銀行員は、取引先の資金繰りを理解できていない。と言われたら、「そんなはずはないだろう?」と、おもわれるかもしれません。だとすれば気をつけましょう。というお話をしていきます。
そして誰も理解できなくなった
会社の銀行融資について。取引をしている銀行、つまり、融資を受けている銀行には、自社を担当してくれている銀行員がいることが多いでしょう。
では、その銀行員が自社の資金繰りを理解できているのかといえば…けして、そうでもありません。だとすれば、どうなるか?
自社は融資が受けにくくなります。いうまでもなく、銀行にとって取引先の資金繰りは「重要な判断要素」のひとつだからです。資金繰りとはすなわち、おカネがあるかどうかであり、この先、返済ができるのかどうかをあらわすものでもあります。
この点、その昔の銀行員であれば、取引先の資金繰りを理解していた。ところが、いまの銀行員は、理解できなくなってしまった。って、おいおい、オマエは銀行員にケンカを売っているのか?と、おもわれるかもしれませんが。
これは、わたしだけが言っていることではなく、銀行員の方でも言われていることです。そういったハナシを、実際に、銀行員の方から聞いたこともあります。なので、事実なのでしょう。
ではなぜ、そのようなことになってしまったのか。その理由について、お話をしてみます。そのうえで、会社は銀行員に資金繰りを理解してもらう必要があるのですから、どうすれば理解してもらえるのかについても、お話をしてみることにしましょう。
銀行員が資金繰りを理解できなくなった理由
はじめに、どうして銀行員が取引先の資金繰りを理解できなくなったのか、についてお話をしてみます。
ひとことでいえば、「証書貸付ばかりになったから」です。ここでいう証書貸付とは、返済期間が長期(1年超)で、毎月分割返済の融資にあたります。
では、以前は証書貸付以外に何があったのか?手形貸付です。ここでいう手形貸付とは、返済期間が短期(1年以内)で、期日が来たら一括返済ではあるものの、銀行の審査のうえで期日を更新できる融資にあたります。
つまり、手形貸付の場合には、実質的に「借りっぱなし」にできるのが会社側のメリットです。そのように「借りっぱなしの手形貸付」は、短期継続融資(通称・短コロ)などとも呼ばれます。
短期継続融資の対象は、いわゆる「経常運転資金」です。経常運転資金とは「売掛金・受取手形+棚卸資産ー買掛金・支払手形」の金額であり、会社が事業を続けている限り必要になるおカネです。
これを短期継続融資で借りっぱなしにできれば、資金繰りが安定するよね。というのが、資金繰りのセオリーでした。なぜ、過去形なのかというと、昔はそうだったけれど、その後はそうではなくなったからです。
バブル崩壊後の不良債権処理の過程で、銀行にとっての「貸しっぱなし(会社にとっての借りっぱなし)」はヤバいよね、という認識が広がり、銀行は短期継続融資を証書貸付に切り替えていきました。
ここで、短期継続融資と証書貸付の違いを考えてみましょう。証書貸付であれば、銀行は放っておいても、毎月少しずつ回収することができます。いっぽうで、短期継続融資にはそれがありません。
だとすれば、ある日突然、融資先がつぶれてしまったら回収しそびれることになります。そんなことになったらタイヘンですから、短期継続融資をしている銀行は、取引先の資金繰りを把握するのがあたりまえだったわけです。
しかも、証書貸付は「信用保証協会の保証付き」であったりもするため、銀行にはますます「放っておいても大丈夫」との姿勢につながりました。
信用保証協会の保証付き融資とは、文字どおり、信用保証協会の保証が付いた融資であり、会社が返済できなくなった場合には、信用保証協会が肩代わりをして銀行に返済をおこないます。
というように、短期継続融資が減少し、代わりに証書貸付が増えて、さらには信用保証協会の保証付き融資となったことで、銀行員の「資金繰りを理解する必要性」は下がり、「資金繰りを理解する能力」も下がってしまった…というのが、ちまたで言われているハナシです。
それなら会社はどうしたらいい?
では、そのハナシが事実だとしたら(事実なのですが)、会社はどうすればよいのか。いやいや、どうもしなくてもよくない?と、おもわれるかもしれません。
なぜなら、証書貸付であれ、信用保証協会の保証付き融資でも借りられているからですね。ところが、経常運転資金を証書貸付で借りていれば、短期継続融資に比べて資金繰りが悪くなります。経常運転資金が大きい会社であればとくに、です。
また、新型コロナをへて、円安や物価高騰、人件費高騰などを受けた厳しい経営環境のなか、代位弁済が増えています。代位弁済とは、信用保証協会が肩代わりをすること、つまり、保証付き融資を返済できなくなった会社が増えているのです。
結果として、保証付き融資は以前ほどカンタンに借りられるものでもなくなっています。となると、会社はプロパー融資(信用保証協会の保証がない融資)を受けられるようにならねばなりません。
また、短期継続融資は以前に比べて増えてもいますが(金融庁が銀行に勧めている)、すべての会社が短期継続融資を受けられるものでもありません。
短期継続融資にしてもプロパー融資にしても、銀行にとってはリスクが高い融資ですから、やはりカンタンには借りられず。会社は、銀行に対して「判断の材料」を提供する必要があります。そのひとつが、「資金繰り」に関する情報です。
情報提供の具体的なツールが、「資金繰り表」になります。この点、「銀行員はみずから、取引先の資金繰り表をつくっている」と、いわれることもありますが。
100%つくっているわけではありません。繰り返しですが、銀行員の「資金繰りを理解する能力」は下がってしまっているからです。資金繰り表をつくれない銀行員もいる、と聞きます(銀行員の方から)。
だとすれば、「自社の銀行担当者は資金繰りをつくれないかもしれない」と考えておくのが無難です。そのうえで、会社はどうするか?
もはやいうまでもありませんが、自主的に資金繰り表を作成して、それを銀行担当者に提示・説明をすることです。それができれば、銀行担当者も資金繰りを理解しやすく、理解ができれば融資提案もできるようになるでしょう。会社にとってはメリットです。
とはいえ、言うは易く行うは難し、資金繰り表をつくれる・つくっている会社は多くありません。結果として、融資が受けにくくなっている会社が増えていますし、これからもますます増えていくものと考えます。
なので、会社は資金繰り表をつくれるようになること。そして、毎月その内容を更新し続けること(常に1年先までの資金繰り予定を把握する)。そのうえで、銀行担当者に対して、資金繰り表を定期的・継続的に提示・説明をすることです。
資金繰り表のつくり方については、動画をつくりましたので参考にどうぞ↓
まとめ
銀行員は、取引先の資金繰りを理解できていない。と言われたら、「そんなはずはないだろう?」と、おもわれるかもしれません。だとすれば気をつけましょう。
放っておけば、銀行融資が受けにくくなる可能性が高いからです。銀行員が、資金繰りを理解できていない理由を理解し、会社にできること(資金繰り表をつくる)に取り組みましょう。