自社の業績をよく見せるためにおこなわれる粉飾決算。そのデメリットは、意外と理解されていないようです。というわけで、あらためて粉飾決算のデメリットについてお話をしていきます。
知ってはいるけど、理解はできていない
会社の決算について、「粉飾決算」という問題があります。端的にいえば、「利益や資産を水増しする」ことを目的とした決算です。要は、ウソ偽りの決算書をつくることでもあります。
これだけを聞いても「悪いこと」だとわかるのにもかかわらず、なぜ、粉飾決算が散見されるのか?
いうまでもありませんが、外部に対して業績をよく見せるためです。中小企業における「外部」とは、おもに「銀行」だといってよいでしょう。銀行に対し、自社の業績をよく見せて、融資を受けようということになります。
おカネがなくなれば会社はおしまいなのですから、融資を受けるのも大事です。が、いっぽうで、粉飾決算によるデメリットもあることは、意外と知られていません。
「知られていない」というのは不正確な表現であり、「知ってはいるけど、理解はできていない」というのが正確な表現でしょう。だから、粉飾決算が「散見」されるのです。
そこで、本記事ではあらためて粉飾決算のデメリットを確認していきます。具体的には、次のとおりです↓
- 状況が把握できない
- 融資を受けられない
- 倒産の確率が上がる
それではこのあと、順番に説明をしていきます。
意外と理解されない粉飾決算のデメリット
状況が把握できない
そもそも、決算書をつくる目的は3つあります。税務署に提出する(税務申告する)ため、外部(銀行とか取引先とか)に情報開示をするため、そして、自社の状況を把握するためです。
このうち、もっとも重要なのは「自社の状況を把握するため」だといってよいでしょう。いま、自社はもうかっているのか・いないのか、どれくらいもうかっているのか・いないのか?
決算書はほかにも、数値(金額)という「客観的な尺度」でもって、自社の状況を示してくれます。社長が経営判断をするにあたっては、必須の情報が「決算書」なのです。
では、その決算書に記載されている数値が粉飾されていたら、つまり、ウソ偽りだとしたらどうでしょう?当然、社長は「正しい状況の把握」ができなくなってしまいます。
これでは、デタラメな地図を見ながら、山中を歩くようなものです。なので、粉飾決算をすれば、デタラメな情報によって経営判断をしなければならないことを理解しておきましょう。
誤ったインプット(粉飾決算)をすれば、誤ったアウトプット(経営判断)になるのは必然です。粉飾決算をするような会社は、ただでさえ業績が悪いのに、ますます業績が悪くなることでしょう。
そう考えると、粉飾決算は「自社をさらに追い込む愚行」だともいえます。
ちなみに、決算書は税務署に提出するために「やむなく」つくるものだ、という考えも誤りです。なかには、決算書をろくろく見もしない社長もいることをわたしは知っています。
地図も持たずに山中を歩くようなものであり、粉飾決算と同じくらいには危険な行為であることを理解しておきましょう。地図の見方がわからないなら、見方を勉強するところからスタートです。
融資を受けられない
銀行に粉飾決算が気づかれると、融資が受けられなくなるのもデメリットです。場合によっては、詐欺として訴えられるケースもあります。粉飾決算は、それくらい罪深いものなのです。
とはいえ、銀行は粉飾決算に気づけるのか?バレないことだってあるんじゃないの?と、おもわれるかもしれません。最近でも、とんでもない大粉飾がニュースにもなりました。
あれだけの大粉飾でも、銀行は融資をしていたみたいじゃないか、と。そのような大粉飾と、いち中小企業の一般的な粉飾とをいっしょにしてはいけません。まるでレベルが違います。
大粉飾を褒める意図はまったくありませんが、ふつうはそこまで手の込んだ粉飾などできません。結果として、お粗末な粉飾決算によって、銀行にはカンタンに見抜かれてしまうのです。
いやいや、ウチは粉飾をしているけれど銀行からは何もいわれないよ?という猛者がいるかもですが。それは、見抜かれていないのではなく、気づかぬフリをしているだけです。だとすれば、猛者ではなくて愚者でしょう。
銀行は、会社との直接的なトラブルを避けるために、粉飾の指摘はしないまま、新規融資を断ることで対応しているケースがあります。いずれにせよ、融資が受けられなくなるのは、粉飾決算のデメリットです。
銀行融資は、中小企業にとって生命線。大企業のように、豊富な資金調達手段を持たない中小企業が、銀行融資なしに経営を続けることがいかに無謀であるかを、社長は理解しておきましょう。
しいてたとえるならば、なんの食糧(≒ 融資)も持たずに、自給自足(≒ 自己資金)で山中を歩き続けるようなものです。
倒産の確率が上がる
ここまで、粉飾決算のデメリットとして「状況が把握できない」「融資を受けられない」という話をしました。その結果ということでもありますが、3つめのデメリットが「倒産の確率が上がる」です。
社長が、自社の状況を正しく把握できないと、より業績が悪くなるといいました。よって、倒産の確率は上がることになります。
銀行から融資が受けられなければ、その分、資金繰りは悪くなりますから、やはり倒産の確率は上がります。倒産は、社長がもっとも避けるべきものですから、その確率が上がるのは「このうえないデメリット」です。
とはいえ、粉飾決算をしていても、状況は把握できるはずだし、融資も受けられるはずだと考える社長がいます。つまり、粉飾した決算書とは別に、「真実の決算書」もつくっておけばいい、と。
たしかに、「理屈」としてはそうでしょう。ですが、粉飾した決算書と真実の決算書、2つをつくる手間、それらを使い分ける手間はとても現実的とはいえません。
それに、その手間や労力は「経営改善」に充てるのが、根本的な問題解決でもあります。自社の限られたリソースを、粉飾決算(ウソ偽り)に使うなど本末転倒であり、愚行です。
また、いちど粉飾決算に手を染めると、もとに戻すことが難しくなります。たとえば、100万円の架空売上を計上したとして。その粉飾決算を正すために必要な売上はいくらでしょうか?
100万円ではありません。仮に、売上総利益率が40%だとしたら、100万円の架空売上(=架空利益)を正すために必要な売上は250万円です(100万円 ÷ 40%)。
というように、100万円の粉飾決算を正すためには、「100万円の売上」ではなくて「100万円の利益」が必要になります。ゆえに、いちど粉飾決算に手を染めると、もとに戻すのが困難なのです。
まとめ
自社の業績をよく見せるためにおこなわれる粉飾決算。そのデメリットは、意外と理解されていないようです。というわけで、あらためて粉飾決算のデメリットについてお話をしました。
粉飾決算は、いちど手を染めると、足を洗うことが困難になる「中毒性が高い行為」です。ついつい…などと、出来心での粉飾決算が「命取り」になることを覚えておきましょう。
- 状況が把握できない
- 融資を受けられない
- 倒産の確率が上がる