです。
税金のための経理、税金のための確定申告ではモッタイナイ。というのが持論です。